HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

女性のおかげでメシが食える業界。

2014-12-24 06:57:53 | Weblog
 安倍内閣が内閣改造の目玉の一つにした「女性の活用」。経産大臣や法務大臣などの主要閣僚に女性議員を起用し、国民にも国の政策をアピールしようとした。

 実際には政治とカネのスキャンダル閣僚を出すなど、無知な女性議員を利用したに過ぎなかったという笑えないオチがついた。まして、民間企業レベルでは女性の活用なんてそう簡単に行くはずはない。

 ただ、ファッション業界は対象商品はもとより、働くスタッフも圧倒的に女性が多い。

 筆者はずっとレディスアパレル畑を歩いて来た。デザイナーやプレス、店長やバイヤー、雑誌編集者、グラフィックデザイナー、イラストレーター、モデル、スタイリストなどと一緒に仕事をする中、女性の活躍を身をもって体験して来ている。

 でも、20年以上前は彼女たちも言わば、使い捨てのような状態だった。「キャリア」というのは単なるゾーニングの範疇に過ぎず、本質的に彼女たちのキャリア形成に業界が力を入れていたかというと、決してそんなことはなかった。

 仕事が好きな子がスキルを付けて、 デザイナーやプレス、 店長やバイヤー、スタイリストなどの仕事を続けるが、それは独身だからできることだった。まあ、今ほど少子化が叫ばれることもなかったので、業界自体も深く考えていなかったと思う。

 では、今はどうなのか。マーケットにおける構成比は、レディスが7割以上あり、それほど変わっていない。でも、たとえスローガンであっても、女性の活用が際立って来た以上、業界も何らかのアクションを起こさないといけないのは確かだ。

 これについてこの間、懇意にするアパレルメーカーの社長が話してくれたことがある。奥さんに言われたこととして、「あんたの会社も取引先のショップも、女性のおかげでメシが食えているんでしょ」と。

 これはレディスアパレルを手がける上では、当たり前のことだ。しかし、実に含蓄のあるメッセージでもある。業界の男たちには当たり前過ぎて、彼女たちのキャリア形成やライフステージを意識していないことへの警鐘と言えるからだ。

 女性の活用ということ自体が「上から目線」の言い方だと思うし、「女性が活躍してくれないと服も売れないわけだから、そこら辺をもっと考えないといけないのでは」と、アパレルの社長と意見を一致させたのだった。

 では、具体的にどうすればいいか。先日、当コラムにも書いたイオンモールにリーシングされるテナントのスタッフ不足。その辺の課題から真剣に考えなければならないと思う。

 販売職であれば、現地作用を基本に彼女たちをどこまで育てていくかである。

 まず研修制度を充実させて彼女たちのスキルを磨き、それに見合う報酬とポストを与えることである。そしてキャリアアップした彼女たちが働きたくなるような「より魅力ある新店や新業態」を作り上げていかなければならない。

 同時に県外に新しいショップを出店する時、「ぜひ、そこで働かせてくだたい」と、自ら申し出る子が現れるようにしないといけないだろう。

 またそんな子が結婚、出産を経て、また働きたいと戻ってくれるような制度もいる。所謂、「子育て支援」である。ご主人が転勤になれば、そのまま店舗を異動させてあげる。それが無理なら、別の企業への再就職を斡旋してあげるくらいのフォローも必要だ。

 主婦をパートアルバイトで採用する時、扶養手当てがカットされることで、長時間労働を避ける人も多い。ならば、「当社ではより上のポストを目指してくれれば、収入はもっと増えますよ」くらいの姿勢と待遇で臨むべきだ。

 さらに郊外SCの販売スタッフが全員女性なら、仕事を終えてレジ締めした後、夜間に田んぼ道を帰宅するのはたいへんである。ならば経営者として、スタッフ採用では「脱イオンモール」も、今後のテーマとして考えなければならない。

 女性の活用はスローガンではなく、きちんとしたキャリア形成ができる環境づくりが大切なのである。いかに彼女たちに仕事のやり甲斐を見いだしてもらうか。そして、ライフステージを支援できる仕組みを整えるか、である。

 業界を見ると、販売スタッフの上に店長がいて、その上にはラインスタッフのスーパーバイザーがいる。こうした職種にも女性をどんどん起用すべきだろう。

 女性の店長が圧倒的に多いのだから、彼女たちの悩みを聞いて経験値からアドバイスをするには、女性の方が絶対に良いはずである。

 業界では店長やバイヤー、デザイナーが妊娠すると、一人目はともかく二人目になると、暗に「もう今まで通りの仕事はできないだろう」という空気を漂わせ、ポストを奪ってしまう企業が少なくない。俗にいう「マタハラ」ってやつだ。

 しかし、それこそが女性のおかげでメシが食えていることをわかっていない証拠だ。現場を支えてくれるのは女性なのだから、そんな女性をどんどん取締役に起用してもいいはず。また経営会議にもそんな女性を参加させて、忌憚のない発言をしてもらえばいい。

 単純に考えて、働く女性を早く家に帰すにはその分、男性陣が早く出社すればいいだけの話。そんなことも理解できないような経営者では、ファッションビジネスはやがて頭打ちになる。

 話が少しズレるが、銀座のクラブでバイトをしていた女子学生がテレビ局の女子アナ採用内定を取り消されたニュースがあった。

 メディアでは、「局側の幹部連中はそうしたクラブでカネを使っていながら、女子学生に働くなというのはおかしい」という女性擁護論まで飛び出した。

 もっともな話として、企業の男性幹部が深夜までクラブで酒を飲んでいながら、女性が早く帰宅するのを妨げるのでは筋が通らない。でも、内定取り消しにしても、擁護論にしてもそんもんは所詮、アッパー階層の与太話である。

 一般庶民にとっては、クラブだろうとショップだろうと、働かなければ生活していけないのである。

 大企業に勤務する一部の連中が銀座のクラブでカネを使い、女子学生がそこで稼いでブランドを着飾ったところで、日本の景気がよくなるのか。そんなことをマジで考えている経済評論家がいるなら、明日から職探しすることをお勧めしたい。

 やはり一般庶民の多くの女性が仕事に就き、結婚、出産を経て、また仕事に戻れるような環境を作ることが個人消費を活発化して、景気を上向きにするのである。

 筆者は別にフェミニストでも、ゲイでもない。 女性だからではなく、同士として扱って、協力できる部分は業界として、また男性がどこまでサポートできるかだと思う。

 ここまで書くのは、活躍する女性が増えてくれた方が上質でカッコいい服が作れるし、売れるから。ただ、それだけである。
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