「麻美さんに何度も確認したんですが、高揚感はなく、多少の波こそあれ、気分の沈んでいる状態が続いているようです。躁うつ病の可能性はほぼありません。気持ちが不安定になるのは、これだけ辛い体験をしていますから、ある意味では当然です。なので、抗うつ薬と抗不安薬をお出しします。抗うつ薬は効いてくるまでに数週間はかかるので、すぐに効果が出なくても飲み続けてください。次回は2週間後に予約を入れておきましたが、それまでに状態が良くなければいつでもご連絡ください」
麻美はたまに頷きながら黙って町田の話を聞いていた。
「あの、私たち家族が心がけることはありますか?」
「決して無理をさせないでください。麻美さんの意志で動ける時に動くことが大切です。彼女は根が真面目なので、無理をしてしまうのが心配です。麻美さん、決して無理しちゃだめだよ。自分が行動したい時に行動すればいいんだから」
「はい、分かりました」
麻美は頷いた。
佐世子と麻美が玄関の外へ出た。まだ外は夕日を残している。
「そうして並んでいると、姉妹みたいですね」
いつの間にか町田が見送りに来ていた。
「ほんと、からかわないで下さいよ」
佐世子は照れ臭そうだった。
「麻美さんも少し元気になったら、私の自宅に遊びに来てね。まだお母さんか彩乃ちゃんの付き添いが必要かもしれないけど」
「ありがとうございます。早く行けるようになりたいです」
麻美は軽く会釈し、町田に笑顔を送った。
町田は麻美に、そしてこの家族にひとつでも笑顔の多い人生を送って欲しいと願った。