(1)インドの叙事詩『マハーバーラタ』の「機を織る女神」!その機に黒と白の糸(夜と昼)がかかっていた!
「糸紡ぎ」が「人間の運命」を紡ぐ(Ex. ギリシア神話のモイラ、北欧神話のノルン)のに対して、「機織り」は「世界の運行」に関連する。インドの叙事詩『マハーバーラタ』に地下界で「機を織る女神」がでてくる神話がある。少年の修行僧ウッタンカは師の命令で、師の妻が祭礼で身に付ける耳輪を、パウシャ王の妃のもとに借り受けに行った。ところが帰り道、その耳輪をタクシャカ竜王に奪われた。ウッタンカは地下の竜の世界にまで追いかけていった。地下の竜王の王宮でウッタンカは①機に座って布を織っている二人の女(「創造神ダートリ」と「運命神ヴィダートリ」)を見た。①-2 その機に黒と白の糸(夜と昼)がかかっていた。また②6人の童子(「6つの季節」)が12の輻(ヤ)を持つ輪(「1年」)を回していた。
(1)-2 「火神アグニ」の煙と火災が生じ、竜の世界は熱せられ「タクシャカ竜王」はうろたえた!
それからウッタンカは③美しい男(雨神パルジャニ)を見た。ウッタンカはその男に「地底界の竜たちを私の支配下に帰すようにしたいのです」。すると男は④「この馬(火神アグニ)の尻に息を吹き込みなさい」と言った。ウッタンカが息を吹き込むと馬の体中の穴から火神アグニの煙と火災が生じた。そのために竜の世界は熱せられた。タクシャカ竜王がうろたえて「この耳輪を受け取れ」とウッタンカに耳輪を返した。④-2 美しい男(雨神パルジャニ)の指示でウッタンカは「馬」に乗ると一瞬で師の家に帰った。
(1)-3 「アムリタ」:「不死」の霊薬!「甘露」!
ところでウッタンカは地下の竜の世界の王宮に行く途中、(a)雄牛(象の王アイラーヴァタ)を見た。(b)雄牛には一人の男(インドラ神)が乗っていた。(c)その男(インドラ神)はウッタンカに「この雄牛の糞(アムリタor甘露)を食べよ」と言った。ウッタンカは食べた。そのおかげでウッタンカは「竜の世界においても無傷であった」。
《参考1》「アムリタ」:インド神話の霊薬で「甘露」とも呼ばれる。飲んだ者に「不死」を与える。天地創造神話の「乳海攪拌」によって醸造され、神々とアスラ族が争った末、神々のものとなった。
《参考2》「乳海撹拌」:古代インドの大叙事詩『マハーバーラタ』・『ラーマーヤナ』にある天地創世神話。神々とアスラ(悪鬼)が「乳海」を「撹拌」することでさまざまなものが生じた。①太古、不老不死の霊薬「アムリタ」をめぐり、神々とアスラが壮絶な戦いを繰り広げたが、両者は疲労困憊し、ヴィシュヌ神に助けを求めた。ヴィシュヌ神は言った。「争いをやめ、互いに協力して大海をかき回せばアムリタが得られるであろう。」②神々とアスラたちは、天空にそびえる「マンダラ山」を軸棒とし、「亀の王クールマ」の背中で軸棒を支え、それに「大蛇ヴァースキ」を巻きつけ「撹拌」のための綱とした。③神々が「大蛇ヴァースキ」の尻尾を、アスラたちがその頭をつかんで上下に揺さぶり始めると、すさまじい炎と煙が大蛇の口から立ち上り、そこから雷雲が生じ大雨を降らせ始めた。だが「アムリタ」は出てこない。④神々とアスラはさらに大海を撹拌し続けると、大海はやがて「乳海」となった。しばらくして良質のバターである「ギー」が湧き出て、そこから「ヴィシュヌ神の妃ラクシュミー」、「ソーマ(神酒)」、「太陽」、「月」、「宝石」、「家畜」、「白馬」などが次々と現れ、ついに「アムリタ」の入った白い壷を手にした「医の神ダンワタリ」が姿を現した。⑤ここから「アムリタ」をめぐる神々とアスラの争奪戦が始まった。⑤-2 アスラたちは、なんとかして「アムリタ」と「女神ラクシュミー」を奪い去ろうとしたが、ラクシュミーに姿を変えた「ヴィシュヌ神」がその美しい姿で欺くと、アスラたちはヴィシュヌ神に「アムリタ」を渡してしまった。⑥ヴィシュヌ神から「アムリタ」を受け取った神々は、分け合って飲み出した。⑦その中に神に化けた「ラーフ」というアスラがいた。ラーフがアムリタを飲もうとした瞬間、太陽と月がそれを見破りヴィシュヌ神に知らせた。ヴィシュヌ神は円盤を投げつけ、ラーフの首を切り落とした。⑦-2断末魔の叫び声とともに、頭だけが不老不死となった「ラーフの首」が天空へ舞い上がった。⑦-3このときから「ラーフの首」と太陽・月との間に憎悪が生まれ、ラーフの首が太陽と月を飲み込む度に「日蝕」と「月蝕」が生じるようになった。⑧さて「アムリタ」の争奪を繰り広げていた神々とアスラだが、ついに「ヴィシュヌ神」の力に圧倒されアスラたちは逃げ去り「アムリタ」は神々のものとなった。
(1)-4 「インドラ神」の恩恵!
師の家に着いたウッタンカに、師が言った。「インドラは私の友人である。彼の恩恵によって、おまえは耳輪を得て再び帰ってくることができたのだ。」
《参考3》ヒンドゥー教の主神は通常は「ブラフマー」、「ヴィシュヌ」、「シヴァ」とされ、「トリムールティ」(三神一体)と呼ばれる。「ブラフマー」は、最高神であり、宇宙の創造を司る。「ヴィシュヌ」は、この宇宙を維持する。「シヴァ」は、新たな創造のために今の宇宙を破壊する。
《参考4》「インドラ」:最初期の神々への讃歌集『リグ・ヴェーダ』においてはインドラに捧げる讃歌が約4分の1と最も多く、アーリア人を保護する理想的な戦士として描かれ、神々の王とされた。神酒ソーマを好み、強大な武器ヴァジュラ(金剛杵)を持つ。「雷」を象徴する強力無比な英雄神!(Cf. 仏教では帝釈天の名で知られる。)
《参考4-2》リグ・ヴェーダの時代には神々の中心だったインドラも、時代が下り、ヒンドゥー教が成立した時代になれば、神々の中心の座はシヴァやヴィシュヌなどに譲る。
(2)神話において「糸紡ぎ」が「人間の運命」を紡ぐのに対して、「機織り」は「世界の運行」に関連する!
『マハーバーラタ』の少年の修行僧ウッタンカの神話には、竜王の地下界で「機を織る女神」が出て来る。「創造神ダートリ」と「運命神ヴィダートリ」という2人の女神が、地下世界(竜の世界)で機を織っている。その2人の機が「昼」と「夜」を織るのだから、2人は時間を織りなす女神である。神話において「糸紡ぎ」が「人間の運命」を紡ぐのに対して、「機織り」は「世界の運行」に関連する。
「糸紡ぎ」が「人間の運命」を紡ぐ(Ex. ギリシア神話のモイラ、北欧神話のノルン)のに対して、「機織り」は「世界の運行」に関連する。インドの叙事詩『マハーバーラタ』に地下界で「機を織る女神」がでてくる神話がある。少年の修行僧ウッタンカは師の命令で、師の妻が祭礼で身に付ける耳輪を、パウシャ王の妃のもとに借り受けに行った。ところが帰り道、その耳輪をタクシャカ竜王に奪われた。ウッタンカは地下の竜の世界にまで追いかけていった。地下の竜王の王宮でウッタンカは①機に座って布を織っている二人の女(「創造神ダートリ」と「運命神ヴィダートリ」)を見た。①-2 その機に黒と白の糸(夜と昼)がかかっていた。また②6人の童子(「6つの季節」)が12の輻(ヤ)を持つ輪(「1年」)を回していた。
(1)-2 「火神アグニ」の煙と火災が生じ、竜の世界は熱せられ「タクシャカ竜王」はうろたえた!
それからウッタンカは③美しい男(雨神パルジャニ)を見た。ウッタンカはその男に「地底界の竜たちを私の支配下に帰すようにしたいのです」。すると男は④「この馬(火神アグニ)の尻に息を吹き込みなさい」と言った。ウッタンカが息を吹き込むと馬の体中の穴から火神アグニの煙と火災が生じた。そのために竜の世界は熱せられた。タクシャカ竜王がうろたえて「この耳輪を受け取れ」とウッタンカに耳輪を返した。④-2 美しい男(雨神パルジャニ)の指示でウッタンカは「馬」に乗ると一瞬で師の家に帰った。
(1)-3 「アムリタ」:「不死」の霊薬!「甘露」!
ところでウッタンカは地下の竜の世界の王宮に行く途中、(a)雄牛(象の王アイラーヴァタ)を見た。(b)雄牛には一人の男(インドラ神)が乗っていた。(c)その男(インドラ神)はウッタンカに「この雄牛の糞(アムリタor甘露)を食べよ」と言った。ウッタンカは食べた。そのおかげでウッタンカは「竜の世界においても無傷であった」。
《参考1》「アムリタ」:インド神話の霊薬で「甘露」とも呼ばれる。飲んだ者に「不死」を与える。天地創造神話の「乳海攪拌」によって醸造され、神々とアスラ族が争った末、神々のものとなった。
《参考2》「乳海撹拌」:古代インドの大叙事詩『マハーバーラタ』・『ラーマーヤナ』にある天地創世神話。神々とアスラ(悪鬼)が「乳海」を「撹拌」することでさまざまなものが生じた。①太古、不老不死の霊薬「アムリタ」をめぐり、神々とアスラが壮絶な戦いを繰り広げたが、両者は疲労困憊し、ヴィシュヌ神に助けを求めた。ヴィシュヌ神は言った。「争いをやめ、互いに協力して大海をかき回せばアムリタが得られるであろう。」②神々とアスラたちは、天空にそびえる「マンダラ山」を軸棒とし、「亀の王クールマ」の背中で軸棒を支え、それに「大蛇ヴァースキ」を巻きつけ「撹拌」のための綱とした。③神々が「大蛇ヴァースキ」の尻尾を、アスラたちがその頭をつかんで上下に揺さぶり始めると、すさまじい炎と煙が大蛇の口から立ち上り、そこから雷雲が生じ大雨を降らせ始めた。だが「アムリタ」は出てこない。④神々とアスラはさらに大海を撹拌し続けると、大海はやがて「乳海」となった。しばらくして良質のバターである「ギー」が湧き出て、そこから「ヴィシュヌ神の妃ラクシュミー」、「ソーマ(神酒)」、「太陽」、「月」、「宝石」、「家畜」、「白馬」などが次々と現れ、ついに「アムリタ」の入った白い壷を手にした「医の神ダンワタリ」が姿を現した。⑤ここから「アムリタ」をめぐる神々とアスラの争奪戦が始まった。⑤-2 アスラたちは、なんとかして「アムリタ」と「女神ラクシュミー」を奪い去ろうとしたが、ラクシュミーに姿を変えた「ヴィシュヌ神」がその美しい姿で欺くと、アスラたちはヴィシュヌ神に「アムリタ」を渡してしまった。⑥ヴィシュヌ神から「アムリタ」を受け取った神々は、分け合って飲み出した。⑦その中に神に化けた「ラーフ」というアスラがいた。ラーフがアムリタを飲もうとした瞬間、太陽と月がそれを見破りヴィシュヌ神に知らせた。ヴィシュヌ神は円盤を投げつけ、ラーフの首を切り落とした。⑦-2断末魔の叫び声とともに、頭だけが不老不死となった「ラーフの首」が天空へ舞い上がった。⑦-3このときから「ラーフの首」と太陽・月との間に憎悪が生まれ、ラーフの首が太陽と月を飲み込む度に「日蝕」と「月蝕」が生じるようになった。⑧さて「アムリタ」の争奪を繰り広げていた神々とアスラだが、ついに「ヴィシュヌ神」の力に圧倒されアスラたちは逃げ去り「アムリタ」は神々のものとなった。
(1)-4 「インドラ神」の恩恵!
師の家に着いたウッタンカに、師が言った。「インドラは私の友人である。彼の恩恵によって、おまえは耳輪を得て再び帰ってくることができたのだ。」
《参考3》ヒンドゥー教の主神は通常は「ブラフマー」、「ヴィシュヌ」、「シヴァ」とされ、「トリムールティ」(三神一体)と呼ばれる。「ブラフマー」は、最高神であり、宇宙の創造を司る。「ヴィシュヌ」は、この宇宙を維持する。「シヴァ」は、新たな創造のために今の宇宙を破壊する。
《参考4》「インドラ」:最初期の神々への讃歌集『リグ・ヴェーダ』においてはインドラに捧げる讃歌が約4分の1と最も多く、アーリア人を保護する理想的な戦士として描かれ、神々の王とされた。神酒ソーマを好み、強大な武器ヴァジュラ(金剛杵)を持つ。「雷」を象徴する強力無比な英雄神!(Cf. 仏教では帝釈天の名で知られる。)
《参考4-2》リグ・ヴェーダの時代には神々の中心だったインドラも、時代が下り、ヒンドゥー教が成立した時代になれば、神々の中心の座はシヴァやヴィシュヌなどに譲る。
(2)神話において「糸紡ぎ」が「人間の運命」を紡ぐのに対して、「機織り」は「世界の運行」に関連する!
『マハーバーラタ』の少年の修行僧ウッタンカの神話には、竜王の地下界で「機を織る女神」が出て来る。「創造神ダートリ」と「運命神ヴィダートリ」という2人の女神が、地下世界(竜の世界)で機を織っている。その2人の機が「昼」と「夜」を織るのだから、2人は時間を織りなす女神である。神話において「糸紡ぎ」が「人間の運命」を紡ぐのに対して、「機織り」は「世界の運行」に関連する。