乗った後の景色

電車・気動車・バスに乗ることが好きな乗りマニアによる旅行雑ネタブログです。

高敞邑城(全羅北道)

2011-08-29 | 韓国
 今回は韓国全羅北道高敞郡の中心、高敞の町の話です。高敞郡は全羅北道西海岸沿いの最南部に位置し、支石墓群(世界遺産)や、禅雲寺という古刹、城跡の高敞邑城といった観光地があります。そのうち高敞邑城は高敞のバスターミナルから近く徒歩で行ける距離にあるので「乗りバス」のついでに見物してきました。(「乗りバス」の話はこちらをご覧下さい。)

 まず町はもとより高敞郡の玄関口になる高敞共用ターミナルの様子です。町を東西に流れる高敞川の北岸にこれまた東西に走る中央路があり、ターミナルはこの中央路に面しています。ここは高速バス・市外バスのほか市内バスもターミナル内発着なのでわかりやすく乗りやすい部類のターミナルです。支石墓博物館や禅雲寺に行くバスも含め市内バスの乗り場はターミナルの建物の一番端にあり時刻も掲示されていました。


 ターミナル内の待合所にはベンチではなく縁台を大きくしたような「平床」だけが並んでいます。腰掛けるのはもちろん上がってくつろいだり、それこそ寝っころがったりもできる優雅なシロモノです。韓国も日本と同様に「腰掛ける」より「座る」ことが主体の文化なのでこういうものがあるわけですが、さすがにバスターミナルだとこう平床ばかりという風景はあまり見られません。ひょっとして今も「座り」たい人が多い地域のかな、と思うとちょっと面白く感じました。


 真実-秩序-和合、父上母上に孝道をなし年長を恭敬しよう、まっすぐ生きよう運動高敞郡協議会、というスローガンが書いてあります。そういえば昔日本でも「一日一善!」とか「お父さんお母さんを大切にしよう!」と叫んでいたコマーシャルがあったことを思い出しました。こういうのってちょっといかがわしい空気も感じてしまいます。

 ところで韓国のバスターミナルといえばたいがい周辺に旅館・モーテルがあるものです。高敞では泊まる必要があるのでターミナル周辺をあたってみたところ林立状態ではなく数軒パラパラとであまり新しいところはなく、4軒ほど入ってみたところ価格は23000~40000w(中心は30000w)、どこも可もなく不可もなくで決め手を欠く感じでした。

 ではバスターミナルから高敞邑城に向かいます。ターミナルから南に進むとぶつかる高敞川に沿って東に向かうと、川の南岸にちょっと変わった古そうな建物「朝陽館(朝陽食堂とも)」が目に付きました。植民地時代に作られた日本式建築の旅館を改装したのだそうで、韓国の近代文化遺産に指定されているとあります。
 気になったので入って聞いてみたところ、ここは韓定食の店で料理の注文はテーブル単位になってしまい1人で食事をするのは厳しいとのことでした。(1テーブル60000wからとのこと)なので食べられず味はわかりませんが何人かで高敞を訪問されるという場合なら寄ってみるのも悪くなさそうです。ちなみにこの店とは関係のない話ですが高敞郡の名物というとウナギだそうです。ただ焼肉のように目の前で焼きながら食べるそうなのでこれも1人では食べづらいかもしれません。


 朝陽館から高敞邑城の入口まではすぐです。高敞邑城の入口周辺には展示系の施設がかたまっていて、まず美術館が見えます。


 次にパンソリ博物館がありました。パンソリは日本音楽で例えるなら「語り物」に相当するような伝統音楽で、太鼓で拍子をとりながら節をつけてストーリーを語りこんでいくものです。博物館の扇子が看板なのは語り手が扇子を持って語るからなのでしょう。


 パンソリ博物館の隣には申在孝という李朝末期にパンソリを体系化した人物の家があります。


 パンソリ博物館のすぐ先が高敞邑城です。料金所があり「高敞郡民は無料(身分証持参のこと)」と書いてあるので当然私は入場料を払うべきところなのでしょうが、夕方だからか料金所に誰もいないので払いようがなくそのまま入ってしまいました。近所の人たちは普通の公園と同じように利用している感じで、身分証をいちいち持ってきている雰囲気もしませんでしたから入場料は厳密ではなくタテマエになっているのかも知れません。その辺りは真っ昼間とか週末や休日を見ていないのでわかりませんけれども。


 高敞邑城はソウル南郊の水原にある有名な水原華城ようにぐるり一周する城壁で、北門(拱北楼)が入口になっています。

 曲がったまま使われている堂々たる木にこれまた堂々たる彩色がほどこされているので韓国らしさを感じました。


 高敞邑城の中にはかつて役所の建物がいくつも建っていたそうですが、今は復元された建物がいくつかあるのみです。北門から入ってすぐのところにあるのがそのうちのひとつ「獄」です。


 城壁の上は歩いて一周することができます。

 なんでも女性は頭に手のひら大の石を載せて1周すると足の病気が治り、2周すると無病息災長寿、3周すると極楽往生できるという言い伝えがあるそうです、と聞くと3周した瞬間にポックリ逝ってしまいそうな気もしてしまいますが、おそらくあくまでも1周・2周の結果があった上で「最終的に」という意味なのでしょう。


 ひょっとすると男性だと大していいこともないのかも知れませんがとりあえず1周しました。城壁から降りてウロウロしていると「斥和碑」という碑が見えます。なんでも李朝末期の大院君が西洋列強が侵略しにきた時代に「西洋人が来たとき戦わずに和睦したらそれは国を売るようなものだ。」という攘夷思想を宣言したものだそうです。


 暗くなってきたので高敞邑城を出てちょっと周りをウロウロしたところ落ち着いた家々が並んでいました。

 自家用とおぼしき庭の菜園が見えうらやましくなります。


 高敞川の南岸には市場があります。工事中の様子で夜となるとどこも閉まっているのであまり足を運んだ意味はありませんでしたけれども。市場から北に川を渡るとバスターミナルです。


 という具合に夕方からのあわただしい見物になりましたが楽しく散歩できました。全般に早仕舞いのようだったので訪問したら早寝早起きが吉と思われます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

霊光原発

2011-08-27 | 韓国
 今回は韓国全羅南道霊光郡にある霊光原子力発電所を見物したときの話です。韓国にある全4ヶ所の原発のうち古里原発月城原発蔚珍原発は東海岸にありこの霊光原発のみ西海岸にあります。位置は全羅南道沿岸最北の郡「霊光郡」でちょっと北に行くとすぐ全羅北道です。稼動を始めたのは1986年で現在6基の原子炉が並んでいます。

 霊光郡各地の玄関になるのは「霊光バスターミナル」です。ここまでソウル江南のバスターミナルから3時間40分、光州の高速・市外バスターミナル(ユースクエア)からだと1時間で着きます。霊光バスターミナルからは法聖浦・弘農経由山城里行き農漁村バスに乗ると約30分で原発の正門前です。ただ今回は「乗りバス」目的だったのでローカルバス乗り継ぎをするため隣の全羅北道高敞郡から行きました。

 着いた原発正門の脇には原発職員や用事がある人を当て込んでいるのか食堂があります。「朝ごはん」なんて看板が出ていて硬い雰囲気の原発と並ぶとちょっと面白く感じました。


 正門に向かって左の坂を上ると原発に付属する展示館(広報館)があります。

 展示館の正面にはずらりと並ぶ原子炉、そして伸びる送電線で絶景といえば絶景かなでしょうか。


 では中に入ってみます。1階にある展示館の入口をくぐるとまずは地元の名産品PRコーナー。中でも一番目立っているのが霊光郡を代表する名物クルビ(イシモチの干物)です。

 日本でイシモチと言ってもあまりパッとしない感じですが、韓国では高級魚です。その中でも霊光郡内の法聖浦という町で作られるものが「霊光クルビ」としてブランド力があり高価です。コーナーの端には霊光郡のみならず北隣にある全羅北道高敞郡の観光案内図が一緒に出ています。高敞郡には世界遺産に指定されている支石墓群があるのでそれと霊光クルビをハシゴする観光客は結構多いのではないかと思いますが、原発もハシゴする人はいったいどのくらいいるのでしょうか。


 続いて肝心の電力系展示が始まります。最初はエネルギーの歴史と水力発電からです。エネルギーの歴史の図や水力発電所の模型などが続き、あっさり目に終わります。


 水力の次は火力です。エレベーター風の入口の先に炭鉱の坑内様子が再現されていました。その後石炭や石油の埋まっている地層の様子や火力発電所の模型が続きますがここも水力同様あっさり目です。(原発に付属する展示館ですしね。)


 で真打登場という具合に原子力発電の展示と「未来」の展示が2階で一緒になっています。そういえば原子力発電が始まってもう何十年と経ちとっくに過去あるいは現在のものなのですが、なぜか原発というとたいてい「未来」が強調されがちです。いつまでも未来と言い続けなきゃならないということはつまり今になってもまだ確立したものでないということなのでしょうけれども。


 「私たちの国の原発技術力」が誇り高く語られ、国産原子炉「APR-1400」や「OPR-1000」の写真が展示されています。そういえば韓国の原発は輸出産業になっているのでした。そういう方面のPRもしているわけですね。


 原子炉の型の比較というのがありました。

 黒鉛減速沸騰軽水炉(RBMK・チェルノブイリのはこれ)、沸騰水型軽水炉(BWR・福島第一他日本に多い型)、加圧水型軽水炉(PWR・韓国にも日本にも多くスリーマイル事故のもこれ)、加圧重水炉(PHWR・日本にはなく韓国では蔚珍にだけ存在)と並んでいます。

 この展示は月城原発蔚珍原発で見た福島第一原発事故後の急ごしらえっぽい比較展示とは違いずっと前からあったようでおそらく「チェルノブイリなんかと韓国の原発は違うんだ」という主張が込められているんだと思いますが、今年になってさらに「フクシマなんかと韓国の原発は違うんだ」という主張にも使えるようになったわけで作った人には先見の明があった、のかなあなどと考えてしまいました。

 原子力発電の優位性を説くコーナーでは太陽光・重油・天然ガス・石炭と比べ「原子力が一番経済的です」だそうです。それにしても原発の原価計算ってどこまで入れてるものなのでしょうか。日本だったら種々の立地用交付金や寄付金の類や広告費、割引計算しない高レベル廃棄物処理費用(決まってないのに計算できるかという突っ込みはさて置くとして)や解体費用、そしてフクシマのような事故のあらゆる被害額、さらに原発事故に対する「上限なしの」保険があると仮定した時の保険料を入れて計算した原価がどのくらいなるのでしょうか。大事故がまだなく軍事政権時代に立地を決められた韓国はだいぶマシになりそうな気がしますが、それにしてもそう安く済むもんなのかなと思うところです。


 中・低レベル廃棄物処理場建設計画の展示がありました。慶州の月城原発の近所に建設中で2009年12月には出来てると書いてありますが実際は遅れていて訪問時はまだ工事中です。原発の展示館なんだからこういうところはちゃんと訂正しておいて欲しいところですが。そういえば高レベル廃棄物はどうするのだろうと当然思うわけですが、そこはあまり突っ込んではいけない大人のお約束なのでしょうか。


 でもって五重の壁に守られているから表に放射線や放射性物質は絶対出しません、しっかり測ってちゃんと管理してます、自然には放射線がいっぱいある上レントゲンとかもあって被曝してるんだから原発なんか気にすんな、とこれは毎度のお約束系展示です。



 原子炉まわりの3分の1スケール模型みたいなのもお約束ですね。


 原発の温排水はキレイでちょっとぐらい暖まったって問題ないという主張です。この周辺の海は水深が浅く温排水の影響が広がりやすいため漁業や海苔養殖に対し補償金が出たりもめているそうなので避けて通れないのでしょう。


 原発のオマケのようについてくる太陽光と風力の展示も少しばかりありました。

 で省エネしようねと続くお約束とか公共交通に乗ろうと書いてある辺りになると唐突にくっつけてくるなあと思いつつ特に異存はありませんという感じです。


 最後に温暖化対策のコーナーで「クリーン開発メカニズム」の説明を見てみます。先進国が途上国に資金と技術を援助してCO2を削減できたら一定の割合が先進国の削減量とみなされるという仕組みです。で挿絵は白い顔が先進国民、黒い顔が途上国民になっているのでちょっとなんだかなあという気分になりました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

蔚珍原発

2011-08-20 | 韓国
 今回は江原道との境に近い慶尚北道蔚珍郡北面富邱里にある蔚珍原子力発電所を見物したときの話です。
 韓国の東海岸には南から古里原発月城原発・蔚珍原発と3箇所の原発があります。蔚珍原発は1988年に商業運転を開始したもので徐々に増設を繰り返し現在6基の原子炉が稼動中です。他の原発と同様に隣接して新蔚珍原発という形で2基建設中と言いますから今後さらに原子炉が集中することになります。

 蔚珍原発は古里・月城に比べ大都市から遠く周囲はいよいよ過疎地という感じです。作られた電気が山を越え遠くソウル周辺つまり首都圏で多く消費されることを考えると「裏で作って表で使う」という日本の原発を思い出させられるものがあります。というと不便そうですが、韓国の東海岸は道路とバスがよく整備されているので案外と移動しやすい場所です。また敷地は町外れではなく大都市から直通バスのある富邱バスターミナルから歩いて10分くらいですので「着いてから」の移動も悩まずに済みました。


 富邱バスターミナルの切符売り場と売店が同居する待合所はご覧の通り鄙びていてストーブの姿が好ましく、東海岸の名物カニを獲る様子を写した写真が飾られいい味出しています。

 このターミナルからの所要時間は以下の通りです。ソウル3時間50分・浦項2時間20分~3時間半・大邱2時間40~50分・釜山3時間50分~6時間・江陵2時間10~30分(途中停車する停留所の数などで所要時間にバラツキあり)ちなみにこのターミナルから西の山側に農漁村バスで上がっていくと徳邱温泉という温泉場がありますので原発見物とあわせて寄って行くのもいいかもしれません。(この周辺での「乗りバス」の話はこちらをご覧下さい。)

 ターミナルから原発に向かいます。ターミナルのある富邱の町中(北側)から富邱川を渡った南側の川岸と海岸線に沿った一帯が原発の敷地です。川まではターミナルから200mくらいで、町と原発を結ぶ富邱橋からは原発の敷地が見えます。


 逆に原発側から町のある北側を振り返ると川こそ挟むものの町と原発はすぐそばです。


 原発前の敷地は「蔚珍原子力公園」という名前で公園風に整備され、その中の北側、富邱橋を渡ってすぐの町に一番近い位置には「蔚珍原子力スポーツセンター」があります。いわゆる地元向けの見返り施設ということでしょう。実にストレートなネーミングですね。


 スポーツセンターの先には原発本体への正門があり、その前を奥に進みます。


 原発のPR施設「広報館(弘報館)」に到着しました。期待を裏切らない(?)ような近未来っぽい外見です。


 入口から受付に進むとパンフレット類と一緒に蔚珍原発オリジナルグッズと言える「原発うちわ」を配っていたのでありがたく頂戴しました。


 展示室に入るとまずキューリー夫人の顔が見え、偉大な人類の進歩、みたいな雰囲気が盛り上げられています。


 その先にとってつけたような急ごしらえの三脚展示が3つ並んでました。内容はそれぞれ「加圧水型軽水炉(国内)・沸騰水型軽水炉(日本・フクシマ)・加圧重水炉(国内)」という図解。本当にただ図解が描いてあるだけでそれぞれの特徴だとかどれが優れているとかいった説明が全くないのが実に不気味です。「韓国の原発は爆発するようなしょぼい日本のフクシマの原発なんかとは違うカタなんだ」と言いたいのでしょうか。


 もう一つ急ごしらえらしい三脚には「人工放射線VS自然放射線」という飛行機にアメリカまで乗ったら、とかレントゲン一回、などいろんな場面での被曝量を示すが図があります。なぜ唐突に?と思ってよく見ると、「福島第一原発事故による韓国への影響」が加えられていて納得しました。韓半島(朝鮮半島)直接上陸時0.3ミリシーベルト以下とのことです。こんなものを立てるくらいですからフクシマ以降問い合わせが多かったのか、先手を打ったのか、ともあれ一応日本人のはしくれになってる以上日本のせいで全くご苦労様ですとしか言えませんけれども。


 その先にはお約束の原子炉の模型がありました。スケールは3分の1だそうです。


  世界エネルギー現況の展示によると石油40年、石炭200年、天然ガス60年に対しウランはあと3600年もつそうですが、ウランのとこだけ小さく(再処理時)と書いてあるのはイカサマのような気がします。


 子供向けなのかアニメも常時流れていて、働き通しで疲れて死にそうな石油君を助ける謎のヒーローがウラニウム君という筋立てのようです。わが日本のヒーロー「頼れる仲間プルト君」と一騎打ちしたらどっちが勝つかなとか考えてしまいました。


 パズルゲームのコーナーの数が多いのは小学生とかの団体さんをいっぺんさばくためでしょうか。


 人工放射線と自然放射線量の比較は常設の展示もありました。このロジックは好まれるようですね。


 飛行機に乗った時の被曝量の写真がチャイナエアライン(中華航空)で行先がヨーロッパというのは意外です。上述の三脚にあった同様の説明では大韓航空らしき絵でアメリカまでだったのですが。被曝量は距離を考慮したのかアメリカの0.1ミリシーベルトに対しヨーロッパは0.07ミリシーベルトにしてあります。


 と思ったらまたも人工放射線VS自然放射線の図でこれは最初の方にあった三脚の図と大体同じものです。


 その隣に放射性廃棄物についての展示が続きます。それにしても最終処分場作らないまま動かしちゃうんですからどこの国も大胆というか無責任というかいい加減なものですね。


 その先ではシミュレーションルームで訓練する職員さんの様子が見られます。


 最後は温暖化対策には原発というお約束がシメになって出口でした。

 日本が出ているのを見ると全てがブラックジョークだったというオチになりますけれども。


 と思ったら出口の前に地味ながら気になる展示がありました。非常時の行動や避難についての説明で、先に見た古里原発や月城原発の広報館にはこういうものが見あたらなかったのでちょっとびっくりします。

 過疎地だから事故や避難ということを言っても大丈夫なのかなあとちょっと思いました。大都市が近いと影響を与える人口が多すぎて避難を展示できるような具体的な対策として現実味のある話に組み立てられないでしょうから、この手の広報施設としては「事故はない」で押し通すしかなさそうです。その点過疎地だったら避難させる人口が少ないので逃がせるように思えそうではあります。ともあれこれで見物を終え、また橋を渡ってバスターミナルに戻りました。

 最後にちょっとおまけです。ターミナルからバスに乗って5kmほど北上すると道境を越え蔚珍郡に隣接する江原道三陟市に入ります。この三陟市内でも原発建設計画が進んでいたのですが、「フクシマ」の事故後に行われた江原道知事選挙で原発反対派が当選し先行きが不透明になりました。
 日本海側は日本も原発だらけですが、韓国の東海岸ももし三陟がぽしゃったとしても従来の原発に原子炉を増設しているので両側ともいよいよ原発だらけです。ということは世界有数の原発の温排水が流れ込む海というわけで、日本海でも東海でもなく原発海とでも呼んだ方がぴったりしてていいんじゃないのかなあと思ってしまいました。
(西海岸の霊光原発に行った話はこちらです。)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

慶州の月城原発

2011-08-09 | 韓国
 韓国慶尚北道の慶州市は世界遺産に指定された古都で韓国を代表する観光地の一つです。その慶州に行くなら名所古跡はもとより皇南パンに校洞法酒ああウマそう、という方面にもなだれこみたくなるところですが、先日はそうした誘惑に富んだ内陸の慶州中心部はガマンし海岸線だけをバスで抜けました。

 慶州での目的地は海岸線に位置する月城原子力発電所です。慶州は内陸の観光地の印象が強く原発があるというのは意外な気がしました。ここは古里原発に続き韓国で2番目に作られた原発で、現在運転中の原子炉が4基、さらにすぐ隣には新月城原発が建設中です。敷地は慶州市陽北面奉吉里と陽南面羅児里の境界線を跨いでいて、正門や原発をPRする広報館(弘報館)は南の羅児里側に面しています。
 羅児里に行くバスは2路線あり、1つは慶州バスターミナルからの陽南行き座席バス150番、もう1つは蔚山の市外バスターミナルからの(慶州市)甘浦行きの市外バスです。今回は釜山広域市と蔚山広域市の境界線上にある古里原発からハシゴしたので蔚山で後者のバスに乗りました。
 ここが羅児だよ、と運転士さんに言われて降ろされたところは東の海岸線を南北に走る国道31号線沿いのどうということもないような集落です。

 国道に沿って広がる町を歩いてみると夏の陽射しを受けた建物の白さが海辺の町らしさを引き立たせなんだか南イタリアをちょっと思い出しました。


 国道から海沿いに出るとどーんと原発を背景にした浜辺が登場します。なんでもここでは地引網をするそうです。こんなとこで地引き網して魚獲って食って楽しいかっていうとかなり微妙ですが。温排水に寄ってくる魚目当てで釣り人が来るのか釣具屋も見かけました。


 原発のまん前で魚かあとなどと思っていたくせに空腹になると身勝手なものです。耐えられずフラフラと海辺の刺身屋に入ってしまいました。

 フェトッパプすなわち刺身丼10000ウォンを頼んだらカレイか何かのウマい白身がたっぷり丼に盛られ、メシはご丁寧に2杯分出てきます。

 韓国で刺身を食べる時のお約束メウンタン(辛い魚の汁物)も出てきてこれまたウマく食べ過ぎてしばらく動けなくなりました。


 なかなか腹がこなれた気がしてこないのであきらめて満腹のまま刺身屋を出ます。また浜辺に出て原発に向かって歩いていくと暑い昼下がりに女の子たちが海に入って楽しそうに遊んでました。なんだか原発とたわむれている感じです。


 そのうち浜辺に鉄条網が立ちはだかり先に進めなくなります。その鉄条網ギリギリにテント張ってくつろぎながら釣りにいそしむ人がいました。なるべくギリギリまで温排水口に近づきたいというということでしょうか。


 という背景さえ気にしなければごくのんきな雰囲気の中、ふと鉄条網から陸地側を見たら物騒な方面が陣地を構えていてびっくりです。

 そういやここはまだ「休戦」中の分断国家なのでした。ついつい油断してしまいますけれども。原発は戦争になったら格好の標的でしょうからそんな国に建てていていいのかしらんと思ってしまいますが「北」からしても「自分の領土」なのでそこを汚染させてはマズいだろうという暗黙の了解みたいなものでもあるのでしょうか。

 浜辺が行き止まりになったのでバス通りの国道に戻りました。国道沿いに正門があり、入ると公園と原発をPRする広報館が広がっています。


 広報館に入ってみると人類は発展と共にエネルギー消費量が増え、温暖化の問題が浮上、ああ救世主原子力バンザイ、という流れはどこも一緒なので割愛しますが、大きな模型などは少なくパネルでの展示が多いのでややあっさりめな印象です。またここは韓国の原発の歴史展示が他の原発の広報館より多めでやや異彩を放っていました。年表とともに昔実際に使われていた資料や記念品なんかがここ月城原発のもののみならず保存展示されています。

 その中でまず月城原発に関する展示物を見るとカナダ国旗が多く目に付きます。なぜかというと韓国の原発のうちこの月城原発だけはカナダの技術を導入したもので、運転中の4基全てが重水炉(CANDU炉)であることが特徴なのだそうです。重水炉は核兵器生産に好都合という利点(?)もあるというので冷戦時代の軍事政権の思惑が何か絡んでいたのかちょっと気になったりもします。最初に運転を開始した原子炉は1983年に運転開始とそろそろ30年の設計寿命を迎えるのでそれを延長していいのかどうか物議を醸しているそうです。

 古里原発や蔚珍原発、また原子力に限らず韓国電力公社自体の資料も並んでいます。

 歴史的展示物の点数はあまり多くなくそう一貫性があるようにも見えなかったのですが実物があるとぐんと興味が増すものです。


 順路の最後の方になると事故の解説がいくつかありました。「スリーマイル事故とチェルノブイリ事故の比較」は「スリーマイルの事故はチェルノブイリと違って死人も出てなくて大したことなかった。韓国の主流である(加圧水型)軽水炉はスリーマイルと同じだから安心。」みたいな持っていきかたです。それだとやや苦しい気もしますが。また地震で派手に壊れた日本の新潟県にある柏崎刈羽原発についての解説もありました。柏崎刈羽原発は日本海側で韓国に近いからでしょうか。この解説では韓国は日本みたいに地震がないという文脈で安心させようとしているようでした。


 最近作ったっぽいのがこの「PWR(加圧水型軽水炉)・BWR(沸騰水型軽水炉)設計特性と安全性の比較」という掲示です。「韓国の原発はPWR、日本はBWR、日本のBWRの方が危ない。」という内容です。

 もっとも日本にもPWRの原発はたくさんあるので日本の原発=BWRという前提なのはおかしな話なのですが。多分BWRである「フクシマ」と韓国の原発は違うと思わせる必要が先にあって作られた掲示なんだと思います。「フクシマ」の事故はあまりに大きくしかも現在進行形なのでそれを思い出させてしまう「フクシマ」の文字は出したくない、でも韓国とは違うと思わせたい、という辺りからこのような比較になってしまったんではないかと推測してみました。いずれにしても福島第一原発の事故でとばっちり食ってるのは間違いなさそうです。「ダメ日本のせいでチクショー」と恨んでる原発関係者(特に広報方面)が韓国はもとより原発を持つ全ての国にいるんだろうなあとしみじみ思ってしまいました。

 展示を見終わったら隣接する公園に降りてみます。

「青い空」「澄んだ空気」「キレイな自然」「原子力の約束」といった押し付けがましいパネルと共に何やら重そうな碑が立っていました。羅山初等学校(小学校)跡とあり、見ると1997年原子炉3・4号基ができるにあたりそこから914m以内が居住制限地域とされ全ての住宅や建物が撤去されることになった→原子炉から500mの位置にあった羅山初等学校は移転することになり跡地に記念碑を立てた、という話です。何ごともなくてもそれくらいの範囲は居住制限地域になるんですね。チェルノブイリや福島を考えると気休めにもならないような距離ではありますが。(914mは1000ヤードですからアメリカで考えられた基準でしょうか。)


 という具合に月城原発見物を終えたあとは、その北、直線距離でわずか3.5kmのところにある新羅の文武大王陵(大王岩)という海中墓を見に行きました。海岸から遠目だと文武大王陵はただの岩くらいにしか見えませんが、付近は海水浴場になっていてとてもにぎわっています。ここへ来てようやく古都慶州らしさ(?)を感じ、慶州に原発があるんだなあと改めて思いました。
コメント (5)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

釜山の古里原発

2011-08-04 | 韓国
 今回は韓国の原発の中で最も古い釜山広域市(+蔚山広域市)の古里原子力発電所の話です。ここで最初に運転が開始された1号機(1978年に営業運転開始)は設計寿命の30年を過ぎた後に政府の許可とって再稼動している老朽機とのことで、敷地内にはこの1号機をはじめとする4基の原子炉が並び、またすぐ隣には「新古里原子力発電所」が建設され原子炉1基が運転中(さらに増設される予定)なので合計5基がかたまっていることになります。ここの見物に行くことにしました。

 釜山の街中にある釜田駅で東海南部線の列車に乗るとビーチが有名な海雲台を通って50分ほどで古里原発の最寄駅、月内駅に着きます。停まる列車があまり多くない上均等な間隔になっていないのであまり便利ではありません。なお月内にはバスも数路線来ていて、釜山方面からの場合は梵魚寺から高速バスターミナルのある老圃洞を通って月内まで来る37番が15~30分間隔と比較的利用しやすそうです。


 駅を出るとバス通りの国道31号沿いに月内の町が広がっています。釜山広域市に組み込まれているとは言え一番端らしくのんびりした雰囲気です。


 町からテトラポットが並ぶ海岸線に出るとどーんと原発が見えます。暑い夏の日差しの下原発に向かって竿をのばす釣り人もごくろうさんですが、わざわざ日本から見に来た私が言えたセリフじゃありませんね。


 海沿いを東に歩き月川橋を渡ったところが蔚山方面から来る715系統バスの折返場でした。(乗りバスの話はこちらをご覧下さい。)日本でも市境だとかバス会社のテリトリーの端にはこうした「ちょっとだけお隣に入って折り返す」系統があるものですが、こういうバスの境目が好きなのでちょっとうれしくなります。


 ものものしい鉄条網が見えるといよいよ原発です。

 すぐ近くまで民家があっていわゆる原発マネーで作られたらしき小公園があったりもします。



 原発の正門です。日本のように原発PR目的の広報展示館があるというのでそこに向かうことにしますが、それはこの門の中ではなく内陸側の国道から続く原発前の敷地にあります。


 ありがちな地元見返りっぽいスポーツ施設があるのはお約束というべきでしょうか。


 大変ご立派な広報展示館に着きました。


 広報展示館に入ると最初は蒸気機関やらクルマ、スペースシャトルといったでかい模型を並べ、産業革命からとにかくエネルギーが必要になり今や夢の原子力時代に突入、という流れに持っていっています。こういうあっけらかんとした明るい未来を臆面もなく見せられるとただしみじみするほかありません。もっともスペースシャトルも引退だっけとふと思いました。


 生活には電気が必要だね、という顔だけディスプレイという家族の会話です。こういう懐かしい近未来っぽさを感じさせる展示は原発らしい気がしました。


 発電所ですから送電の順番もちゃんとあります。

 これは絶対電車も出てくるはずと思ったら案の定地下鉄を発見しました。でもこれどこの地下鉄がモデルなんでしょうね。


 太陽光と風力発電の間にはさんで原発を仲間扱いしてます。この手の同一化はお約束という感じですね。


 生活の中でも放射線浴びてるんだから原発なんて気にするなの図です。これはもっと基本的なお約束というところでしょうか。


 世界の原発ランキング地図です。日本の原発が54基ではなく56基になっているのは2009年の浜岡廃炉分が反映されていないからかもしれません。


 韓国の原発分布図です。赤の原発4ヶ所21基に加え青の水力発電所もあるのは韓国の原発を運営しているのが「韓国水力原子力」という韓国電力公社の子会社だからですが、そういえば原子力と水力を一緒にした理由もちょっと気になったりします。


 放射性廃棄物のクレーンゲームなどお子様向けゲーム類が充実しているのはやっぱりという感じです。校外学習に来ていた小学生が群がっていました。



 ひと通り見物したあと国道から原発に入る道、つまり表口から出ると「明るい光 澄んだ空気 私たちの原電(韓国では原発ではなく原電と表現します。)」のスローガンに並んで補身湯店が大きな看板を出して建っていました。「45年の伝統 補身湯名家」とあったので原発より古いわけです。土地柄原発で働く人たちがお得意様なのかなあなどと思ったらちょっと食べたくなりましたが残念ながらメシの時間じゃなかったので今回は断念しました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする