乗った後の景色

電車・気動車・バスに乗ることが好きな乗りマニアによる旅行雑ネタブログです。

チマキと第一原発(石門区)

2011-07-14 | 台湾
 今回は台湾島の最北端に位置する「北海岸(北部海岸)」と称される地域の一角、新北市石門区の話です。石門区の中心までは台北駅から直線距離で約28キロとそう大した距離でもないのですが、行こうとすると台北の街の北には陽明山国家公園がありここを避け遠回りしなければなりません。一般的な行き方はMRTの終点淡水駅まで出て海岸線沿いに1時間程度バスに揺られることになるので台北駅から2時間弱見ておく必要があります。

 石門に足を運んだ理由はこの海岸線沿いのバスに乗るためで、話が逆というのかせっかくだから途中下車しながら乗ろうと考えたらその途中に石門があったという流れです。石門に着いた辺りでちょうど昼時だったのでまず腹ごしらえをすることにしました。石門の名物はチマキだというのでその代表店、石門区公所バス停の前にある「劉家肉粽」に行ってみます。

 お店は淡水からのバスを降りてすぐ目の前なので迷いようがありません。入るとチマキと一緒に煮た貝が売られていました。店内にはごく小さなカウンターがあるくらいでその場ではやや食べづらい感じです。(訪問時はごく空いていたので椅子を貸してもらいましたが。)一番高い一個55元の招牌粽にしたところくどくなくあっさり目のところがいい持ち味のチマキでした。ちなみにこのお店はセントラルキッチンで作ったチマキを各店に輸送する方式で台北市内の士林にも分店があり実はわざわざここまで来なくても食べられるようです。


 腹ごしらえが済んだらまたバスに乗り、海岸線を東に3kmほど進んだ乾華バス停で降ります。このバス停の目の前に台湾電力第一核能発電廠、すなわち台湾第一原発があるのでちょっと見物していくことにしました。
 原発の奥には風力発電の風車が見えます。そういえば以前行ったことがある浜岡原発(静岡県)の周りにもあったと思い出しました。風が強いであろう海沿いは風力発電の立地として悪くないのでしょうが、ひょっとすると原発は風力発電のようにクリーン、みたいな印象を与えるための道具としての役割もあるのかと思ったりもするところです。

 ここの原発は第一というくらいで台湾の原発の中で一番古く、営業運転は1978年からと福島第一をはじめとする日本の老朽化した原発には及ばないもののかなり経っているのだそうです。
 台湾の原発は全島に3箇所あり、第二原発はこの石門と同じ新北市内の海岸沿い金山区、第三原発はぐっと離れて台湾島南端の屏東県のリゾート地墾丁国家公園内に位置し、それぞれ原子炉が2つずつあるので稼動中の原発は3箇所6基ということになります。さらに現在建設中の第四原発は新北市内の東部海岸沿いにある貢寮区なので新北市沿岸は言うならば日本の若狭湾のように台湾の原発銀座という感じでしょうか。
 それにしても日本に劣らぬ地震大国の台湾で台北から30km切るところに第一・第二と並べているのは大胆というか、台北から遠いところに押し付けなくてエライというべきなのか、ともかく仮に福島第一並の事故が起こったら台北市内まで避難地域になってしまうわけです。単純に台北駅の代わりに東京駅からの直線距離で考えると横浜のみなとみらいとか稲毛の海岸辺りに原発があるくらいの感覚ですから感心しました。

 ではまず乾華バス停前から正門の前に立ってみます。原子炉の建屋はこの正門から西にトンネルを越えた奥にあり、複雑な地形の敷地なのでややごちゃごちゃした配置です。

 海岸沿いのバス通り、省道2号に沿って敷地が続いているので西(石門側)に歩いていくと正門より原子炉建屋に近い通用門があり、この前で省道は原発のある山側の旧道と海側の新道に分かれています。また新道の橋の下を通って原発の排水路手前までつながる小道もあったのでちょっと見に行くことにしました。


 原発の排水路に突き当たります。こうして見るとかなり水量があるものです。原発の温排水に集まる魚を目当てに釣り人が頑張る様子を以前浜岡原発の周りで見たことがありますが、台湾も同様で排水路の両脇に何人も釣り人がいました。


 この排水路には旧道・新道両方の橋が架かっています。このうち犬の像(理由は後述)が飾られた原発側の旧道の橋「十八王公橋」を渡って先に進みます。


 この橋から原発を見ると原子炉の建屋が目の前にありました。今あれが吹っ飛んだらおれもうダメだなと恐ろしくなります。台湾も地震の多いところですし。


 橋を渡りきるとすぐに「十八王公廟」があり、門前町というにはやや小さい規模ながら参拝客相手のお店が集まっています。前述の劉家肉粽のみならずこの廟前でもチマキが名物ということでいくつかのチマキ屋さんが並んでいました。

 この廟の由来ですが、清の頃福建省の方から船に乗ってきた17人の商人が難破で溺死し、一緒に乗ってきた1匹の犬は助かったにも関わらず主人の後を追って身を投げ死んだという故事がはじまりだそうです。これに感銘を受けた地元の人たちが17人と1匹を一緒に祀ったから合計十八、という話ですから当然主役は忠犬ということになり橋にまで像がくっついているというわけでした。


 ちなみに原発の正門から2kmほど山側に登っていくと高さ30mの犬像がある新十八王公廟というのもあるそうです。こうなると原発の守護神にも見えてきますね。


 お店が集まる一角を抜けると原発事故発生時の避難についての案内板がありました。原発から半径5kmが避難計画地域とのことです。

 事故の警報は1秒鳴って1秒休むサイレンを90回繰り返すもので(解除のサイレンは途切れない180秒連続の鳴りっぱなし)その際はまず室内に退避しラジオやテレビの指示を待てとのことです。それで避難指示が出たら指定の集合地に避難するという手順のようですが、前は海・後ろは原発状態のここでのんびり退避しているヒマなんてあるのやら、どうしてもネガティブな気分になってしまう石門でのひとときでした。

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