HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

コートが売れないわけ。

2016-06-01 08:57:37 | Weblog
 秋冬の展示会がラストになっている。昨年は暖冬でアウター、特にコートが非常に苦戦した。でも、専門店系アパレルは目新しいデザインなら売れると踏んだのか。各社とも「秋冬のアウターはコートよ」と、ばかりにいろんな商品を打ち出している。

 アパレル側が企画に力を入れると、この時期よりさらに前に生地を調達し、そこからイメージを仕上げ、サンプルを作って展示会に臨むことになる。だから、季節変動に対応しにくいアイテムだ。小売りのバイヤーにしてみると、この時期に自分は「これ、イイね」と思っても、オンシーズンになって売場に展開するとなると、いろんな外部要因が影響して思い通りにお客が動くかどうかはわからない。売れると数字は伸びるが、外すと在庫になって非常に売りにくい商品だ。

 そして、アパレルも小売りも、翌シーズンを迎えると、一応前年のデータに触れるものの、前年のことは忘れたかのようにまた企画に打ち込み、展示会に出かけていく。一昨年も昨年も今年も、そして来年も再来年も、ずっとその繰り返しを続けるだけ。皆が成功も失敗もいろいろ経験してはいるんだけど、秋冬アウターが一番リスキーなことに変わりはないのである。

 そんなことを思いながら、各社のアウターを巡って見てみた。今シーズンのイチ押しといっても、全く新しいデザインを起こしたものは少ない。過去にヒットしたいろんなアイテムのディテールを上手く取り入れて、今年風にアレンジしたものが目立った。

 昨年にリバイバルしたボンバージャケットを長めにしたものを発表したところもあった。果たして売れるのだろうか。昨年、ボンバージャケットについて書いた時、一家言をもつミリオタやボンバー心酔の諸兄が書き込みをしてきた。自分のカテゴリーだから意見したいというメンタリティは、やはりメンズ特有なものだろう。

 しかし、レディスに関しては単なる一過性のトレンドにしかなりえない。他社が全く発表していないシーズンなら毛色が変わって面白かっただろうが、今年はどうだろうか。中高生の街着って言われないとも限らない。

 今年風ではシルエットで見せるというより、テキスタイルで変化をつけようと言う企画が見られた。昨年は太めやトラペーズラインのシルエットで、ポンチョを押し出すメーカーもあった。今年は幾何学模様やブランケット柄を使って大胆に主張するアイテムが登場していた。



 アウターは防寒アイテムだから、長時間の外にいるということを前提にする。それなら、地方の車社会ではそれほど必要とされない。だから、ちょっとコンビニに出かける時に羽織ってほしいという打ち出し。その点は昨年同様かもしれない。

 一方で、かちっとしたテーラー風の仕立てで行くにしても、もともとアウターは無地が主体だから変わり目がしない。そこで、フラットにならないように同素材で色違いのパーツを接いだもの、グラデーションダイの素材を用いて変化を出すなどの工夫も見られた。やはり色柄、素材が変わると新鮮に感じるから、バイヤーもじっくり検討しているように感じた。



 あとは、ここ数年のコンテンポラリーテイストに見られたエフォートレスやミニマルも健在のようだ。若干、後追い企画のような感じでもないが、SPAのようなコストダウンしたコピーではなく、質感をキープした素材使いで差別化したアイテムもある。レディスのトレンドはヤングから浸透し、やがてミセスに波及する。

 とすれば、今年は中高年にバルーンっぽいコートが受けてもいいはずだが、太って見えるという抵抗感をいかに打ち消す着こなしやコーディネートがカギになると思う。



 専門店系アパレルがつくるアウターは、SPAのような知名度、ブランド力はないため、企画力や素材感で勝負するしかない。ただ、価格的にこなれていないと、市場に出た時になかなか勝負できない。世界的なコスト上昇で、原材料費は高騰している。アパレル側は合繊混紡や新素材を投入できるような素材調達力も持ち得ない。

 テキスタイルメーカーやコンバーターが提案するものの中から、選んで企画するしかないのである。それがオンシーズンの1年前なのだから、企画スタッフにはリスキー以上の辛さがあるだろう。アウターのサンプルを見ていると、そんな葛藤のもとに商品が生み出されているのではないかと、感じられた。そこがアパレルの正念場でもあるのだが。

 コートになると、暖冬がもろ売れ行きに関わってくるから、薄手の素材を使うところも少なくない。ところが、そうなると「落ち感」が関係する。昨年も書いたが、この落ち感をどうクリエーションにするかが企画の妙だし、デザイナーのセンスでもある。日本人が外国人に比べると体型が平板なので、アウターにはボリュームを出したくなる。

 でも、それが引力の法則で落ちでしまえば、着物のようにストンとしてしまう。切り替えや接ぎをどうするか、どこにダーツを入れるか、ウエストマークなどをどう駆使するか。その塩梅がアウターの企画には現れてくる。決してテキスタイルだけでは解決できない課題でもあると思う。

 しかし、気候だけにはアパレルも小売りも勝てない。今年も暖冬になれば、羽織系を除いてはなかなかお客の心をつかむとまでは行かない。 いい加減、ライトなダウンジャケットは陳腐化しているはずで、今さら新規に買う人も少ないだろう。 その辺の暖冬対策を考えた結果、コットンギャバなどの厚手の生地に加工を施したもので、冬を飛び越え春先まで引っ張るほうが無難になる。

 ただ、そうなると、フラットで定番的なデザインになってしまう。やはり、コートが売れない理由を暖冬のせいするだけでなくて、固定観念の洗い出しをすることが不可欠なのではないか。サンプルを見て考えたキーワードを挙げるとすれば、

●暖冬→合繊

●オーバー→ライト

●無地→柄、組織変化

●生地ありき→生地開発

●足し算→引き算

など、だろうか。

 コート=上質という考えはあるが、繊維の質が上がっていること。数年で買い足しを考えると合繊もありかなと思う。柄や組織変化を考えるなら、ポリエステルジャカードなんかの柄出しも面白い。ライトなコートならボリとビスコース、アクリルの混紡、ウールポリの混紡など。染めや柄で遊ぶなら生地開発から取り組む必要もありだ。

 ヘビーにならないデザインもある。袖無し、襟無しのジレだ。ジレはベストのような前開きを想像するが、プルオーバーにしてスリットを入れるなど工夫すれば、変化がでると思う。ここまで来ると、アウターというよりルームウエアの延長線だろうか。
 
 個人的には今年はガツンと寒くなって、颯爽とコートを着たカッコいい女性が街を闊歩する姿を見たいものである。それはアパレル、バイヤーにとってはなおさらではないか。ただ、数を売ろうとか、高い商品を売ろうとすれば、失敗するのは目に見えている。あのお客さんなら着てくれると、具体的に顔と人数が浮かべば、それを適性規模として品揃えに反映すればいい。

 さて、アパレル各社はどれほどの発注を受けたのだろうか。答えは冬の街が教えてくれる。
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