HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

アパレルにも革新起業が望まれる。

2015-10-25 10:53:50 | Weblog
 この10月にビジネスがスタートしたThe Flagのイッシューより寄稿を求められたので論評してみたい。テーマは「若者が希望を見いだすアパレル業界になろう」である。

 かつてのアパレル業界は、「洋服が好きだからデザインしてみたい」「お客さんにカッコ良い着こなしを提案したい」「将来は自分のブランドやショップを持ちたい」等々の夢や希望をもつ若者が集まっていた。

 今でも業界を志す若者は多かれ、少なかれそんな気持ちではないだろうか。でも、洋服好き=アパレル志望の絶対数は、確実に減ってきている。

 おまけに「そんなに良い大学をでてアパレルにいくの!?」とまで、言われるのだから、筆者が大学を卒業して身を置いた30数年前に比べると、仕事の魅力はあまりないと受け取られているようだ。

 アパレルと言っても、卸売業であるメーカー、それを支える縫製・加工業者、素資材の手配から縫製までを請け負うOEMやODM業者がある。また、欧米のブランドやアジアの開発輸入を手掛ける商社やインポーターなどの中間卸売業者も介在する。

 そして、それらの商品をコレクションや展示会を通じて仕入れ、お客に販売する小売業者がある。製造から小売りまで一環して手掛けるのであれば、SPA事業者となる。

 アパレルは景気の影響をいちばん受けた業界なのかもしない。メーカーにしても、小売りにしてもバブル崩壊後の不景気により、価格が高い商品が売れないので、各社はこぞって低価格商品にシフトしていった。

 結果、厳しい消耗戦を繰り広げ、昨今のブランド休止、大量閉店に見られるように業界全体が疲弊しているのである。

 簡単に言えばこうだ。不景気→高価格帯が売れない→低価格シフト→競争激化→デフレ→コストダウン→人件費抑制→給料減→高価格帯が買えない。こうしたスパイラルがアパレル不振の最大の原因だと思う。

 市場原理からすれば、チープな商品がばかりが出回ると、競争の末に縮小均衡する。そこでは負け組みは淘汰されていくから、残る企業数は限られていく。

 日本のアパレルは、大半が効率的なビジネスシステムに乗って価格競争に突入した結果、優劣がハッキリしてしまった。

 企業にとっていくら低価格な商品を売ったところで、従業員にそれほど高い給料が支払えるわけがない。アルバイト雇用で運営していけるマネジメント力をもった一部の企業しか生き残れなくなってしまったとも言える。

 それにアパレルのようなアナログな産業は、日本のような成熟した社会よりも、後進国や発展途上国の方が取り組みやすい。人件費も安価だし、若者が技術をどんどん吸収していくから、数億円規模のビジネスなら容易に確立できる。

 日本のアパレルメーカーが国内より海外でもの作りを行えば、周辺の事業者を含め国内産業が潤うわけがない。ますます日本のアパレルには魅力がなくなっていくのである。

 アベノミクスのよる円安基調で、メイドインジャパン回帰の動きがあるが、再び高額な商品が売れるかも期待薄だ。日本の消費者はデフレ慣れし、さらに賢くなっている。日本製などを少々仕掛けたくらいで、簡単に飛びつくことはないだろう。

 素資材から縫製・加工、卸、そして店づくり、販売、リピーターづくりまで、すべてに知恵とコストをかけた仕組みを作り上げ、新たな価値を提供しない限り、お客は振り向かないと思う。まして、若者がビジネスに魅力を感じるわけがないのである。

 それをどこができるのか。メーカー、周辺事業者、小売業。なまじ業界を知っているだけに、過去の経験が邪魔をし、発想の転換もできず、挑戦する意欲を削ぐ。

 「日本の技術を伝承する、保護していく」を名目にした国からの補助金をもらうだけで終わってしまうかもしれない。

 「産業振興」「売上げ拡大」「人材育成」と目標を声高に叫ぶわりに、三文タレントを呼んだファッションイベントをするしか能がない輩もいる。門外漢が公金を宛にして事業収入を上げるために大口を叩いているのでは、話にならないのである。

 「若者が希望を見いだすアパレル業界になろう」と言っても、既成概念が凝り固まった業界側からのイノベーションやチャレンジは至難の業ではないだろうか。 

 新たな価値を提供できるとすれば、ベンチャー系企業だろうか。ベンチャーといっても、別にITやファンドに特化したものだけではない。ビジネスの芽を創造しようとしているところである。

 新規参入組みは業界のしがらみがないだけに、自由な発想でビジネスすることができる。資金的な問題は証券市場やクラウドファンディングから調達すればいいというくらいだから、チャレンジにも、イノベーションにも迷いはないだろう。

 アパレル業界にはどうしても過去の栄光にすがるがあまり「自分が手掛けたブランド」「自分が作り上げたショップ」という概念にとらわれ過ぎる人間が少なくない。でも、膠着化した考えを捨てさらないと、挑戦も革新もありえない。

 イノベーションを起こすには、やはりエネルギーと発想力が不可欠だし、それには若さが必要だ。ファッションビジネスに可能性を見いだすとすれば、若者が業界の慣習にとらわれることなく、チャレンジするしかないのである。

 これからアパレルで仕事をし、将来設計まで見通すとすれば、それは既存のブランドでもショップでもないと思う。だから、次々とビジネスを興したい、そうした能力を磨きたいと考える人間なら、挑戦する価値はあると思う。

 一例をあげよう。筆者が居住する福岡市の「(株)リンクイット」は、もともとはアパレル商社だった。バブル崩壊後の景気低迷で高級な輸入ブランドが売れなくなったため、メーカーに転換後、次第にSPAとして事業を拡大していった。

 最近は業界の慣習にとらわれない卸事業にも挑戦するなど、ベンチャー系アパレルの有望株と言える。簡単な概要は以下のようなものだ。

 2000年7月、森 健太郎社長がアパレル商社の営業譲渡を引き継ぐ形(株)JACトレーディングを設立した。01年には自社による企画生産体制を確立し、06年には小売り事業にも進出。SPAとしてショッピングモールを中心に店舗を拡大した。

 2009年には「5年後、100店舗体制、年商100億円」の目標を掲げ、製造卸、小売りなどの事業会社に一旦は分社化し、各代表に経営意識を持たせた。その目処がたったことで吸収合併して事業部化し、2年後には株式上場を目指している。
 
 直営店「ブージュルード」は、イオンモールなどで団塊ジュニアのミセス向け業態として九州から東北までFCを含め80店舗以上を展開する一方、ブランドのブージュルードは全国の専門店に卸売りもしている。

 2015年8月決算期の年商見込み100億円は、10月25日の時点で同社から正式に発表されていないが、ほぼ確実とみて間違いないと思われる。

 最近、ショッピングセンターでも、「より良い商品をより良いサービスで買いたい」というお客が増えている。1点1点にこだわったもの作りで、それに見合うだけの接客サービスや空間づくりがお客を惹き付けている。

 同社はSC向けファッション=質感は二の次という常識の打破に取り組み、もの作りやサービスの精度を上げていくことへの取り組みも惜しまない。それが新しい取り組みの「展示会」だ。

 メーカー、東京事業部の卸担当営業と取引先のバイヤー、各地区のスーパーバイザーと年商1億円を売り上げる店舗の店長、さらにお店の「お得意さん」であるお客まで加えた総勢100名の規模になる。

 ユニークな点は、店舗のお客がいろんなサンプルを見て、「これ可愛い」と言えば、同社の商品であれ、他社の商品であれ、「店舗はその商品を仕入れれば良い」という発想なのである。

 普通、展示会と言えば、自社の商品のみを営業するクローズドなもの。せいぜい、バイヤーが効率よく展示会巡りをできるように、出展社数を増やした合同展示会程度だろう。

 しかし、同社の展示会は、他のメーカーやお得意さんまで巻き込んでいる。ここが新たな発想なのである。

 メーカーにとっては、お互いにリアルなお客の声を聞いた方がメリットは多いし、取引先のバイヤーが「お客さんはこんな商品が好きなんだ」とわかれば、そのメーカーと新たな取引が始まるかもしれない。

 お客もいろんなメーカーの商品を誰よりも早く見ることができるので、楽しくて購買欲も増すのである。実に懐が深いというか、柔軟な発想である。

 同社はアパレルビジネスを卸とか、 小売りとかの枠にとらわれない発想で考えている。卸とか、小売りとか、自社企画とかジャンルの垣根を飛び越えれば、ビジネスに新しい活気が生まれるということだ。

 要は「プラットホーム」を作ろうということ。企画スタッフも他社の商品が売れるのを見ると、「こういう部分が当社は弱いな」と気づくはず。それがモチベーションアップのきっかけとなれば、経営者にとっても好都合だ。

 参加メーカーには「ブージュ・ルードの売場を貸すので、委託で販売してください」。逆に「同社の取引先で坪効率が高いお店には営業をかけても構いませんよ」とも言っているとか。お互いに刺激し合えば、いろんな副産物を生むというわけである。

 他にもユニークな手法はあるが、業界を目指す若者には、これ以上の情報は必要ないだろう。同社が採用にかける思いは別にアパレルの仕事をしたい、アパレル経験がある云々ではなく、新しいビジネスに挑戦したい若者よ、来たれなのである。

 興味があれば、会社訪問をしてみればいいと思う。http://boujeloud.com/recruit.php

 同社は数年後には上場を目指すと公言しているし、社員も株を持てるというから、上場益が出れば20代でマイホームが持てるのも夢ではないのかもしれない。

 アパレルに夢や希望がないのではない。自分がどれだけ高い次元での仕事を目指し、自己実現という目標に向って邁進できるかなのだ。

 「若者が希望を見いだすアパレル業界になろう」のためには、どこまで革新やチャレンジができるか。また、アパレル業界で仕事をするのなら、ビジネスモデルや仕事内容で選択することが、カギになるのではないかと思う。
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