King Diary

秩父で今日も季節を感じながら珈琲豆を焼いている

『太陽を曳く馬』読了

2010年08月01日 23時26分23秒 | 読書
とても暑くて何もしたくない日々です。

うちの中にいても熱中症とか熱射病になる
ような感じです。

それでも、気温的には先月の方が高いのですから
気温だけでなく体感温度がずっと上がっている
感じです。

しかし、ここ数日感は妙な興奮と充実感があり
ました。

その一端は『太陽を曳く馬』を読んでいたからです。

この本は、昨年の暮に買ってあったのですが、前作の『新リア王』
が余りに読みづらく、その続きということなのでこれは直ぐに
読みたいという感じになりませんでした。


しかし、テレビで高村薫が出て自作について語る番組を見たら
とても興味がわいたのです。

このカバーの絵はテレビで見たら直ぐにマーク・ロスコの
シーグラム壁画だと解りました。

ただ、本屋店頭で新刊が出たんだとすぐに買い求めた時は
全然気がつかなかったのです。

その時には、合田刑事登場という宣伝に注意が行って
いたのでしょう。

前作があんな新聞掲載中止なんていう結果になり、本を
売るためにかつての人気キャラを出さざるを得なかったの
かと思いました。

その後作者が自作を語るという番組内で高村氏が語る
内容が実に雄弁に自信に満ちていたのが印象的でした。

でもそんな自作を語っていいんだろうか、また新リア王
みたいな事になって自分だけ満足な作家になって行って
しまうのかと心配してしまうほどでした。

そして、謎はなぜシーグラム壁画なのかというのも同時に
思ったのです。

題になっているのは太陽を曳く馬ということで、ノルウエー
の古代の洞窟に残された壁画で、平面的なその絵はシーグラム
壁画とどうつながるものがあるのか、これは作品を読んだ
だけだと解らないと思います。

昨年のNHK日曜美術館で高村氏が出てこの壁画について語る
番組があったらしく、その時の内容をしらないとこの作品も
深く理解できないかもしれません。

私もこの番組を見ていないのですが、ネットで拾った内容で
だいたい見当が付きました。

同じくネットで見かけた書評で、ハルキの流行の本なんか
よりとてもいいという感想で、私も1Q84BOOK3を読み終わり
それならと読み出すきっかけとなりました。

そして、覚悟して読み出したのに、いつしかどんどん本に
引き込まれ、すっかり堪能してしまったのです。

これは作者が自慢げにこれだけ出し切ったという感じの
はなしっぷりが納得するような筆致でした。

難解な本というのが作者への質問で出ていましたが、その
きっかけになったのが阪神淡路大震災であるということや
書き方については敢えてやっているような言い方でした。

今になって見れば、なぜこうもマスコミでは内容について
まるで触れずに作者にインタビューしたのか、作者が
ああ答えたのか解るようですが、1Q84に比べればまるで
話題になっていません。

それだけマスコミは、扱いかねていた内容になっている
のです。

かつてオーム真理教の幹部を毎日のようにワイドショー
に登場させ、時代のスターのように持ち上げたところ、
とんでもないカルト教団だったという痛手をいまだに
引きずっていてまともな分析も結論もできずにいるところ
に堂々オームは仏教を語っているが宗教かという所
から既存宗教の役割まで全てに対して細かく論破し、
自我の拡張と芸術家の果たした役割まで、事件の解決と
犯人探しというミステリーの約束も組み込んで見せるところ
など、正にシーグラム壁画を見て作られた本だなあと
感じます。

トーマスマンをくさし、経血がにおうことまで書いて女
のサガを思わせ、若者文化やネットでの情報など現代の
風景を見事に描写しつくしているところも秀逸です。

ここまでの力量がなぜ話題にならないのか。

まだ傷跡の血が乾かないオーム真理教の教義まで踏み込んで
語ってしまった事にマスコミは恐れおののいてしまったの
であろうし、今の若者はオームの頃のように自我の拡大を
謀ろうとしたり、美のたどる道をどれだけの人が思いやる
だろうかということでは、やはりやっている事は新リア王の
時と同じなんだなあと思います。
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