ラヂオアクティヴィティ[Ra.] 第二部・国境なき恐怖 208送り火 いよいよ大文字の送り火である。 午後七時、山上の弘法大師堂で般若心経をあげ、仏前の酒で身を清め、午後八時に点火するという。 ソーシアは、八時前にはホテルの展望室にいる。 ホテルの宿泊客もここに来ているし、カメラも三台用意されて、大文字を写そうとチェックされている。 勉は同窓生と、ある山に登っている。 ここから見る大文字も評判がよいのである。 マイクも勇気もついて来ている。 「人でいっぱいだなあー」 夜店が出ている。 「綿菓子かってこう」 勉は綿菓子屋の前に並ぶ。 勉は昔もこんなことをしていたことを思い出す。 これが伝統なのか、もし人類が生き続けていくことができるのならば、この行事は残してもらいたいものだと思った。 綿菓子を食べながら、右大文字を見る。 ここからは、五つの大文字が見ることができた。 でも、右大文字だけは、見る側は山の反対側だった。 如意岳の大文字が最初に火を灯す。 「おう、火がついて行く」 「やっぱ、ぽつぽつ、ついていくな」 勇気は大文字山に登ったときのことを思い出している。 勉は今は亡き父や母とも、この大文字を見ていたのを思いだした。 送り火、もし本当に霊があるとしたら父母は霊となってしまったのだろうから、父母を送っていることになるのかと思うと、涙が出てきた。 「おい、勉、どうした」 「父母のことを思い出していた。父母も今では霊となったと思うと感慨深い……」 「そうだったなあー、勉のお父さん、大腸ガンで昨年亡くなったそうだね」 「ああっ。でも、何年かしたら、僕も霊となるよ」 「みんなそうだよ、あははは……」 と、勉の友達は陽気な人物だった。カメラはその様子も写していた。 今夜は京都市内の街の灯火は規制されている。それは大文字を奇麗に見るためだ。 暗闇に、大の字が真紅に浮かびだす。 エリックは料亭にいた。舞妓さんがいる。 「京都の伝統ですね。みごとです」 「世界のメディア王にそういわれたら、京都のお人も、喜ばはると思います」 「いや、私が認めなくとも、誰でも認めることでしょう」 ミス・ホームズや行者はここに来ている。ここにはカメラが三台あった。 「反対側の大文字、見に行こうよ」 「そうしましょう」 勉たちは、反対側へ行く。そこも人でいっぱいである。 「きれーやわねえー」と女の人が感嘆している。 「ご先祖様の霊が飛んで行かはるのんやろ」 夏八木とナンシーは、浴衣を来て踊っている。 ナンシーはすっかり日本の踊りが好きになったようである。 その後ろに大文字である妙という文字が見える。 ある人は自宅のベランダで大文字を見ているし、ある人は屋根の上に乗って見ている人もいる。 いろんなところから、それぞれに大文字の送り火を見ているのである。 平和を祈る人もおり、戦争で亡くなった人のことを思い涙している者もいれば、昨年亡くなった人のことを思い涙する人もいる。美しい芸術のように、この送り火を見ている人たちもいる。 女医イネッサはソーシアと大文字を見ていた。 人の命も輝く火のようである。 ソーシアの命の火をたやさないようにしたいと思う。 輝代はソーシアと見つめあって笑った。 ちろちろと終わりゆく大文字を見ていると、しみじみと生きている実感がもてるというものだ。 そして、さわかやな感じを残して、暗闇が訪れる。 朝早く起きて、ナンシーたちは、大文字で燃え残った灰をとりに山に登った。 ソーシアにあげたかったのだ。そんな物は迷信にすぎないと思う。 けれど、気持ちを伝えたいと思ったのだ。
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