続続(2/3):関係詞の学習の仕方、教え方のアイデア
「続々」の2/3です。英文法の学習理論がまだないのではないか、という問いかけと、具体的な関係詞の学習法について対話をする部分を互い違いに進めてまいりました。関係詞に関する対話、つづきます。
生徒:いままで学習で、関係詞の機能の中心となる部分がだいぶ分かってきたという感触を持っています。しかし、ふつう関係詞の学習と言うと、以下のような穴埋め問題などが中心になると思うのですが、いままでそのような穴埋め問題は扱いませんでしたね。
(1) The house [ ] Mr. Kobayashi lived in is in Kamakura
(2) THe house [ ] Mr. Kobayashi lived is in Kamakura.
先生:はい(英語では No... )、穴埋め中心の学習だと、関係詞の本質が見失われて、学習のための学習に陥りやすいからです。
生徒:本質とは、関係詞は何のため使われて、またそれを使ったために何が起きるかということですね。
先生:そうです。何が先で何が後かということが分かれば、教える順序、習う順序がある程度決まってきます。それを逆にするととても分かりにくくなります。たとえば、something to write with(不定詞の形容詞用法)でなぜwithが残るのか、これだけ見ても分かりません。これがsomething (which) you can write withを前提していて、さらに、それがYou can write with something.という形を前提していることがわかれば、「何か書くもの」というのが筆記用具のことだと分かります。
生徒:文法項目一つをとっても学習の順序というものがあるということですね。この点は、例の、物理、地理、英語を比べるやり方から見ると、物理に近い側面ですね。
先生:そう、理論の必要というのはこういうことでも分かるでしょう。
生徒:では、さっきのwhich (1)と、where(2)が正解になる穴埋め問題は扱わないと...?。
先生:自問自答していますな。扱わない、というより、肝心な部分だけしっかり理解すれば、自然に分かるように仕向けたいという目論見です。細かいことを詳述していて、本質的なことが伝わらないのは困りますから。これは、最近書かれたいくつかの本、サイトで「関係詞の説明」を読んだ印象から言っているのですが。
生徒:では、関係詞の学習について本質的なこととはどういう点でしょう。
■関係詞を難しくしている三つの真の理由
先生:三点あります。すでにすこしづつ述べてきましたが、この回で、もう一度整理したいと思います。一つ目は、「限定」ということ。二つめは、「限定の位置が日本語と違う」という点。三つめは、語順の移動です。こういうとまだ抽象的ですが、関係詞の学習の際の壁は、穴埋め問題などではなく、この三つの点の習得に一番頭を使うということです。
生徒:「限定」ということは続の2/3で見ましたよ。
先生:再生しましょう。こう言っています。テープ、スタート。
生徒:(小声で)表現が古い。
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先生:では、もう以下の二つの文字列の意味の違いは分かりますね。
- a flower which is red
- The flower is red.
生徒:上は、「赤い花」。下は、「その花は赤い。」
先生:上は限定、下は判断を表わすちゃんとした文。「前に進んでいる文
」と言えます。上は、あとに--- is bloomingなどとつけないとちゃんとした文になりません、つまり前へ進めません。(The flower which is red is blooming =赤い花が咲いている)。
註:the =旧情報、a =新情報の説明は今回はしません。
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生徒:「限定」というのは、円で表わしたベン図で見ました。「前へ進む」というのは、S → Vと文が進み、ピリオッドで情報伝達が完結する形でしょう。ドから始まる音楽がドで終わるのと似ていませんか。
先生:じっさいの文はこの二つの文字列を複雑に組み合わせます。そりゃ、関係詞を使わないで、The flower is red. And it is blooming.と別々の文でも表わせますが、これでは小学校一年の絵日記の文。論理がゆるいです。The flower which is red is bloomingと言う具合に組み合わせるのが実際の文。日本語でも、「その花は赤い。それは咲いている」と言わずに、「赤い花が咲いている」というでしょう。
生徒:逆に言うと、関係詞をいくつも使った複雑な文でも、この二つの部分に整理できるということですか。
■受験生、要注意!あらゆる言語の文の要素のつながりは二つのどちらか
先生:関係詞だけではなくあらゆる文の要素のつながりは、この二つのどちらかです。あらゆる言語に言えることでしょう。
生徒:え!。関係詞以外にはどういう繋がりがありますか。
先生:以下の二つの文のwalking along the pondの部分はどうでしょう。
(1) Walking along the pond, she found a red flower.
(2) She found a red flower, walking along the pond.
(「池のふちを歩いていると一輪の赤い花が目に入った。」)
生徒:なるほど、walking along the pondは、彼女が赤い花を見つけた状況を限定しているわけですね。ほかにも、前置詞+名詞とか、to不定詞、接続詞などほかにも限定する作用をするものはたくさんあって、関係詞はその一つ。その意味で「限定」の理解が関係詞に先立つということですか。「限定が」一般諭。関係詞はその一例。ちょっとした「理論」ですヨネ。
先生:一見、限定に見えてじつは前へ進んでいるのもあります。
(1) I found my car stolen.
(2) I found my stolen car.
生徒:(1)が、「私は車が盗まれたのに気付いた。」(2)は、「私は私の盗まれた車を発見した。」 (1)のmy carとstolenの関係でしょう。狭い意味での文ではないですが「車が盗まれる」です。「盗まれた車」ではないです。
先生:学校でならう、いわゆる第五文型、またの名をSVOC。これも「前へ進んでいる」形です。昔から大学受験の英文和訳の問題には、この二つの区別がよく出ます。限定か「前へ進むか」という英文の構造の区別ができているかどうかが採点の判断基準です。これはこれで、英語の試験の課題としては、けっして些末ではなく、よく理解できることです。
生徒:ここには、「理論」が生きているということですね。
先生:でも、杓子定規に、英語の限定は日本語の限定に、英語の前へ進む形は日本語でも前へ進む形へに訳さなければいけないとするのも考えものです。
(1) I was surprised at the ease with which she had solved the problem.
(2) I was surprised that she had solved the problem easily.
(1)の文のwith which以下が限定修飾だというので、「私はその人がその問題を解いた容易さに驚いた」と訳したら、日本語としていまいち。(2)と同様に、「私はその人がその問題をかるく解いたのに驚いた」と訳して答案を書いた場合、×というのは酷。(1)は、(2)と同じ意味で、ただ、「容易さ」に焦点が当たっているだけのことなのですから。
生徒:う~ん。受験英語の弊害ですか。
先生:限定と前へ進む部分の区別を杓子定規にすると、法律の条文のようにとても分かりにくい文になってしまいます。例文は挙げませんが想像つきますか。
生徒:英文和訳をすると英語と日本語の順序がおおきくひっくりかえってしまう場合でしょう。
先生:次のページは、関係詞学習の困難の二つ目、日英の語順の問題です。