ウィトゲンシュタイン的日々

日常生活での出来事、登山・本などについての雑感。

自動車免許なんかなくても

2012-09-25 18:31:30 | 登山(雑記)

30歳になったのび太がつぶやく。
「自分の好きなところに行きたいな。」
すると、なぜかフランス国籍の外国語訛りのドラえもんが、のび太に向かって言う。
「行けるじゃん。免許取れば。」


これは、日本を代表する大手自動車会社のCMの1シーンである。
自動車免許を取ってもらわないと、自動車の売れ行きはますます落ち込むばかり。
自動車会社としては、あの手この手で免許を取ってほしいわけだ。
だが、「自分の好きなところに行きたいな。」というのび太の希望がかなわないのは
免許がないために引き起こされている問題ではないということを、冷ややかに考えておくべきだ。
実際、私は若い時分から自動車にも自動車の運転にも全く興味がなかったが
自動車免許がないから自分の好きなところに行けないなどと考えたことはなかった。
この夏、道路交通法と自動車操作を知りたくなり、興味本位で第一種普通自動車免許を取得したが
免許を取得した今でも、免許なんかなくても自分の好きなところへ行けると思っている。
私はドラえもんを頼れないので、どこでもドアとか通り抜けフープを出してもらうことはできないが
公共交通機関を利用する、タクシーを利用する、誰かに便乗して車に乗せてもらう
自転車をこぐ、どうしても行きたければ、歩けばいいのだ。
昔の人は、歩いていた。


山を歩いていて、公共交通機関の衰退を運行本数の減少という形で実感することもあれば
計画段階で、2年前に立てた山行計画を実施しようと調べてみると
バス路線やローカル線が廃線になっていたりすることで、愕然とすることもある。
また、私がよくお邪魔するブログ YAMA BUS INFOOh! That Mountain!”の記事から
バス路線の存亡を知ることもある。
“Oh! That Mountain!”の管理人さんは、写真を主としたブログに対して
公共交通機関でエコ登山という、山行データを基にしたホームページも開設されている。
山行時に公共交通機関を利用するためのみならず
その地域の人々にとっての公共交通のあり方にまで、その考察は及ぶ。
私もかつて、当ブログで公共交通を利用した登山の衰退を憂うという
御大層なテーマの記事を書いたことがあるが、現在その憂いの対象となっているのは
飯能市にバス路線を持つ、国際興業(株)飯能営業所の路線バス全面撤退だ。
平成26年3月末に全面撤退を表明していた国際興業(株)であったが
紆余曲折の結果、平成26年4月以降も運行継続する協定を飯能市と締結した。
しかし、それ以降については、飯能市としての対策や政策の見通しは立たず
再び同様の問題が繰り返されることは想像に難くない。
自分が登山者としてバス路線を利用している地域で、このような問題が起きた時
いったい何ができるのかということは、“Oh! That Mountain!”の管理人さんが
まるで代弁してくださっているかのように、お書きになっているので
ぜひそちらを御覧になって、皆さんにも考えてもらえればと願っている。


「受益者負担」という言葉を、最近は「自己責任」という言葉と同様
「受益者」の立場に立てる人や、「責任」を取る立場ではない人の口から
何のためらいもなく、よく聞かれるようになった。
「受益者」にさえなれない場合がある、本当に「自己」に起因する責任か
などということは、考えもしないか、それさえ全て「自己責任」だと盲信しているのだろう。
バス路線存亡の問題は、たんに一バス会社の収益云々で考えてはならない問題だ。
行政も、「納税者」という「受益者」(そういう感覚を持つ人は少ないかもしれないが)優先の政策は
行政が行政たるその本来の目的を見失いかねない。
持てる者は、常に、持たざる者について考えを巡らせなければならない。
自動車免許がなくては好きなところへ行けない社会と
自動車免許なんかなくても好きなところへ行ける社会
あなたはどちらの社会の住人として、暮らしていきたいだろうか。


姜尚中は『続・悩む力』で、次のように書いている。
(引用開始)
 ところが、おかしなことに、ここで私たちはときどき二重の間違いをおかすのです。「自然は制御可能」だと思い、「社会は変えられない」と考えるのです。「傲岸」と「怠慢」の組み合わせとでもいうのでしょうか。私たちはどこまでも自分たちに都合よくものを考えるようにできているようです。
 とはいえ、社会というものは、人間の必然的欲求に従ってそうとう堅固にできあがっているので、変えるのが難しいことは確かです。しかし、変えるのが難しいとしても、漫然と流されてはいけません。
(引用終了)



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ごあいさつ (cellist)
2012-09-26 00:44:19
こんにちは。こちらの皆様には「はじめまして」に近いのですが、
“Oh! That Mountain!”の管理人でございます。
ほんの思いつきで書いた程度の拙文に「考察」などと過分の評価を頂いて大変恐縮しています。

実はこちらの「公共交通を利用した登山の衰退を憂う」記事は、これまで読み落としておりました。
山歩きの記事は全て読ませて頂いたのですが、それ以外のカテゴリーが未読だったようで・・・
120%共感できる内容に驚かされた後は、とても心強い気持ちにさせて頂きましたが、
それが今さらのことで申し訳なくも思っています。

私のブログは、山登りがほとんど唯一のテーマですので、公共交通問題についても
山登りとの兼ね合いの中で触れる形にとどまっています。
本当は、マイカーへの依存が行き過ぎてしまった社会全体に、もうちょっと突っ込みたい
のですが、そんな大それた思いを書き記すだけの文章力も持ち合わせていませんし。

けれどもそのあたりも含めて、ぴすけさんの記事には私よりもずっと説得力のある言葉で
綴られているように感じました。差し支えなければ、私のブログのほうでも紹介させて
頂きたく、ご了承を頂けませんでしょうか。よろしくお願いいたします。
返信する
おおごとになってすみません (ぴすけ)
2012-09-26 20:12:39
cellistさん、さりげなく触れる程度のお約束が、PR記事に匹敵するような勢いになってしまい、すみません。
もともと、cellistさんのような山歩きができるということを、一人でも多くの方に知ってほしいと思っていましたので、私としては控えめにしたつもりでも、力が入ってしまいましたね。

さて、当ブログを御紹介いただけるとのこと。
ありがたくも恐縮しきりです。
御紹介いただいたcellistさんの汚点にならないよう、これからも精進いたします。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。