“さるかに合戦”  臼蔵 と 蜂助・栗坊 の呟き

震災や原発の情報が少なくなりつつあることを感じながら被災地東北から自分達が思っていることを発信していきます。

TPPはこれからでも止められる おわり

2016年05月08日 12時00分38秒 | 臼蔵の呟き

おわりに

 皆さんにお渡しした今日の話の目次には、まだこの先に、「5.TPPに連動した「農協改革」は協同組合を否定している」と題した項――そこではとくに〈生協9条の会北海道〉の皆さんに、今日の協同組合全般の意義や機能にまでひろげてお話したかったのです――と、「6.日本の小規模家族農業を世界はどう見ているか」との、二つの項を残していますが、もういただいた時間を超えてしまいました。別の機会にゆずることにしましょう。

 しかし最後に、いわば今日の話の「むすび」として、6の項で言いたかったことを、つづめて述べさせてください。

 TPP問題で日本の農業の話をすると、かならず出てくるのが、「日本の農業というのは世界からみたら零細で、担い手が高齢化していて、TPPがあろうとなかろうといずれは無くなっていくんじゃないですか」という意見です。「だからTPP反対って言っても、あんまり迫力がないね」と。零細経営だと発言するとき、何が頭にあるかというと、だいたいアメリカ、それとオーストラリアくらいじゃないですか。何千ヘクタールとかの畑。ヨーロッパとなると、これはだいたい北海道くらいですね。しかし日本全体の平均面積では、1.6ヘクタールですから。たしかに零細に見える---。

 ところが「そうでないよ」っていうのが、国連の国際家族農業年が提示したことなのです。国連が設けた国際家族農業年というもの、厳密には「小規模家族農業」というのですが、大規模な企業的農業でない小規模家族農業こそが重要なのだと。なぜならば、世界の――この数字は私もはじめて見たのですが――農業統計(81カ国)で、農業経営の規模別分布で、1ヘクタール以下というのが73%を占めているのです。2ヘクタール以下とするとこれが85%となります。5ヘクタール以下だと95%。つまり日本の平均1.6ヘクタールはまさに「世界標準」なんですね。で、そういうところががんばらないと、人類は飢えに瀕する。だから小規模家族農業を大切にして、そこにうんと投資しなさいと、これが、国連の提起したことなのです。この文書は日本語にも翻訳されております。〔『家族農業が世界の未来を拓く――食料保障のための小規模農業への投資』農文協刊、2000円+税〕そしてここで、「だけど、小規模零細な家族農業でそんなに生産性を上げていく力がほんとうにあるのか」という疑問にたいして、「日本の農業を見よ」という注があるんです。

 日本農業は、戦後だけ見ても、反あたりの生産力を倍にしている。労働生産性では機械がどっと入ってきて7倍です。その間、規模はほとんど変わっていない。「小規模家族農業のままで生産力を飛躍的に上げた唯一の国」が日本なのです。日本に続く成果を示しているのが韓国と台湾、この両国の経営規模それにコメの反収なんかも、ほとんど日本と同じです。韓国や台湾の農業には、ずっと日本の技術が入っています。アメリカ製の大型トラクターなんか持ち込んでも使えませんから。実際に韓国や台湾で使えるのは、日本でできた耕運機とか田植え機とか---ですね。だから日本の農業に学べば、小規模家族農業の生産力をもっとはるかに上げていけるんだと。

 これは、たいへん大事なことでありまして、私はこの6項(3)に「日本農業は世界の家族経営の希望の星」と書いたのです。これが国連の姿勢なのですね。そのような日本の農業をつぶすようなことばかりやっている安倍農政とはいったい何なのか、日本はその希望から遠ざかっていくのじゃないかということを、この国連文書が「日本語版への序文」に書いております。あらためて皆さんに、日本の農業をぜひ応援していただきたいとお願いして、私の話を終わります。

   


TPPはこれからでも止められる③

2016年05月08日 11時06分18秒 | 臼蔵の呟き

4.「国内農業対策」の二重のウソを許してはならない

 国内農業対策では、自民党は農政体験がまったくないけれど人気の小泉進次郎氏を急遽、農林水産部会長にして「TPP対策大綱」を決め、いま大宣伝しています。大綱には良いことがいっぱい書いてある。アメリカからコメが7万5000トン入ってくるが、「それは全部、国が買い上げます。それを市場にださないでアフリカへの食糧援助にあてます」。牛肉・豚肉の従来の関税が半減されるけれども「赤字経営になったら全部、補填します」等々と。これ、全部やってくれたら、そう心配ないよなあと思わせる内容なんです。

 この自民党の大宣伝に財界も相乗りです。ここに持ってきた『週刊ダイヤモンド』の2月6日号。この大きな見出しが「攻めに転じる大チャンス。儲かる農業」。「小泉進次郎が挑む農政改革二つの特効薬」。週刊ダイヤモンドがこれまで農業をとりあげたことなんか、ないんですよ。われわれも負けないで論壇で言わないとなりません。

 この「大綱」なるもの、まことにインチキであります。第1に、それだけのことをやるんであれば、相当にオカネがかかる。いったい、いくらかかるのか。財源をどうするのか。それについては一言もない。ちょっと考えたら、これからのTPP対策にかぎらず、今までの農業対策だって、国の農業補助金の財源はだいたい農産物輸入への関税収入だったのです。農業保護にあんまり国民の税金を使ったらおこられる、というので。農産物輸入は、小麦、エサ、砂糖等々、量が多いし、それにぜんぶ関税かけてますから、関税収入は相当の額でした。それで農業対策をやってきたのです。TPPでその関税を撤廃する、削減するという。ではいったい、かわる財源はどこにあるんだと。そのことについて、政府は何もいってない。「それについては、農水予算だけでなく政府全体として何とかします」ってだけいうのだけれど、どう考えてもでてこないんですよね。

 いま政府は、「TPPによる影響は限定的で1500億から2100億くらい」と言ってます。2年前まで3兆円と言ってたんですよ。3兆円のマイナスを補填するには3兆円かかるはずだった。こんなふうに見通しがいいかげんだ、財源がはっきりしていない、したがって実効性がないといわざるをえないと私は思っています。

政府のとる諸対策が100%有効性を発揮すれば――つまり政府が考える国内対策に、各農家も農協も全面的に協力し自らも努力する、そうすればこうなるという想定のもとに――TPPによる影響はマイナス1500億にとどまるとか試算しているのですよ。言い換えれば、影響がそんな程度にとどまらない場合、「それはお前らの努力が足りないからだ」ということになりかねない。だから、こういう試算を認める地点から出発したら、あとでどうされるか、わからないのです。これにたいしては早速、各県から、県独自に試算して「うちの県だけで何十億円」とか、だされています。今朝、民進党の議員が国会で質問していましたけれど、政府試算では熊本県農業でTPPの影響はゼロとなっている、それにたいして熊本県が独自に51億円と試算した。「これにかんしてどう思うか」というのでした。こういうこと、これからの国会論議で、しっかり取り上げていただきたいのです。

国内農業対策で政府はあれもやる、これもやると言っているけれども、いちばんのポイントは輸出戦略なんですよ。「自由化というとあんたら農家は、被害者意識で外から安い農産物が入ってきてやられるとばかり考えるけれど、自由化になったらこっちからも出せばいい、日本の農水産物はひじょうに国際評価が高いんだから、外国の富裕層に高く売ればいいんだ」と。これが先ほど週刊ダイヤモンドでみた「攻めに転じる大チャンス、儲かる農業をやりましょう」の中味なのです。

政府の構想では、とりあえず1兆円、輸出する。そのうち2兆円、3兆円と膨らましていきましょう、と。じゃ、この1兆円で何をどれだけ輸出すると考えているのか、これは共産党の紙議員の質問でしたが、その1兆円の中味がひどいんですよ。たしか7割が加工食品です。インスタント・ラーメンとかも入っているんです。ラーメンの原料はみんな輸入小麦でしょう。これ、インチキですよね。日本のインスタント・ラーメンは輸入小麦を原料として生産され、すでに世界市場に出回っているのです。

コメも輸出しましょうと。いくら輸出するのかというと、7000トン。一方、TPPでアメリカから入ってくるのが7万5000トンですからね。これで輸出戦略なんて、こんなデタラメですすめれるわけがない。

「日本の農産物はほかの国より優秀だ」とくすぐられると、けっこう農家もその気になる面もあるのですが、気をつけなければならないことがあります。たとえば青森のリンゴはすぐれた品質をもって、いまでも輸出されています。金額的にはそれほどでありませんが。そこに農水省の役人がきて「こういうのを今後どんどん輸出すればいい」「青森県はTPPによる輸出で豊かになる県だ」と言っていったそうです。それですっかりいい気持ちになった農家もあるんですね。だけどほんとうに、そうなるか。

私はアメリカ最大のリンゴ生産地帯である太平洋岸ワシントン州のリンゴ生産農家を見学したことがあります。地の果てまでひろがっているリンゴ園の規模にも驚きましたが、もっとびっくりしたのは、そこで生食用に栽培されているリンゴの品種が全部ツガルとフジなんですね。ほかにゴールデン・デリシャスとか在来種のリンゴの栽培エリアもあるんですが、それは全部ジュース用で、採取の仕方は大きな機械で木をはさんでワーッとものすごく乱暴にやり、下に敷いたビニールに落とします。一方、果物屋の店頭に並べて生食用に売るのは、アメリカでもツガルとフジでなければ駄目だというんです。それをメキシコなんかから闇で入ってきた労働者を激安賃金で使って、こちらは丁寧に収穫する。それでもすごい低コストです。これが自由化になったらどうなるか。という話を青森でやって、少ししらけさせてしまったのですが。ここんところは、あんまりリップ・サービスはよくないと思うんですよね。

こういう農政に従っていけば、農業の自給率が下がっていくのは必至です。いまの自給率は39%とされていますが、農水省の計算でも25%までは下がると言っております。ところが政府の基本計画というのがあって、そこに必ず「自給率の目標」という項目があります。民主党政権時代に50%に引き上げるとされたこともありましたが、安部内閣になってから「もっと現実的な目標数値にしないと」というので45%に引き下げられました。それでも現実の39%から45%に上げるというわけですから、「政府のたてた数値と農政の年次計画との整合性はどうなんだ」と問うたなら、明らかにこれは説明がつかないですよね。これひとつとっても、政府が言っていることがいかにウソかをがんがん糾弾して国民に真実をとどければ、私はTPPは「止められる」と思っているのです。


TPPはこれからでも止められる②

2016年05月08日 10時04分33秒 | 臼蔵の呟き

3.TPP批准に前のめりなのは日本だけ、なぜ?

 これだけ醜態を演じながら、日本だけが突出してTPP批准に前のめりなのはなぜなのか?その理由がよくわからないのですが、ほかの国の状況と較べてみると、それらの国々がそれぞれ、国内に強力な反対勢力をかかえていることが目につきます。だから、TPPをすすめようという側がひじょうに慎重ですね。国会での批准のための議論は、まだどこでも始まっておりません。

 マレーシアでは、現在の首相が汚職の容疑で訴えられているということもある――それもTPPがらみであることは明らかです。訴えているのがTPPに強く反対している前首相なんです――のですが、それを措いてもTPPはマレーシアにとってひじょうに深刻な事態とつながっています。いちばん問題になっているのは、国営企業の扱いですよ。ベトナムとかマレーシアは、ベトナムは社会主義国ですから当然ですし、マレーシアはいわゆる発展途上国として、民間の資本蓄積が足りないから重要産業がほとんど国営企業なんです。その国営企業を特別扱いするのは止めろというのがTPPですね。アメリカや日本の企業がマレーシアに進出して、国営という特別扱いを解かれたマレーシアの企業とが、フラットで競争させられたら、みなつぶれちゃうわけですよ。そのことを問題にして、マレーシアではいま連日のようにTPP反対のデモが展開されています。その中心になっているのが、国営企業の労働組合です。

 オーストラリアが最後までアメリカともめたのは、新薬の特許の有効期間をアメリカがとってきた12年から、5年に短縮せよということでした。特許が有効な間は同じようなほかの薬を作れませんから、高い値段で買わされるしかない。特許が切れてはじめて他の企業がいろいろ作って、ジェネリック薬品として安く手に入るようになる。TPP参加国のなかで特許つきの新薬を開発するような製薬企業を擁しているのは、アメリカと日本だけです。オーストラリアにはなくて、ほとんどもっぱらアメリカの薬に頼っている。そこから特許期間を5年に縮めろという強い要求がでたわけです。その問題が難航してTPP交渉が漂流寸前までいったのを、甘利さんが「玉虫色にうまくまとめた」という。日本の得意わざですね。アメリカ人は「中をとって8年になった」と考えているが、オーストラリアの人はいまだに「5年できまった」と考えているみたいですね。

 各国がそれぞれの事情で慎重になるなか、現在いちばん慎重になっているのが、アメリカだとさえいえます。新聞によく書かれますけれども、「大統領選挙の候補がみな、TPP反対」という異常事態にあるわけですね。唯一、賛成といっていたブッシュ候補は早々と候補をおりました。またオバマ後継で最有力候補とみられているクリントンは当初あいまいだったのですが、支持団体のはずの自動車産業が(日本と対照的に)労使そろってTPP反対、そして対抗馬のサンダース候補が徹底したTPP反対というので、危機感を強めてついに自分も、TPP反対を明言するようになりました。

 しかしまた、反対の理由が政党、州、諸団体によってまったく違うのがアメリカの特徴。反対理由が正反対だったりしています。民主党が表にかかげる理由は、「TPPは1%の富裕層がトクをするだけ、グローバル企業がますます外にでていき、外国からどんどん安いものが入ってきて、労働者の職が奪われる」ということですし、これにたいして共和党のはまったく逆、「TPPはほんらい関税ゼロを達成すべきなのにオバマ政権は腰がくだけて譲りすぎた」ということです。日本の自民党が「20%を守った」というのが、アメリカ共和党では「20%も譲った」ということになっている。だけどトランプ候補のは、それとも違って、まったくの保護主義ですよ。メキシコとの国境に壁をつくれというのと同じように、日本などとの間に壁をもうけて一切、商品を入れるなと言ってるわけですから。

 こんなてんでんばらばらが最終的に国家の方針として絞られていくときに、どうなるのでしょうね。日本には「選挙の間はいろいろ言っていても当選しちゃうと---?」という風土があるんですが、これはきわめて日本的な発想で、アメリカは、選挙活動中に言ったことは当選後に厳密にチェックされ追及される国柄です。日本の代議士みたいに、「そんなこと言ったかなあ」「ビラには書いてあっても私の口から言ったことはありません」(首相!)「私の本当の気持ちが伝わらなかった」なんていう弁解が国会で通用する---そんなのは先進国では日本だけですよ。

 これらは大統領候補者にそくしてのことですが、国際的な協定を批准するのは議会ですね。議会となると、いろんなロビー団体の活動、グローバル企業の圧力、州レベルの経済利害、などが入り乱れて、どうなるかますますわからなくなってきます。

そういうなかで、何で日本だけがこんなに前のめりになっているのか、というところに問題が帰ってくるわけです。この問題にたいする正答はまだ得られません。むしろ不思議ですね。しかし、考える手がかりになるかもしれない、ひとつのことがあります。それはTPPの「85%条項」と言われているものです。

85%条項というのは、TPP協定は参加国のうちの一国でも批准しなかったら発効しないのかといえば、そうでない。参加国GDP(国内総生産)合計の85%の国の了解が得られたら発効するというのです。つまり参加国の参加有効度を国の数でなく総GDPの割合で測るのですね。小さい国のオチコボレがいくつかでてもよいように、最初から予定されているわけです。参加国のGDP比率ではアメリカが67%、次いで日本が17%です。アメリカを別格として、17%の日本が落ちるだけで85%は満たされないことになり、TPP全体が成り立たなくなる。これを逆に言えば、日本が率先して批准を達成すれば、他の国々に「日米同盟の輪に加わってやるしかない」と思わせるアピールになり、オチコボレも減るに違いない。日本がそういう位置にいることを、日本政府は強く自覚しているでしょう。

私はこの状況を「日本国民はTPP成立に拒否権をもっている」と表現しております。政府が考える日米同盟推進でなく、国民運動をもってぜひ拒否権行使のほうに向かわせたいのです。


TPPはこれからでも止められる!

2016年05月08日 09時02分59秒 | 臼蔵の呟き

TPP協定は、今通常国会では承認はできません。しかし、安倍、山口自公政権が諦めているわけではありません。北海道大学の名誉教授で大田原 高昭さんの講演録です。1万字近い講演録ですので、何回かに分けて掲載します。

この講演は、4月18日生協九条の会北海道が企画した会での講演録です。

              2016年4月18日 生協9条の会北海道の会

TPPはこれからでも止められる!

                          太田原 高昭

 

1.協定は選挙公約と国会決議に明白に違反している

 今日のこのタイトル「TPPはこれからでも止められる」は、昨年の11月にTPPの「大筋合意」が報道されて以来、私がずっとあちこちの講演で掲げてきたものです。生協9条の会の会報に先日載せていただいた文章も、この見出しで書きました。大筋合意されて協定書の調印まで済んでいるのに、「まだそんなこと言ってるのか」といわれることもあるんです。だけどいま、TPPの審議、止まってますよね。いつまで止めれるか、この先、何が起こるかはわかりませんけれども、とにかく、止めて止めて廃止にまでもっていきたいと念じておりますし、その可能性があると信じているのです。

 これからでも止められると私が思っているいちばんの根拠は、協定が、自民党の選挙公約と国会決議に明白に違反しているからであります。だから国会でまともな審議に入れば、おそらくまともに答弁できないことばかりだろう。そしてやはり、冒頭からそうなっておりますね。この国会で私が心配だったひとつに、民進党がどんな態度で議論に入ろうとするかということがありました。といいますのは、TPPはもともと民主党政権のもとで足を踏み入れた――菅内閣がTPPに参加を言い出し、野田内閣が参加方針を決めたものです。いまでも民進党の中はなかなか大変で、賛成派と反対派が混ざり合っている。ですから、どんな姿勢で審議に入ることになるのか、それが気がかりだったのです。いま仕掛けているのはもっぱら手続き論、入り口論議ですよね。しかしその入り口で、「交渉経緯をまず明らかにせよ」という質問にたいしてでてきたのが、あの、ぜんぶ黒塗りの資料です。おかげで民進党の攻めに少し勢いがついた。そこに、これは明らかに敵失ですが、西川委員長の内幕本なるものの校正刷りがでてきましてね、そこに相当、黒塗りして国会議員に示さない実情がいろいろ書いてあるということで、審議ストップになってしまった。

 で、今日、再開されるというので、どんなかたちで再開となるのかと、私は朝からテレビを観ていました。民進党の質問の番だったのですが、民進党は、熊本で大災害が発生した現時点にTPP論議に入るのは優先順位が違うんじゃないかと、ここは政治休戦をし、場を予算委員会に移して災害対策の集中審議をしようと申し入れたようですね。しかしこれには安倍総理が、今国会中にTPP承認へ一歩でも近づけたいと強い意向を示し、強引に審議再開となっているらしい。それにたいして民進党は、「そんなことで災害対策がちゃんとできるのか」と、もっぱら議論の中味を災害のほうに持っていこうとしている。民進党に続く共産党の質問がどういうかたちで進むのかわかりませんが、そんなわけで今のところ、TPPそのものの議論は事実上、ストップしたままです。

 政府はこの間、「TPPは結果がすべてである」「結果で判断してほしい」という答弁をしてきています。だがそれより先に、じっさい何を協定したのか、どういう協定書に調印したのかが、わからない。新聞報道によると、協定書全体は英文で6800ページと膨大なものですが、そのうち政府が日本語に翻訳しているのは2700ページだけです。これで議論しろというのは、もともと無理でありまして、各政党、各団体がいっしょうけんめい翻訳してはいるのですが、国会で議論するにはやはり政府が公式に提供する文章が不可欠です。その意味でも、まだ審議に入れる段階ではないのです。

 協定中味が十分わからないながら、いちばん問題とされてきた農業分野にかんして窺われる結果は、惨憺たるものです。農林水産物の81%が、関税撤廃となります。特にその中で、国会が「重要5品目」を指定して、それは関税交渉の例外にするということが、自民党、公明党を含めた国会決議だったのですね。ところが例外どころか、それらがぜんぶ俎上に乗りまして、「重要品目の30%は関税撤廃」、残ったものも「関税削減」ということになりました。またコメにかんしては関税には触れていないけれど、「関税ゼロ、無条件で新たにアメリカから7万5000トンを輸入する義務を負う」と、そこまで言っているのです。これらはみな、明白に国会決議に違反しています。

 ご存知のように農産物の重要5品目――コメ、ムギ、乳製品、豚肉・牛肉、甘味資源=北海道ではビート――はぜんぶ北海道の基幹作物そのものですね。ですからこのままでは北海道の作物が「根こそぎ」やられるということです。それだけでありません。地域によっては、この5品目以外に基幹作物というべきものがいろいろあるのです。ついこの間、北見に行って話しをしてきましたが、北見の最大の基幹作物はタマネギです。これが関税撤廃の対象です。いまの輸入量が少ないから影響はないというんだが、それは関税があるからこれまで輸入が少なかったという面もあるわけですね。また日高に行きますとウマ(軽種馬)、これも重要品目ではないということで、関税撤廃です。これらにどんな条件変化が及ぶのか、見通しが立たない。それらをとりあげて「がんばって何割は守った」とかいうのが政府答弁でありまして、私は、「これが従来の国会決議に反するかどうかは政府が答弁することではなく、国会でお決めいただきたい」といっているところであります。まともな議論をすれば、これらが国会決議違反であることを、逃れることができないはずなのです。

 大筋合意でTPPは「もう終わった」、そして「あとはその影響をどうして少なくするよう手厚い政策対応をするかだ」という方向に、全国紙の論調が揃ってきています。いまなお徹底抗戦の立場は、道新をはじめ地方新聞だけに見られる傾向といえましょう。日本の新聞を観察している外国人記者の目にも、そう映っているようですね。

この全国紙の論調に対応しているのが、保守勢力の選挙対策ですね。いま、TPPに反対してきた農協を主要ターゲットにして、「決まったことにグダグダやっていてもしょうがないじゃないか、できるだけ手厚い政府の対応を引き出すべきだ」という働きかけ、道内でもそういう猛烈な攻勢がかけられてきております。で、農協もだいぶんぐらついてきている。そういう条件闘争に転換するなんてことをやれば、甘利さんに代わった石原大臣に「やっぱり最後はカネ目でしたね」って馬鹿にされますよと言っているのですが、どうもそういう話になってきている----。

 

2.交渉経過、協定書をめぐる疑問の数々

 全文翻訳と細部の検討が終わっていない膨大な協定文書と、黒塗りの交渉報告書とでは、まだわからないことだらけなのですが、農業について「惨憺たる」結果の見当がついてきていることを上にお話しました。この項では、別の角度から、水面にまだはっきり浮かんでいないいくつかの疑問をとりあげてみましょう。

 まず、生協運動に深くかかわる「食の安全、安心」の視点から、TPPでそれが守られるものか、という疑問があります。

 たとえば、輸入農産物には必ず添加物の問題が伴います。輸入農産物というものは長い船旅をするのですから、何らかの消毒とか防腐行為をしないとそもそも無理です。もちろん輸出の場合も同じ。ですから日本でも、「こういう薬は認める」「認めない」ということでやっているわけですが、その基準について、ずっと以前から、「日本の基準はきつすぎる」という文句を、とくにアメリカからいわれてきました。日本の消費者運動のレベルが高くて、ひとつひとつの薬をしっかり吟味してきた成果ですね。結果として、日本はたとえばアメリカより、だいぶん高い水準にあります。文句よりむしろ、日本に学んで他の国もそこに引き上げるべきものですね。しかし外国からの、この「基準を下げろ」という要求が、今回どう扱われているのか、私たちにはまだわかりません。このことについて国会でも質問があったのですが、政府答弁では「現状を変えることは協定には何も書いてありません、安心してください」と。果たしてそうなのか。私もそのやりとりをテレビで観ましたが、安倍さんの答弁のなかで気になったのは、「食の安全・安心は大切だけれど----過剰抑制はよくない」と、この「過剰抑制」という言葉を何回も使っているのですね。どうもこの言葉が協定書のなかにあるのではないかと疑いたくもなる。過剰抑制とは「世界標準」からみて過剰ということですし、どの分野でも世界標準とはだいたいアメリカが作るものですから、結局アメリカの標準に合わせろということが次第に圧力となってくるのではないか。このあたりは、協定の翻訳が出揃ったあとで、厳密に議論してほしいことです。

TPPが通れば、遺伝子組換えがスルー・パスになるのではないかという懸念も、日本ではずっと出されておりました。現段階の政府答弁では、それにかかわる協定の文言は「ない」と言っております。いまのところ遺伝子組換えそのものに言及していないとしても、アメリカで遺伝子組換えの種を販売している会社モンサントの展望はたいへん楽観的のようです。ガードがきびしいとみられている日本でも、それぞれの食品に「遺伝子組換え」食品だと表示する義務はないのです。ただ、日本では消費者の意識が高いから、「遺伝子組換えでありません」と書くと売れるので、そう表示しているわけです。結果として、「遺伝子組換えでない」と書いているのと書いていないのが分かれるアイテムでは、書いていないのはぜんぶ遺伝子組換えです。油類なんかでそれ、たしかめてみてください。アメリカのナタネは90数%、遺伝子組換えですから。先のモンサント社に言わせると、アメリカでは遺伝子組換えが十分安全だということは確認済みなのだから、商品に遺伝子組換えで「ない」と表示することじたいが不当だと。アメリカではそうでも、日本では「安全だと確認済み」とはなっていないのです。それを食べ続けたらどうか、とか、子孫の代にどうかといったことにまで、日本の消費者運動は関心をもっていますから。日本では「わからない」というのが現時点の判断ですね。

ISD条項というのがありますね。ある企業が他国の市場に進出する、その企業が進出先の国で何か不利益をこうむることになった場合の、紛争解決条項のことです。たとえばアメリカの或る企業がアメリカ国内での公害規制よりもっと緩いと思って他国に投資したら、他国でも公害規制を強めてせっかくの投資が無駄になった。そのときに企業はその相手国を訴える(=損害賠償請求)ことができるというのが、この条項です。すでにこれは国際取引でアメリカ企業が何十回もやってきている訴訟です。そしてアメリカ企業側が負けたことがほとんどないという、いわくつきの係争なのです。なぜアメリカ側が負けないかというのには、いくつかの理由があるのですが、その紛争を扱って裁定するのが、アメリカの全くの主導下にある世界銀行であるという、何とも奇妙な構造も大きいと言われています。どうもそのISD条項がTPP協定に入っているらしい。そうなると、先のモンサントの例で言うと、モンサントが遺伝子組換えの表示をめぐって日本政府や日本の自治体に難癖をつけて裁判になる、TPPをめぐる日本での論評のなかには、将来のその危険性を強く示唆しているものが少なからずあります。日本政府はまだ遺伝子組換え食品の表示を義務化していませんが、北海道では「食の安全・安心」の観点から条例があるわけです。それを決めた委員会の委員長が私ですから。

 水面下にある疑問のうち、農業、食以外のことにも、ひとつ触れておきましょう。日本が世界に誇る、全国民を対象にした国営の健康保険制度、これが骨抜きになるのではないかという危惧です。日本医師会、歯科医師会、薬剤師協会、看護師協会など、関係団体がこぞってTPPに反対を表明しました。国会議員のなかにはお医者さんがいっぱいいますから質問もたくさん出たのでしたが、これにたいしても「大丈夫です、健康保険にかんしては何も定めがありません。日本の国民皆保険は守られます」という答弁でした。

 私は日本医師会の会長さんの講演を聞いて勉強したのですが、健康保険についての規定は、TPPに触れたところはないようだけれども、「混合医療」を大いにすすめるというのが、どうもあるらしい。

 混合医療というのは、保険が「きく」医療と「きかない」医療の混合ですね。今でも最先端医療で保険給付外のものがあって、それは患者が自費で診療を受けるというのが原則ですが、日本では同一の診療で保険給付外と公的保険との併用は認められていませんでした。(診療のなかに一部でも保険給付外の診療を入れると、全額自費診療ということになっておりました。)それが、TPPとはさしあたり別な経緯のなかで、2016年から一部、混合医療が認められることになり、目下、それをめぐって賛否両論が交わされています。そういう浮動する今日の状況に、もしTPPが作用してきたら、どういう側面を後押しすることになるか。「よりよい医療を求める人々のために」という口実のもと、非保険分野をひろげることになるのではないか、医療の所得格差の推進力になるのではないか、それを医師会はたいへん気にしているようなのです。

こんなふうに、安心できないことがたくさん水面下にある。そういうことを国会で徹底的に議論していただきたい。ところがそういう詳細で議論できるはずの甘利さんがいないので、答弁がまことに頼りない。ふつうの国だったら、甘利さんのように交渉の詳細をこれだけ一身に背負って事をすすめてきた責任者が、眠れない、国会にでてこれないなんてことになったら、この案件はダメですね。チームでやってきたから大丈夫、石原大臣でも答えられるというんだが、実際やってみると、細部をだれも知らない、ちょっとつっこんだ問題になると誰も答えられない、お粗末きわまりないですね。この間テレビで観た国会中継では、先ほど言ったISD条項、その条項にしたがって他国の企業が日本政府を不当だと提訴したのにたいして日本の最高裁が正当だとした場合どちらが優先されるかという質問にたいして、法務大臣はまったく答えられなくて、後ろから事務局が渡してくれたペーパーを棒読みするのだが、その読み方を間違えてまたつっこまれて----と。あきれてものがいえなかったです。