乗った後の景色

電車・気動車・バスに乗ることが好きな乗りマニアによる旅行雑ネタブログです。

蔚珍原発

2011-08-20 | 韓国
 今回は江原道との境に近い慶尚北道蔚珍郡北面富邱里にある蔚珍原子力発電所を見物したときの話です。
 韓国の東海岸には南から古里原発月城原発・蔚珍原発と3箇所の原発があります。蔚珍原発は1988年に商業運転を開始したもので徐々に増設を繰り返し現在6基の原子炉が稼動中です。他の原発と同様に隣接して新蔚珍原発という形で2基建設中と言いますから今後さらに原子炉が集中することになります。

 蔚珍原発は古里・月城に比べ大都市から遠く周囲はいよいよ過疎地という感じです。作られた電気が山を越え遠くソウル周辺つまり首都圏で多く消費されることを考えると「裏で作って表で使う」という日本の原発を思い出させられるものがあります。というと不便そうですが、韓国の東海岸は道路とバスがよく整備されているので案外と移動しやすい場所です。また敷地は町外れではなく大都市から直通バスのある富邱バスターミナルから歩いて10分くらいですので「着いてから」の移動も悩まずに済みました。


 富邱バスターミナルの切符売り場と売店が同居する待合所はご覧の通り鄙びていてストーブの姿が好ましく、東海岸の名物カニを獲る様子を写した写真が飾られいい味出しています。

 このターミナルからの所要時間は以下の通りです。ソウル3時間50分・浦項2時間20分~3時間半・大邱2時間40~50分・釜山3時間50分~6時間・江陵2時間10~30分(途中停車する停留所の数などで所要時間にバラツキあり)ちなみにこのターミナルから西の山側に農漁村バスで上がっていくと徳邱温泉という温泉場がありますので原発見物とあわせて寄って行くのもいいかもしれません。(この周辺での「乗りバス」の話はこちらをご覧下さい。)

 ターミナルから原発に向かいます。ターミナルのある富邱の町中(北側)から富邱川を渡った南側の川岸と海岸線に沿った一帯が原発の敷地です。川まではターミナルから200mくらいで、町と原発を結ぶ富邱橋からは原発の敷地が見えます。


 逆に原発側から町のある北側を振り返ると川こそ挟むものの町と原発はすぐそばです。


 原発前の敷地は「蔚珍原子力公園」という名前で公園風に整備され、その中の北側、富邱橋を渡ってすぐの町に一番近い位置には「蔚珍原子力スポーツセンター」があります。いわゆる地元向けの見返り施設ということでしょう。実にストレートなネーミングですね。


 スポーツセンターの先には原発本体への正門があり、その前を奥に進みます。


 原発のPR施設「広報館(弘報館)」に到着しました。期待を裏切らない(?)ような近未来っぽい外見です。


 入口から受付に進むとパンフレット類と一緒に蔚珍原発オリジナルグッズと言える「原発うちわ」を配っていたのでありがたく頂戴しました。


 展示室に入るとまずキューリー夫人の顔が見え、偉大な人類の進歩、みたいな雰囲気が盛り上げられています。


 その先にとってつけたような急ごしらえの三脚展示が3つ並んでました。内容はそれぞれ「加圧水型軽水炉(国内)・沸騰水型軽水炉(日本・フクシマ)・加圧重水炉(国内)」という図解。本当にただ図解が描いてあるだけでそれぞれの特徴だとかどれが優れているとかいった説明が全くないのが実に不気味です。「韓国の原発は爆発するようなしょぼい日本のフクシマの原発なんかとは違うカタなんだ」と言いたいのでしょうか。


 もう一つ急ごしらえらしい三脚には「人工放射線VS自然放射線」という飛行機にアメリカまで乗ったら、とかレントゲン一回、などいろんな場面での被曝量を示すが図があります。なぜ唐突に?と思ってよく見ると、「福島第一原発事故による韓国への影響」が加えられていて納得しました。韓半島(朝鮮半島)直接上陸時0.3ミリシーベルト以下とのことです。こんなものを立てるくらいですからフクシマ以降問い合わせが多かったのか、先手を打ったのか、ともあれ一応日本人のはしくれになってる以上日本のせいで全くご苦労様ですとしか言えませんけれども。


 その先にはお約束の原子炉の模型がありました。スケールは3分の1だそうです。


  世界エネルギー現況の展示によると石油40年、石炭200年、天然ガス60年に対しウランはあと3600年もつそうですが、ウランのとこだけ小さく(再処理時)と書いてあるのはイカサマのような気がします。


 子供向けなのかアニメも常時流れていて、働き通しで疲れて死にそうな石油君を助ける謎のヒーローがウラニウム君という筋立てのようです。わが日本のヒーロー「頼れる仲間プルト君」と一騎打ちしたらどっちが勝つかなとか考えてしまいました。


 パズルゲームのコーナーの数が多いのは小学生とかの団体さんをいっぺんさばくためでしょうか。


 人工放射線と自然放射線量の比較は常設の展示もありました。このロジックは好まれるようですね。


 飛行機に乗った時の被曝量の写真がチャイナエアライン(中華航空)で行先がヨーロッパというのは意外です。上述の三脚にあった同様の説明では大韓航空らしき絵でアメリカまでだったのですが。被曝量は距離を考慮したのかアメリカの0.1ミリシーベルトに対しヨーロッパは0.07ミリシーベルトにしてあります。


 と思ったらまたも人工放射線VS自然放射線の図でこれは最初の方にあった三脚の図と大体同じものです。


 その隣に放射性廃棄物についての展示が続きます。それにしても最終処分場作らないまま動かしちゃうんですからどこの国も大胆というか無責任というかいい加減なものですね。


 その先ではシミュレーションルームで訓練する職員さんの様子が見られます。


 最後は温暖化対策には原発というお約束がシメになって出口でした。

 日本が出ているのを見ると全てがブラックジョークだったというオチになりますけれども。


 と思ったら出口の前に地味ながら気になる展示がありました。非常時の行動や避難についての説明で、先に見た古里原発や月城原発の広報館にはこういうものが見あたらなかったのでちょっとびっくりします。

 過疎地だから事故や避難ということを言っても大丈夫なのかなあとちょっと思いました。大都市が近いと影響を与える人口が多すぎて避難を展示できるような具体的な対策として現実味のある話に組み立てられないでしょうから、この手の広報施設としては「事故はない」で押し通すしかなさそうです。その点過疎地だったら避難させる人口が少ないので逃がせるように思えそうではあります。ともあれこれで見物を終え、また橋を渡ってバスターミナルに戻りました。

 最後にちょっとおまけです。ターミナルからバスに乗って5kmほど北上すると道境を越え蔚珍郡に隣接する江原道三陟市に入ります。この三陟市内でも原発建設計画が進んでいたのですが、「フクシマ」の事故後に行われた江原道知事選挙で原発反対派が当選し先行きが不透明になりました。
 日本海側は日本も原発だらけですが、韓国の東海岸ももし三陟がぽしゃったとしても従来の原発に原子炉を増設しているので両側ともいよいよ原発だらけです。ということは世界有数の原発の温排水が流れ込む海というわけで、日本海でも東海でもなく原発海とでも呼んだ方がぴったりしてていいんじゃないのかなあと思ってしまいました。
(西海岸の霊光原発に行った話はこちらです。)

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