HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

店頭を生かすEC。

2017-08-30 05:21:12 | Weblog
 デイリーアパレルの勝ち組「しまむら」がネット通販に参入するという。http://diamond.jp/articles/-/139502 同社は地方都市のターミナルや郊外に出店し、その低坪効率、低荒利益にも関わらず、高い営業利益を稼ぎ出してきた小売りの雄だ。それゆえ、単に時代の流れや競合他社を意識したとは考えにくい。背景にはどんな狙いがあるのか。今回は考えてみたい。

 一般にネット通販に参入するのは顧客の利便性向上、販売チャンネルや市場の拡大、オムニチャンネル構想などが挙げられる。しかし、自社でECインフラを整備するには、莫大な投資が必要だ。しまむらは低い坪効率や荒利益を原資にして、あの低価格を実現してきた。それゆえ、こうしたビジネス戦略の手法を見れば、経済誌が断じる「ネット化の波には抗えなかった」という理由は、あまりに短絡的すぎる。

 むしろ、筆者はしまむらが追求して来た情報武装と高度なシステムを革新する手段にすることこそ、ネット通販参入の意図ではないかと思う。

 しまむらはチェーン店としてセントラルバイイング制をとっている。これは簡単に言えば、本部のバイヤーがアパレルメーカーから一括して商品を仕入れ、ディストリビューターが店舗毎に型、色、サイズ、数量を仕分けしてデリバリーするものだ。

 全店舗がオンラインで結ばれた単品管理システムを導入しているため、商品の動きがつぶさにわかる。各店舗から送られてくるPOSデータをもとに商品の投入、移動のコントロールがなされ、プロパーで90%という高い消化率を実現しているのである。

 つまり、値下げ率が極めて低いのは、この単品管理の精度が高いからだ。特にロスの少なさは、商品が店頭限りの「売り切れご免」で、フォローや補充をしない点にある。また、「商品を売れない店から売れる店への店間移動させる」システムにより、プロパーでの消化率を高めている。

 もちろん、商品は完全買取で返品は一切ない。取引に対するスタンスはあくまで共存共栄だから、アパレルもしまむらに有利な条件を出してくれる。低荒利率でもきちんと利益を確保できているのだ。

 しまむらはネット通販について、具体的な方向性は示していない。だが、筆者はICタグを商品に貼り付けることによる管理精度のアップに、店間移動システムとECをリンクさせることで、機会ロスを抑えて商品の消化率をさらに上げる狙いではないかと考える。つまり、商品写真やスペック、価格などを掲載し、お客が直接購入できるサイト販売とは異なるECである。

 しまむらは売り切れご免を取るため、店頭の在庫が売り切れたからと同じ商品をバックルームから出して並べることはない。そのため、「先日、こんな商品を見たんですが、もうありませんか」とお客に聞かれると、スタッフは店頭に並んでなければ、「あいすいません。売り切れました」と、答えるしかない。

 仮にお客がほしい商品を探せるとしても、それは全社的な在庫コントロールのもとで、店間移動の中に商品が含まれているかもしれないという宝探しに近い確率になる。

 ところが、お客向けに対し、オープン化した単品管理システムとECをリンクさせるどうだろう。店頭にタブレット端末を置くことで、お客が店頭で欠品した商品を購入したい場合、そのアイテム名、サイズ、色などをわかる範囲で入力すると、他店在庫の検索が可能になる。お客は商品在庫があれば客注し、店間移動システムで店舗まで配送してもらえばいいのである。ざっとこんな感じか。さしずめC to Bの電子商取引とでも言おうか。

 具体的なケースを想像してみよう。例えば、お客がヤング業態の「アべイル」でトレンドのワイドパンツをとりあえず1点購入したとする。ところが、穿いてみると意外にしっくりきた。価格が安いのでもう1点、色違いを購入したい。そんなことを考えるお客は他にもたくさんいるはずだ。すると、たちまち人気商品になってしまい、行きつけの店舗では売り切れ、欠品してしまうケースが考えられる。

 店舗単位ではフォローや補充はしないので同じ商品は入って来ず、別のデザインやアイテムを探すしかない。これまではそうした流れだった。ところが、当然のことながら、他店には在庫があるかもしれないのである。異常気象で全国各地で猛暑になっているものの、 日本列島は縦に長いので、南は暑く、北は寒い。デイリーアパレルは体感温度にファッションカレンダーをリンクさせないと、商品は売れない。

 秋の訪れが早い東北ではワイドパンツが欠品してしまったけど、残暑が残る関西や中四国、九州の店舗ではまだ在庫しているかもしれない。それらのエリアでは実需はまだ先だから、しまむらとしてはお客が購入したい「機会」の方を優先し、客注を受けて店間移動させ、店舗で販売すればいいのである。もし、お客が気に入らなかったとしても、在庫をしておけば、他の客が購入する可能性は高い。

 こうしたケースは、しまむらの「楽ちんプルオンパンツ」でも、色違いを求めるニーズは同じだろう。また、道端アンジェリカがプロデュースする「J’aime le blue」は、彼女のファンが顧客のほとんどだろうから、全国各地に点在していると考えられる。欠品した場合の入手方法はECの方が適するし、抵抗もないはずである。

 子供服のバースデーではどうだろうか。子供たちが同じアイテムの色違いを「大人買いしたい」と望むケースは希かもしれない。まあ、購入するのは親、祖父母、ギフト用の客などだから、他と同じく欠品した商品の客注だろう。サプライズのプレゼントとして、まとめ買いするようなケースでは、別の客注ニーズが発生するかもしれないが。いろんな仕掛けが考えられるのは事実である。


 しまむらのような低価格の商品は、ダイレクト受け取りのECにはそぐわない。お客が自宅まで配送してもらうとなると、配送料の方が高くつくからだ。そこで店間移動で店舗まで配送してもらい、お客は店舗で受け取り、購入できるようにする。C to Bなら何ら問題はない。これまで店舗が見逃していた販売チャンスが生まれ、新たな市場が開拓できることになる。

 まあ、店間移動については、ECが普及するはるか前から、大手・中堅のチェーン店では行われていた。商品の単品管理は別にしまむらが先駆者というわけではなく、チェーン店はではどこもコンピュータによる管理システムを導入していた。筆者がいたアパレルの取引先にも何社かあった。それにECを連動させることが新しいのである。

 当然、店間移動を活用すれば、客注を受けると店舗と物流センターをつなぐシャトル便が在庫のある店舗から客注品を一旦集荷し、センターで配送先店舗へのシャトル便への積み替えを要することになると思う。通常のネット通販よりも余分な手間がかかり、店着までに多少の時間を要することになる。

 それでも、100%自社物流のしまむらだから、せいぜい1日2日くらいではないだろうか。お客には購買意欲と商品ゲットのタイムラグはほとんど気にならず、しまむら贔屓のシマラーなら十分に許容範囲だと思う。しまむらにとっても100%自社物流、チャータートラックによる専用便、夜間配送などのインフラを最大限に活用できるから、余分な物流コストがかからず好都合なのである。

 ネット通販において配送のスピードを競っているのは、得てして販売側の都合だと思う。それがアウトソーシングであるのに、配送業者に負担がかかるのはお構いなしと考えるEC業界こそ、物流を疲弊に追い込んでいるのではないのか。しかし、しまむらは自社が持つ単品管理、店間移動にネット通販を組み合わせることで、配送業者に負担をかけること無く、独自のECを構築しようという考えにみえる。

 経済系メディアがいくらしまむらは「ネット通販を拒み続けていた」「実際は展開には踏み切れなかった」と時流への乗り遅れを指摘したところで、それはお得意の近視眼的見方に過ぎない。小売業として決して他社を寄せつけない強みを持っている以上、EC参入は強者の論理からして、しまむらをさらに強固な体質にしていくと思う。

 あとはシマラーがしまパト(しまむらパトロール)にネット客注のサービスをどう生かし、しまむらの新たな一面を喧伝してくれるかである。おそらく消費者目線で、ネット客注サービスを是々非々でこと細かく解説してくれると、期待する。当然、「私も試してみた」との書き込みもあるだろうから、あとは店舗ごとにサービスの標準化をどこまで徹底できるかである。

 ネット通販は家賃や人件費などのコストが抑えられ、マーケットが広がるので販売機会が増えて売上げがアップすると、見られがちだ。これは仮想空間でのビジネスという考え方である。しかし、それが成り立つにはあくまで商品在庫を持つことが前提で、魅力ある商品でなければ売れない。まあ、転売屋が存在できるのは、同じ商品やブランドを他店も扱っているからで、独自商品のしまむらには何ら影響はない。

 ただ、自社サイトではお客のヒット率やコンバージョンレートの問題から、どうしてもアマゾンやゾゾタウンなど大手ネットモールに出店するのが多数派だ。ところが、その販売手数料はアマゾンが20%程度に対して、ゾゾタウンは新規出店で35%くらいまでに引き上げられていると言われる。

 これでは駅ビルやSCに実店舗を出店するのと、変わらなくなっている。さらに返品OKなど差別化へのサービス競争はますます激化してきているし、物流の問題から配送費の値上げ、顧客負担という新たな問題も生じている。

 しかし、しまむらは国内2000店という店舗網をもち、そこには莫大な在庫を抱えている。これらに既存の単品管理、店間移動、物流体制というインフラを駆使し、自社流のECを創り出そうということであれば凄いの一言だ。まさに店頭を生かすしまむらのECは、さらなる宝の山を掘り起こしそうである。
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