生暖かい風。
もはや春風だ。
意味もなくパンツの中で男根が起立し、先走り液をしたたらせている。
あぁ、恋でもしたいね。
恋をするにはちょうど良い風だ。
ギシギシギシ。
中央線の車内は金属のきしむ音と走行音に満ちていて、低い声でボソボソと話す死神の声は聞き取りにくい。
左側に座っているおじさんと右側に座っているおじさんのにおいが中間に座っている私の鼻で微妙に混ざる。
雑音の中、かすかにとどく死神の言葉、おじさん達の体温、目の前をふさぐ死神、私の手にあるのはオモチャのマシンガン。
なんとなく理不尽な非現実的な体験。
不愉快な感じがするのは、私が人ごみが嫌いなせいだろうか。
イヤだなとただ思う。
伏し目がちな私の目には死神のジーパンのみが目に入る。
股間に目が行き、ふと中学生らしくない考えが頭に浮かび、自分が恥ずかしくなりもっと目をふせると私の視界にはスカートの上に置いた左手でにぎるオモチャのマシンガン。
ただただ、自分もおじさんも死神も電車もイヤだなとだけ思う。
人々の体温で車内には熱気がこもる。
死神が言う。
「そのマシンガンで全ての現実を打ち抜いてやれ。なにもかもだ。あんたにならそれが出来る。
その責任は俺がとるし、罪を問う事は誰にもできない。
見ろ、そのマシンガンは誰がどう見てもただのおもちゃで、弾丸が出る構造は少しもない。
中国拳法でいう『気』って知ってるだろ?
そのマシンガンは気を一点に増幅・集中して発射する装置だ。カメハメ波や波動拳みたいなもんであり、そういうもんを現代のふつうの科学は実証できていない。科学で実証できないものは裁判の証拠にならない。
そのマシンガンで何人殺そうと、罪には問われない。
オモチャで人が殺せるはずないしな。
たとえ、テレビで放映されようとも、そのオモチャのマシンガンで人が死ぬはずはない。ただ、それだけの事で、何人殺そうとも司法はあんたを裁けない。
被害者の遺族や、警察にマスコミといっためんどうな事には俺が対処するし、最後までアフターケアしてみせる。あんたになるべく迷惑かけないし、うまくいきゃ夏休み明けには普通に登校しているはずだ。
さて、どうだろうか、復讐をしてはくれないだろうか?」