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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

鍼灸整骨院で患者死亡事故

2010-01-29 17:41:59 | 業界のウラ事情

2010年1月9日、マスコミが報じた小さな事件に治療業界、特に鍼灸の業界が一時、騒然となった。その記事とは↓(産経関西から)


はり治療後に女性死亡 業務上過失致死容疑で捜索

 大阪府池田市内の鍼灸(しんきゅう)院で昨年12月、患者の女性=当時(54)=がはり治療を受けた直後に容体が急変し、翌日に死亡していたことが9日、池田署への取材で分かった。池田署は業務上過失致死容疑で鍼灸院を家宅捜索するとともに関係者から事情を聴き、死亡と治療との因果関係を調べている。

 池田署によると、女性は肩こりのために定期的に鍼灸院に通院し、はり治療を受けていた。昨年12月15日午前、女性が鍼灸院ではり治療を受けた後、院内のトイレで倒れているのが見つかった。女性は病院に運ばれたが、翌日に死亡したという。

 司法解剖の結果、女性の死因は呼吸不全などによる低酸素脳症の可能性が高いという。治療ではりが女性の体内に深く入り、肺周辺が傷付けられたことで呼吸不全につながった可能性もあるという。

(2010年1月 9日 14:12)
元記事


次いで、その続報↓(同じく産経関西から)


はり治療死亡、柔整師は無資格

 大阪府池田市内の鍼灸(しんきゅう)院で昨年12月、患者の女性=当時(54)=がはり治療を受けた直後に死亡した事件で、はり治療の資格がない20代の男性柔道整復師が治療していたことが15日、府警への取材で分かった。捜査1課は、業務上過失致死容疑などで柔道整復師や勤務先の鍼灸院から事情を聴いている。

 府警によると、柔道整復師は当時、はり治療の資格を取るため、医療専門学校に通学。柔道整復師は「女性にこれまで数回はりを刺した」と認め、鍼灸院の院長は「柔道整復師がはり治療の免許を持っていないのは知っていたが、はり治療をしていたことは知らなかった」と話しているという。

(2010年1月16日 08:03)
元記事


相変わらず「鍼灸院で…」と報じられているので、「鍼灸師がとんでもない失敗をやらかしたのか」というふうに受け取られてしまうが、実際には事件が起きたのは大阪池田市の「鍼灸整骨院」で、患者を死亡させた男は鍼灸学校に通っている途中。当然、鍼灸師の資格は持っていなかった。つまりこれは「鍼灸師でない者が鍼治療を行って、患者を死亡させた」事件だったわけだ。

もちろん、だからといって「鍼灸師の免許を持っている人なら、絶対にこんな事件は起こさない」などと言うつもりはない。この事件は鍼が肺膜を貫いて気胸を起こさせてしまったことが原因だが、鍼灸師による気胸事故は現実にかなり起こっているのだから。
実際、私が治療院を立ち上げた際、近所の病院に挨拶回りに行ったが、そこである病院では院長から
「あんた鍼灸師? 鍼灸ってのは国家資格なんですかね? ウチはずいぶんと鍼灸師が起こした気胸事故の尻ぬぐいをさせられたよ。まったく、ちゃんとやってくれよな」
と皮肉たっぷりに言われたものだ。

それに、鍼灸に限らず治療というのは「体を変化させる行為」だから、当然のことながら常にリスクが存在する。「ソフトな手技だから安全・安心です」などというのは大嘘で、100%安全・安心な治療など存在しない、と私は思っている。もし100%安全・安心な方法があるとするなら、それは「相手の体を全く変化させないもの」であり、それはもう「治療」ではないのだから。

しかし、この池田市の死亡事故は単なる「無免許者が起こした過失による不幸な事故」ではないようだ。この事件についての記事を載せたブログ「鍼灸の博物学」には、死亡した患者の遺族からのコメントが掲載されている。このコメントを読むと、

死亡した患者の肺膜は過去にも鍼と思われるもので何度も破られていた形跡があり、彼のやっていた鍼治療は、いつこんな事故が起きても不思議のないレベルのものだった。
彼は患者の異常に気づきながら、無資格で鍼を打っていたのがバレるのを恐れて救急車を呼ばなかった。

という状況だったことがわかる。そして、産経関西の記事にもあるように、

院長は彼が無資格で鍼治療をしていたことを知らなかったと言っている。

ことも。

この最後の項目については、私も遺族の方と同様、そんなことは信じられない。院長には従業員の管理責任があるのだから。だが、もし院長なる人物が、院が鍼灸整骨院を名乗って保険診療するために有資格者が名義を貸しただけの「名ばかり院長」だとしたら、従業員が無資格で鍼を打っていたことを知らなかった、ということもあり得る。その場合、この事件に対する法的責任はどうなのか私にはわからないが、確か名義貸しは違法となっていたんじゃ?

どうやら、この事件は治療業界の抱える構造的な問題とも深く関わっているようだ。闇は意外と深いかも…。


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6 コメント

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Unknown (ひろひろひろ)
2010-01-29 21:57:30
どうも。
あたまに何かつくほど生真面目にやってる接骨院院長の私ですが。
この件については私も某mixiの某コミュで見ましたが、先日の日記と言い、こんなことが続くと柔道整復師でもある私としては何とも嫌な気分になるというか、全く残念です。

言いたいこともたくさんありますが、、、それは、またセミナーの時にでも。
返信する
黒船求む! (sokyudo)
2010-01-29 22:55:30
>ひろひろひろさん

最近、何かと風当たりの強い柔整の世界。確かに多くの人たちは真面目に頑張っているのでしょうし、業界内部でもさまざまな動きはあるのでしょうが、内部的な努力だけでは
「私たちはちゃんと法律を守ってやりますから、どうか仕組みは今までのままで
みたいなところで止まってしまうでしょう。
やはり、たとえ多くの血を流しても仕組みそのものを根本から作り替えるための「何か」が必要なのではないですか。

それから(mixiでも既に書いたことですが)、鍼灸界も「保険の扱いを、せめて柔整並みに!」みたいなことを悲願にするのは、もういい加減やめるべき。
返信する
Unknown (ひろ)
2010-01-30 08:40:07
国家資格の有無の問題かと考えれば自分にもはね返ってくる問題です
技術力の問題かと考えてもやはり自分にはね返ってきます
一生懸命にやってたつもりでもこういう結果が生じるとモラルの問題として扱われます

断罪するのは容易ですが医師から無資格セラピストまでの構造上の問題と治療家としての仕事に対する主観的要素が絡み合うので難しい問題だと思います
返信する
確かに他人事じゃありません。 (sokyudo)
2010-01-30 12:59:09
>ひろさん

確かに今度のことは、無資格者が施術したから起きたということでも、鍼灸整骨院だから起きたということでもなく、実は治療業を行う我々の誰にも起こる可能性があり、そういう意味で本当に怖い事件です。

ただ事件を起こした柔整師に関しては、(遺族のコメント通りだとすれば)技術があまりに稚拙でありながら(彼自身は、そうしたことについての自覚はなかったんでしょうか?)、誰もそれをチェックできなかった(まさか院をたった一人で切り盛りしてたワケじゃないでしょ)という点は、やはり問題とされなければならないでしょう。
返信する
当院も (nanahoshi)
2010-01-30 22:24:55
私、同じ頃、患者殺しそうでした。

実は、伊万里から来る95歳のおばあさんが肺炎になって呼吸困難になっており
それなのに・・・

病院はイヤ
家かnanahoshi院で死にたいと
唐津から1時間掛けてnanahoshi院へ。

痰が絡むとの家族の話でしたが
舌根沈下し、舌がミイラの様に干乾び掛けて、
喉にへばり付いていました。
治療途中で死んでしまうかと思いましたよ。


一応、鍼で呼吸を安定させ
喉の奥から舌を引き伸ばし、
少し回復したところで
(と言っても、2時間かかったけど。)
伯父のクリニックスタッフに迎えに来てもらって
点滴をしてもらい、
ようやく喋れる様になりました。


新聞沙汰に成らずに済みました。
危ない危ない。

でも、95歳だし
家族も「いつ死んでもおかしくないし」
「家かnanahoshi院で死にたいと言うし」
舌根沈下した所を見て
「年寄りは、普通は、あのまま死ぬんやろうね!」
と、言う状態です。
なのでnanahoshi院で死んでもしかたないかなと・・・・・。
返信する
あまり経験したくないです。 (sokyudo)
2010-01-31 07:34:02
>nanahoshi先生

私もこれまで何人かの先生から、自分の患者が治療後に脳出血を起こして倒れた話とか、着替え中に突然、吐血した話とかは聞いてますが、それに劣らず大変な経験をされたんですね。

それにしても
>病院はイヤ
はわかるとしても
>家かnanahoshi院で死にたい
とは、また大変な…。
私だったら、「頼むからウチでは死なないで~!」とお願いしたいところです。
返信する

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