さる12月5日、岡山市の中心部、岡山駅のほど近い場所にイオンモール岡山がオープンした。
SCとしては、県庁所在地の一等地に建つ地下2階、地上8階の施設。1階から4階までの吹き抜け。2000人が集まれるパブリックスペース。300インチの巨大スクリーンやテレビスタジオ等々。ハードはどれも従来の郊外SCとは一線を画すものだ。
館の愛称にスカイツリーのソラマチならぬ「ハレマチ」を掲げ、「岡山の文化や情報の発信基地を目指す」と、イオンもモールとしての新たな挑戦を公言する。
だからと言って、ファッションテナントの顔ぶれを見ると、郊外SCにリーシングされているものと大差ない。いくら都市部出店と言っても所詮、SCなわけなのである。
まあ、百貨店が時代のニーズに合わなくなっていることを考えると、NBを導入したところで勝負にならないのは明白の理。だから、せいぜい客寄せのためにハード面で奇を衒うしかない点は理解できる。
ただ、モールは出店コストが安い郊外だからこそ、オオバコでも何とか維持することができた。それを都市部展開で高層という莫大な初期投資に踏み切る発想には、「トンチンカンさ」を感じざるを得ない。
せめてファッションで、何か新しい業態のテストケースでも試すのなら、注目もできるが、アパレル側が乗り出さないと、手の打ち用がないところにデベロッパーの無能、無策ぶりを露呈する。
そんなことを考えていると、繊研新聞が別の切り口でこのSCを取り上げた。12月9日付けネット版の「アパレル求人難、人材確保に不安材料」と題した記事だ。
「岡山でファッション販売員の求人がこれまで以上に難しくなっている。大型のイオンモールの誕生で表面化した」
「各テナントでは時給を引き上げて人員を確保しているが、いまだに必要人員を採用できていないところもある」
「アパレル店舗運営や接客にたけた人材を獲得するためには、企業規模の大小にかかわらず、長く働ける環境作りなど、待遇の改善が必須課題だ」と。(以上、原文のまま)
記事はテナントがスタッフ確保で苦しんでいるとの内容だ。地方都市にSCが出店すると毎回、地域のハローワークは、「職業安定所開設以来の求人数」などといったコメントを出す。SCはそれだけ地域雇用に貢献してきたことは間違いない。
しかし、景気が少しずつ上向いていること。接客サービス業の人気が落ちていること。若者のファッション業界離れを考えると、スタッフの確保は容易ではない。
さらにSCを開発するデベロッパー、テナント出店するアパレルや小売りの出店計画にスタッフ育成が比例しているとは思えない。SCの開業計画が持ち上がる度に、スタッフ確保はハローワークをはじめ、求人情報誌の合同説明会に乗っかる程度に過ぎない。
これが都市部のファッションビル、駅ビルの新規出店なら、若者は「都会で働けること」から、少しは色気を出して正社員に応募しているかもしれない。
地方のSCではどうだろうか。しかも、アルバイト採用となると、一気に応募意欲は下がるはずだ。マイルドヤンキーなる趨勢を見ても、SCは働くより買い物&レジャーに行くところという考えが浸透しつつある。
若者の職業意識もSCの業態に魅力を感じているとは思えない。大学生は依然として知名度やブランド力がある大手企業志向が強い。サービス残業訴訟でユニクロが敗訴したことも、SPAやチェーン店の店長候補の採用には、少なからず影響しているはずだ。
業界の構造がほとんど理解できていない専門学校生は、好きなブランドで求人を選ぶだろうから、知名度の低い業態は必然的にスタッフ確保は難しくなる。
アルバイト採用はなおさら深刻だろう。企業側が営業的なピークにスタッフ態勢を合わせるとすれば、フルタイムでスタッフを確保する必要はない。人件費を抑えることを考えると、アルバイトで賄おうとするのは当然だ。
しかし、働く側としては高々時給が850円では、身入りが少ない。フリーターならなおさら効率よく収入が上がる職種を選ぶだろう。だから、時給が低いファッション販売員は敬遠されるのである。
となると、アパレル側がアルバイトスタッフを確保するには、時給を上げるしかない。そのためには荒利が取れる商品を開発し、販売しなければならないというところに行きつくわけだ。
販売価格が高い商品なら、そこそこの知識、接客技術に裏打ちされる販売力が必要だから、人材育成にも積極投資しやすくなるはずだ。あくまで理論上はであるが。
また、販売スタッフの待遇や地位向上、将来設計まで併せて考えてやらなければ何の解決にもならない。つまり、アパレルや小売りは企画から販売、教育、福利厚生までのフローを根本から見直す時期にさしかかっているということだ。
最後に最近の若者の傾向とSC勤務との関係について、個人的な見解を述べてみたい。
郊外SCに勤務する場合、自宅か、転勤かで、働く人間のライフスタイルも大きく変わる。自宅ならその地域出身者がほとんどだろうから、家族や友人などが近くにいて精神的にも、経済的にも余裕があるだろう。
ところが、転勤で縁もゆかりもない地方都市に赴任すると、店舗の売上げが安定するまで仕事漬けの毎日が続く。そのストレスたるや、いかばかりだろうか。まして切り込み隊長的な役割を担わされると、それが何年もずっと続くことになる。
中には「いろんな土地に行けて良い」というノー天気な方がいるかもしれない。でも、カルチャー的土壌が希薄な地方都市、しかも郊外での生活が転勤者にとってそれほど魅力があるとは思えない。たまの休日の過ごし方が極端に制限されるからである。
博多のど真ん中、東京、ニューヨークと都市部ばかりで生活してきた人間からすれば、なおさらそう考えてしまう。
最近の傾向からして、自分のライフスタイルは守りたいと考える若者は少なくない。であるからこそ、大学生や専門学校生が地方転勤、しかも郊外店の勤務があるような企業に、進んで就職を決めるとは思えないのである。
私の記憶では、ユニクロが海外勤務、現地給与体系を発表した途端、日本の大学生の応募が極端に減ったように感じる。
いくらグローバル企業と謳ったところで、アジアの辺境地に自ら進んで赴く若者は、それほど多くなかったということ。仕事は旅行とは違うからだ。
それよりも日本の地方はまだマシかもしれない。でも、最近、地方に住む若者たちが「SCがあるから十分」と堂々と宣うようになったことを考えると、裏を返せばそれしか生活の魅力がないことにもなる。
また、仮に地元で有能な社員が確保できたからといって、その人間をずっと1カ所の店舗に縛っておくことができるのか。有能は店長であれば、別の店をオープンする時に転勤させたいのは、企業側にとって当然のことと言える。
地域限定社員で雇用すれば、そこは制約を受けざるをえない。女性の活用が大流行りの昨今、主婦社員に対し簡単に「新店への転勤辞令」など出せるはずはないのである。
とすれば、アパレル側が取り組むべきは時給アップや待遇改善だけではない。若年社員の生活スタイルとライフステージとの関係で魅力を提示できなければ、スタッフ確保の問題は解決しないと思う。
SCとしては、県庁所在地の一等地に建つ地下2階、地上8階の施設。1階から4階までの吹き抜け。2000人が集まれるパブリックスペース。300インチの巨大スクリーンやテレビスタジオ等々。ハードはどれも従来の郊外SCとは一線を画すものだ。
館の愛称にスカイツリーのソラマチならぬ「ハレマチ」を掲げ、「岡山の文化や情報の発信基地を目指す」と、イオンもモールとしての新たな挑戦を公言する。
だからと言って、ファッションテナントの顔ぶれを見ると、郊外SCにリーシングされているものと大差ない。いくら都市部出店と言っても所詮、SCなわけなのである。
まあ、百貨店が時代のニーズに合わなくなっていることを考えると、NBを導入したところで勝負にならないのは明白の理。だから、せいぜい客寄せのためにハード面で奇を衒うしかない点は理解できる。
ただ、モールは出店コストが安い郊外だからこそ、オオバコでも何とか維持することができた。それを都市部展開で高層という莫大な初期投資に踏み切る発想には、「トンチンカンさ」を感じざるを得ない。
せめてファッションで、何か新しい業態のテストケースでも試すのなら、注目もできるが、アパレル側が乗り出さないと、手の打ち用がないところにデベロッパーの無能、無策ぶりを露呈する。
そんなことを考えていると、繊研新聞が別の切り口でこのSCを取り上げた。12月9日付けネット版の「アパレル求人難、人材確保に不安材料」と題した記事だ。
「岡山でファッション販売員の求人がこれまで以上に難しくなっている。大型のイオンモールの誕生で表面化した」
「各テナントでは時給を引き上げて人員を確保しているが、いまだに必要人員を採用できていないところもある」
「アパレル店舗運営や接客にたけた人材を獲得するためには、企業規模の大小にかかわらず、長く働ける環境作りなど、待遇の改善が必須課題だ」と。(以上、原文のまま)
記事はテナントがスタッフ確保で苦しんでいるとの内容だ。地方都市にSCが出店すると毎回、地域のハローワークは、「職業安定所開設以来の求人数」などといったコメントを出す。SCはそれだけ地域雇用に貢献してきたことは間違いない。
しかし、景気が少しずつ上向いていること。接客サービス業の人気が落ちていること。若者のファッション業界離れを考えると、スタッフの確保は容易ではない。
さらにSCを開発するデベロッパー、テナント出店するアパレルや小売りの出店計画にスタッフ育成が比例しているとは思えない。SCの開業計画が持ち上がる度に、スタッフ確保はハローワークをはじめ、求人情報誌の合同説明会に乗っかる程度に過ぎない。
これが都市部のファッションビル、駅ビルの新規出店なら、若者は「都会で働けること」から、少しは色気を出して正社員に応募しているかもしれない。
地方のSCではどうだろうか。しかも、アルバイト採用となると、一気に応募意欲は下がるはずだ。マイルドヤンキーなる趨勢を見ても、SCは働くより買い物&レジャーに行くところという考えが浸透しつつある。
若者の職業意識もSCの業態に魅力を感じているとは思えない。大学生は依然として知名度やブランド力がある大手企業志向が強い。サービス残業訴訟でユニクロが敗訴したことも、SPAやチェーン店の店長候補の採用には、少なからず影響しているはずだ。
業界の構造がほとんど理解できていない専門学校生は、好きなブランドで求人を選ぶだろうから、知名度の低い業態は必然的にスタッフ確保は難しくなる。
アルバイト採用はなおさら深刻だろう。企業側が営業的なピークにスタッフ態勢を合わせるとすれば、フルタイムでスタッフを確保する必要はない。人件費を抑えることを考えると、アルバイトで賄おうとするのは当然だ。
しかし、働く側としては高々時給が850円では、身入りが少ない。フリーターならなおさら効率よく収入が上がる職種を選ぶだろう。だから、時給が低いファッション販売員は敬遠されるのである。
となると、アパレル側がアルバイトスタッフを確保するには、時給を上げるしかない。そのためには荒利が取れる商品を開発し、販売しなければならないというところに行きつくわけだ。
販売価格が高い商品なら、そこそこの知識、接客技術に裏打ちされる販売力が必要だから、人材育成にも積極投資しやすくなるはずだ。あくまで理論上はであるが。
また、販売スタッフの待遇や地位向上、将来設計まで併せて考えてやらなければ何の解決にもならない。つまり、アパレルや小売りは企画から販売、教育、福利厚生までのフローを根本から見直す時期にさしかかっているということだ。
最後に最近の若者の傾向とSC勤務との関係について、個人的な見解を述べてみたい。
郊外SCに勤務する場合、自宅か、転勤かで、働く人間のライフスタイルも大きく変わる。自宅ならその地域出身者がほとんどだろうから、家族や友人などが近くにいて精神的にも、経済的にも余裕があるだろう。
ところが、転勤で縁もゆかりもない地方都市に赴任すると、店舗の売上げが安定するまで仕事漬けの毎日が続く。そのストレスたるや、いかばかりだろうか。まして切り込み隊長的な役割を担わされると、それが何年もずっと続くことになる。
中には「いろんな土地に行けて良い」というノー天気な方がいるかもしれない。でも、カルチャー的土壌が希薄な地方都市、しかも郊外での生活が転勤者にとってそれほど魅力があるとは思えない。たまの休日の過ごし方が極端に制限されるからである。
博多のど真ん中、東京、ニューヨークと都市部ばかりで生活してきた人間からすれば、なおさらそう考えてしまう。
最近の傾向からして、自分のライフスタイルは守りたいと考える若者は少なくない。であるからこそ、大学生や専門学校生が地方転勤、しかも郊外店の勤務があるような企業に、進んで就職を決めるとは思えないのである。
私の記憶では、ユニクロが海外勤務、現地給与体系を発表した途端、日本の大学生の応募が極端に減ったように感じる。
いくらグローバル企業と謳ったところで、アジアの辺境地に自ら進んで赴く若者は、それほど多くなかったということ。仕事は旅行とは違うからだ。
それよりも日本の地方はまだマシかもしれない。でも、最近、地方に住む若者たちが「SCがあるから十分」と堂々と宣うようになったことを考えると、裏を返せばそれしか生活の魅力がないことにもなる。
また、仮に地元で有能な社員が確保できたからといって、その人間をずっと1カ所の店舗に縛っておくことができるのか。有能は店長であれば、別の店をオープンする時に転勤させたいのは、企業側にとって当然のことと言える。
地域限定社員で雇用すれば、そこは制約を受けざるをえない。女性の活用が大流行りの昨今、主婦社員に対し簡単に「新店への転勤辞令」など出せるはずはないのである。
とすれば、アパレル側が取り組むべきは時給アップや待遇改善だけではない。若年社員の生活スタイルとライフステージとの関係で魅力を提示できなければ、スタッフ確保の問題は解決しないと思う。