HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

荷物誤載のために?

2017-08-16 05:39:17 | Weblog
 盆休みと言うか、サマーバケーション、民族大移動の週間なので、今回は旅行ネタに業界ニュースを絡めて論じてみたい。

 筆者が初めて海外旅行に出かけたのは1979年。新東京国際空港、いわゆる成田空港の開港2年目で、当局がまだまだ過激派テロを警戒していた頃だ。上野発のスカイライナーを空港手前の成田駅で降ろされ、駅の別室で手荷物やボディチェックを受けた。もちろん、ノープロブレムで空港までバスで連れていってもらった。

 初めての海外旅行なのに、いきなり水を差されたとも言えるが、自分ではなかなかできない体験に恥と言うより旅の肥やしとして、今も語り継いでいる。

 成田空港は江戸の情緒が残る東京とは打って変わって、未来都市を彷彿させる別世界。闘争の余波が多少は残っていたものの、田園地帯に空港ビルだけがポツンと立つ姿は何とも壮観だった。空港内のトイレで用を済ませて手を洗うと、都内のデパートでも見ない手拭き専用の給紙器が備えてあった。外国人が数多く訪れるため、むこうの文化に合わせたのだろうか。日本を飛び立つ前なのにカルチャーショックを受けてしまった。

 日本航空の海外路線では目的地まで無給油で飛べる飛行機は導入されていなかった。搭乗したJAL008便はDC10型機で、北ウイングから飛び立つとアラスカのアンカレッジを経由した。成田を飛び立って8時間、一旦降ろされて給油に約1時間、それからまた8時間フライトし、ようやくJFKエアポートに到着した。

 当時、ニューヨークに出かける日本人は、出張や転勤となった銀行や商社のビジネスマンか、音楽や芸術、舞台のアーチスト、それらを学ぶ留学生を除けばそれほどいなかった。飛行機の座席で隣り合わせた人は左が嫁いだ娘さんに会いに行くというお母さん、右はFinanceやAssetとかの単語が並ぶ資料に目を通す金融マンらしき人だった。

 JFKで日本航空の到着スポットはかなり端っこにあった。今のようにボーディングブリッジなんかない時代、タラップを降りると護送車のようなバスに乗せられ、空港ビルの通路入口で降車した。そこにいた警備員のおばさんが黒人で、ヒップ回りが2m近くもありそうな巨漢だった。映画やCMでは絶対に見ることのない、リアルな米国人にいきなり度肝を抜かれてしまった。

 イミグレーションへの通路は天井高が3mはあるようなコンクリートのトンネルで、今のような有名ブランドや観光案内のサイン広告など全くない。まるで刑務所にいるかのような錯覚を覚えながら10分程度で歩くと、ようやくバゲージカルーゼルに辿り着いた。荷物を受け取り、クレイムの半券を見せて、スタッフの誘導で無事にイミグレーション、カスタムを終え、「ようこそ合衆国へ」を実感した。

 しかし、ここでいきなりリアルなニューヨークに直面する。空港ロビーでは白タクのドライバーが結構多く、客引きに勢を出していた。それとは知らないお客の荷物をトランクに積み込もうとする輩もいて、警備員がポリスを呼ぶ一幕もあった。

 タクシーに乗るならルーフに行灯が載っているイエローキャブを選べとは聞いていたが、順番を待って何とかまともな車に乗ることができた。去り掛けに娘に会いに行くというお母さんが「お気をつけて」と挨拶してくれたのが、とても心強かった。

 ハイウェイを北に走り、フラッシング手前で西に折れて1時間ほど、クイーンズ区まで来るとようやく眼前にSkyscraperが見え、ホッとすることができた。ドライバーが意外に気さくでぼったくられることもなく、 長旅の疲れも時差ボケもほとんど負担には感じなかった。

 ニューヨーク州は犯罪都市というネガティブなイメージを払拭するため、 ジャズメンたちが呼んだニックネーム「ビッグアップル」とともにアイラブニューヨークキャンペーンを展開中だった。前年には同市のグラフィックデザイナー、ミルトン・グレイザーによるあのハートをモチーフにしたロゴマークも誕生していた。

 だからと言って、犯罪の街が急に浄化されるはずもない。現地ガイドからはハーレムやブロンクスには行かない方が良いと言われたし、日没後のセントラルパークや夜間の地下鉄も無事に帰国したければ、避けた方が良いとのことだった。安全なメーンストリートでさえ、信号で停車した車のフロントガラスを勝手に磨いてチップを要求する輩を頻繁に見かけた。

 それでも、筆者は夜間にジャズを聞きに行ったし、その帰りに地下鉄にも乗った。セントラルパークの一角にあるレストラン、タバーンオンザグリーンでウエルカムディナーも楽しんだ。しかし、幸いなことにも危険な目に遭うことはなった。ストリートミュージシャンにチップを渡すことにもすんなり入っていけた。

 ただ、安全であるはずの駅や郵便局といった公共施設で、犯罪都市の一端を垣間みたのが自動販売機に「OUT OF ORDER」の張り紙がしてあることだ。大学受験の単語集に必ず出てくる「故障中」という慣用句である。

 日本でも自販機が故障することはあるが、ニューヨークでは誰かが意図的に壊していた。いくら修理しても、ビルやスモールチェンジを盗む輩が後を絶たないから、設置者は壊されると修理を躊躇うとの話を聞いた。その後は防犯対策も整っていったようだが、わずか数ドルの商品を売るために何百ドルものセキュリティコストを払うのは、合理的な考え方の米国人なら割に合わないはずだ。だから、自販機そのものの設置を避ける人もいるかもしれない。

 諸外国の主要都市でも移民による暴動が増えていることで、自販機が放火や破壊の対象にならないとも限らない。特にテロ対策という別の次元から、管理の目が行き届かない場所や屋外で自販機が撤去される傾向のようである。まだまだ安全な日本からすれば、世界とはかなりの開きがあると感じるが、オリンピックイヤーに向けてどうなるのだろうか。

 一方で、小売業が収益を上げる上で、店舗や人件費の削減は必須条件になっている。今や店を持たない無店舗販売は通販をはじめとして完全にチャンネルを確立した。自販機も性能やセキュリティ対策が充実し、海外でも見直されている。

 2012年、東京銀座にオープンしたコムデギャルソンのDOVER STREET MARKET GINZAには、Tシャツを購入できる自販機が登場した。コムデギャルソンではくしゃくしゃにしたTシャツの真空パックを売り出していたが、パック詰めの商品ならそのまま自販機で販売できなくもない。

 ビジネス的に考えると、棚で展開すれば試着で乱れた商品は畳みなおす手間がかかる。当然、人件費がかかるわけで自販機ならその必要もない。おまけに屋内だから防犯も担保される。試着できないというマイナス面を割り引いても、コムデギャルソンがもつブランド力ゆえにTシャツというアイテムをお客が自販機で購入する行為がパフォーマンスとなり、流行の一端を示すこともできる。

 自販機でのTシャツ販売はコムデギャルソンが最初だったかどうかはわからないが、2013年にはベルリンの広場にも別ブランドのものが登場している。こちらは1枚2ユーロと格安で購入しようとすると「このTシャツは時給13セント、1日16時間の過酷な労働の上になりたっています。それでもあなたは、このTシャツを購入しますか」という商品の生産背景を紹介する動画が流れる。

 最後には「募金をする or 購入する」というボタンがでてくるが、販売スタイルの新しい形と言うより、大衆にファストファッションの現状を知ってもらう高いメッセージ性が込められたものだ。無店舗販売のための単なるツールだけでないのはもちろん、セキュリティがどうだのとかの理屈さえ抜きにして、メッセージ発信の道具として機能させる意味では非常に興味深い。



 ウエアの自販機では、ユニクロがウルトラライトダウンのジャケットやヒートテックのトップの自動販売機「ユニクロ・トゥー・ゴー」を北米の空港やショッピングモールに設置し始めている。同社の場合は、パフォーマンス性やメッセージ発信というより、トラフィック業態やプロモーション、集客喚起の位置づけではないかと思う。

 米国の空港では荷物が誤って別の飛行機に載せられることは未だにあるようだし、国土が広いため空港がある地域によって気温の差は激しい。春先に出発地がフロリダで、到着地がニューヨークなら、温度差は20度以上ある。到着しても荷物が別の機に誤載されていたり、上着やインナーを持っていなかったら、当座を凌ぐために衣服が必要と感じる旅行客は少なくないだろう。

 ユニクロが自販機で売るジャケットは70ドル、トップは15ドル以下だから、背に腹は代えられないお客が購入に踏み切るとの読みがあるのではないのか。それで集客喚起どころか、ブランドロイヤルティまで上がるなら、自販機のコストくらい安いもんである。

 また、空港や駅にトラフィック業態を出店すれば、家賃やスタッフの人件費がかかる。これはショッピングモールであればなおさらだ。その点、自販機はスペースがそれほど必要ないから家賃負担が軽減されるし、空港やモールといった施設ならセキュリティも担保される。意図的な破壊でOUT OF ORDERになることも避けられるのだ。

 ユニクロとしては全米事業が赤字だから、何とかコストをかけずにブランドの認知度アップ、販促に力を入れたいとの思惑もあるはずだ。どちらしても、今や自販機なんか珍しくも何ともないのだが、商品を店舗で人間が売るという小売りの基本原則が踊り場にあ差し掛かっているのは確か。そうした中で、お客に商品を提供する意味をいくつものベクトルで考えていく必要性はあるようだ。

コメント
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