俺の名前は木村実。
23才の鈑金工だ。
ガキの頃から乗り物が大好きで、正確で緻密な乗り物の絵を描くのが好きだった。そんなのばかりずっと飽きずに描いてた。
本当は絵描きになりたかったんだけど、乗り物の絵なんてのは絵描きの描くものじゃないと教えられ、絵描きの描くなんだか良くわからない絵に触れてみて絵描きの夢はあきらめた。
あんな、どこになにがあるんだかわかいような絵は俺には書けない。乗り物の細かいディテールなら得意なんだけど。
だったら、乗り物に常に触れている職業がいいやと、車を整備する人になることにした。
それが、高3の時で、今まで美大に進学するつもりで進学コースだったのをいきなり就職コースに変えたので担任はイヤな顔をした。
俺の高校は県内の進学校だったせいか、あるいは社会の状勢かなんだかしらないけど、就職するとなったら、あっさりと職場は決まった。
職場は、大手メーカーの販売店。
東京郊外にある車の販売店の整備工、なんだけど鈑金工と言ったら良いような仕事を主にこなしている。
俺はどうやら他人よりしつこくて細かいらしい。
同僚に言わせると、ネチネチと粘着質で誰も気づかないような事を問題にして大騒ぎするタイプらしい。そういうつもりはないんだけど、たしかにディテールにはこだわるタイプだ。
職場に友達はいない。
福島なまりがどうしても抜けなくて、なにか話す度に東京の人間に笑われる。
俺がいるここは、東京の郊外の立川と呼ばれる土地で、他の東京と比べると地元の人間が多い土地柄だ。
立川の連中はなんだってギャグにしようとするが、仕事中であるなら口動かすより手を動かせと思うのだけど、立川の人間は手を動かすより口を動かすのが好きらしい。
そのくせ、やれ礼儀だとか上下だのと突然に言い出すので、この土地に住んでいる連中は馬鹿ばかりなのかもとか思ってしまう。
立川の人間は嫌いだ。
人を不用意に笑い者にすれば、自分が笑った相手から評価の目で見られる事を心得ていない。
その点、福島の人間は、もともとドン百姓で村社会の人間だから、不用意に発言すれば後に陰口となって帰ってくる事をちゃんと心得ている。