HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

大人のメンズがまた一つ消える。

2011-11-07 08:55:43 | Weblog
 イッセイ・ミヤケの元デザイナー、滝沢直己氏が2010年秋冬からデザインを手がける「ヘルムート・ラング・メンズ」が今秋冬で休止となる。ユーロ感覚にニューヨークのモダニズムを加えたテイストがとても気に入っていた。日本人の大人に似合うスタイリッシュなブランドがほとんどない中、その一つが消えてしまうのは非常に残念でならない。
 米本国では、ハビチュアルでCFD(全米ファッション協会)新人賞を受章したマイケル&ニコル・コロボス夫妻によるウィメンズが、今年に入って売上高50億円と急成長。トレンドに敏感なバーニーズ・ニューヨークやサックス5th Ave.で展開してきたことで、セレブリティのハートを見事につかまえたようだ。
 同ブランドを運営するリンク・セオリー・ジャパンも、ちまちま販売してマーケットが広がりにくいメンズより、一度にガバっと売れて市場規模が望めるウィメンズに、経営資源を集中した方がいいと判断したと、推察できる。

 もともと、ヘルムート・ラング氏はオーストリアの出身。86年からパリでコレクションを展開し、99年にプラダグループの傘下となって拠点をニューヨークに移した。
 ユーロモードの世界で感性を磨いただけあって、そのシャープでミニマルなデザインは、コンサバで野暮ったいアメカジが主流の米国では新鮮に受け取られた。特にラング・ジーンズは往年のカルバン・クラインを思わせるディナー感覚で、ストリート中心の米国ジーンズマーケットに一石を投じたのである。
 ただ、経営的にはずっと赤字が続いたため、ラング氏自身がデザイナーを辞任。プラダは日本のリンク・セオリー・HDにブランドの商標権を売却すると、同社は07年春夏からはコロボス夫妻にデザインを任せた。まさにファッションビジネス激戦区の米国では、モード路線だけでは生き残れないことの裏返しでもあった。

 一方、滝沢氏は実質1年でメンズのデザイナーを降ろされたわけだが、だてにイッセイ・ミヤケのデザインを手がけていたわけではなく、その感性や技術はヘルムート・ラングでも遺憾なく発揮されたと思う。
 例えば、素材使い。メンズのジャケットはウールか、麻か、コットンかとだいたい素材が決まっている。しかし、今年の春夏では綿麻の混紡にピンストライプを施し、洗いをかけて微妙な風合いを出したアイテムなどを発表。高級感を失わずカジュアルさを打ち出せる点は、さすが元イッセイのデザイナーだ。
 リンク・セオリー・ジャパン側は日本人向けのサイズを増やしたことで、メンズの売上げは1年で50%も伸びたと、MD修正が奏功したように語っている。だが、百戦錬磨のコレクションデザイナーの感性や技術が大人の洋服好きを満足させた点も見逃してはならない。

 滝沢氏はユニクロ・イノベーション・プロジェクト(IPJ)のデザイナーにも就任した。周知のようにユニクロを傘下に持つファーストリテイリング社は、リンク・セオリー・ジャパンを09年に完全子会社化している。つまり、ファーストリテイリングは持ち株会社として、ファッションビジネスの世界でよくあるブランド休止やデザイナー人事に口出しできる立場なのだ。
 それゆえ、今回のヘルムート・ラングのメンズ休止にも、何らかの影響を及ぼしたのは十分考えられる。穿った言い方をすれば、滝沢氏にヘルムート・ラングのデザイナーを降板する「手切れ金」として、IPJのデザイナー就任が約束されたと考えられなくもない。ファーストリテイリングが年商5兆円のファッション・コングロマリットを目指すと公言している以上、そのぐらいのことをしても不思議ではないだろう。

 企業の思惑や株価アップ狙いという状況下では、一ブランドファンの思いなどどうでもいいようだ。それどころか、世界のメンズマーケットではスタイリッシュな大人向けデザインなんて、完全に隅っこに追いやられ、絶滅危惧種になりそうな気配すらある。あ~、また気に入っていた服が市場から消えていく。いよいよ素材から調達し、オリジナルで作るしかないようである。
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