<琉球新報社説>取り消し効力停止 許せぬ民意への弾圧 新基地作業は認められない
権力を乱用した民意への弾圧としか言いようがない。
国は、翁長雄志知事が「新基地建設反対」の民意に基づき前知事の埋め立て承認を取り消した処分の効力を停止した。併せて国による代執行に向けた手続きを進め、県に是正勧告することも決めた。
民意を踏みにじるもので、許されるものではない。県が勧告に従う必要性は一切ない。
最終的に、県と国が新基地建設の是非を法廷で争うことになる。裁判での決着に向けて踏み出したのは国の側である。司法判断が出るまで作業再開は認められない。
恥ずべき二重基準
石井啓一国土交通相は取り消し処分の効力を停止した理由について「普天間飛行場の移設事業の継続が不可能となり、(普天間)周辺住民が被る危険性が継続する」と説明している。
住民の安全を考えているように装うことはやめるべきだ。新基地は完成まで10年かかるとされる。10年がかりの危険性除去などあり得ない。普天間飛行場を即時閉鎖することが唯一の解決策である。
沖縄防衛局が取り消し処分の執行停止と、処分の無効を求める審査請求を国交相に申し立てたのに対し、知事はほぼ同じ内容の弁明書と意見書を国交相に送った。だが国交相は効力停止を決定しただけで、審査請求の裁決は出していない。知事が3月に全ての海上作業の停止を防衛局に指示した際の農相と同様、国交相も作業が継続できるようにし、裁決は放置する考えだろう。恣意(しい)的な行政対応であり、許されるものではない。
行政不服審査法に基づき、知事の取り消し処分の無効を求めて審査請求する資格は、そもそも防衛局にはない。請求制度は行政機関から私人への不利益処分に対する救済が趣旨である。私人ならば、米軍への提供水域を埋め立てできないことからも資格がないのは明らかだ。
菅義偉官房長官は代執行に向けた手続きに着手することを決めたことに関し「外交・防衛上、重大な損害を生じるなど著しく公益を害する」と述べている。
県民は外交・防衛の犠牲になれと言うに等しい。県民は戦後70年にわたり、米軍基地の重圧に苦しんできた。県民の「重大な損害」は一顧だにせず、過重な基地負担を押し付ける姿勢は、知事の言う「政治の堕落」そのものだ。
知事権限を無力化するために、行政機関として代執行の手続きに着手する一方で、私人の立場も装う。恥ずべき二重基準を使ってでも新基地建設を強行する政府のやり方には強い憤りを禁じ得ない。
圧政には屈しない
国の一連の強権姿勢は、1995年の米軍用地強制使用手続きに関する代理署名訴訟を想起させる。県側の敗訴となったが、訴訟を通して強大な権力を持った国の言うがままになっていては、望ましい沖縄の将来像は描けないことを多くの県民が認識した。
知事の代理署名拒否を受けて国は97年に軍用地の使用期限切れに対応するため、米軍用地特措法を改正し、暫定使用ができるようにした。沖縄の米軍基地維持のためには、あらゆる手段を講じる姿勢は何ら変わっていないのである。
99年の地方自治法改正で、国と地方は対等の関係になった。だが、沖縄でそれを実感することはできない。国が沖縄の声を踏みにじっていることが要因である。
知事選をはじめとする一連の選挙で示された「新基地は造らせない」との圧倒的民意を国が無視し続けることは、どう考えても異常だ。沖縄からは圧政国家にしか見えない。
自己決定権に目覚めた県民は圧政には屈しないことを国は認識すべきだ。日米安保のため、沖縄だけに過重な負担を強いる国に異議申し立てを続けねばならない。国を新基地建設断念に追い込むまで、揺るがぬ決意で民意の実現を目指したい。