ウィトゲンシュタイン的日々

日常生活での出来事、登山・本などについての雑感。

公共交通を利用した登山の衰退を憂う

2010-09-30 15:33:30 | 登山(雑記)
突発性難聴もそこそこ回復し、これから雪が積もるまで毎週でも登山に行く勢いで
休日に、これから行ってみたいと考えていた各地の山々の山行計画を立てた。
半ば妄想に近いものもあるが、東北地方と上信越・南アルプスを中心に調べてみたところ
愕然とせざるを得ないある事実に直面することになった
それは、駅から登山口までのバス路線の廃止、もしくはJR以外の地方鉄道路線の廃止である。


私は、山に行く時は、可能な限り公共交通機関を利用することにしている。
「可能な限り」と書いたのは、情けないことだが、全ての山行でその信念を貫いてはいないからだ。
安達太良山への二本松駅から奥岳まで、武甲山への西武秩父駅から一の鳥居まで
子持山への渋川駅から子持神社まで、金峰山への信濃川上駅から金峰山荘までタクシーを使い
西吾妻山へは浄土平野営場から天元台ロープウェイの湯元駅までとその帰路に自家用車を使っている。
山に入るということは、少なからず自然を破壊する行為を伴う。
可能な限り公共交通を利用するのは、少しでも自然を破壊する行為を減らすことと
自家用車を利用することによる無理な運転や疲労による自動車事故を回避する目的がある。
皆さんほとんどそうだと思うが、時間に制約があり
テントと水と食料を担いで歩き続けられるほどの体力もなく、野宿OKでもなく
せめて1か月に1回は山を歩きたいという希望があり
なのに先立つものは心許なく
さらにダーリンからは
「行ったことのない山」で「ピストンは避ける」という無理難題を科せられ
そこにきて公共交通を利用するという条件に適合させるとなると、至難の業だ。
山行計画を立てる時、登ってみたい山への強い思いと、自家用車を使わないという自制とが
常に頭の中で葛藤を繰り返し、大抵の場合はあきらめることになるのだ。


だが、例えば尾瀬や上高地、南アルプスなどはマイカー規制が実施されていることもあって
登山口までのシャトルバスが、最寄り駅もしくは途中でバスを乗り継いで運行されており
公共交通利用者にとっては、大変利用しやすい山域となっている。
地方のちょっと名の知れた山の入山者と比べた場合、これらの山域の入山者はとてつもなく膨大で
その膨大な数の入山者がマイカー規制をしてもなお、バス路線を存続させているのだ。
これらのモデルケースは、全ての山に当てはめることができるというわけでもなく
大変難しい問題だと痛感している。
シャトルバスを運行している山域でも、必ずシャトルバスの経由地や終点に駐車場があることは
多くの人間が、出来れば自家用車で行ける所まで行きたいと考えているからに外ならないことの証である。
人間は、「簡便さ」と「効率」という果てしなき闘いの虜となり
それを追求することで多くのものを失う。
茨城県の神峰山に行く前に五浦に寄り道した時、地元の方が
「今は皆自家用車を持つようになって、どこにでも行けるし便利になって
 バスに乗る人も減ったということでバス路線が廃止されたら
 バスを利用しなければ出掛けられないお年寄りが買い物にさえ困るようになってしまった。
 私達は、自分で自分の首を絞めることをしてしまったんですね。」
と話しておられた。
このような話は、今や山村に限らず都市でも起きている。
各地のそこここで行われている無意味な林道開発の結果、山肌は荒れ
最短で登頂できる格好の口実となってますます自家用車で入山する人間が増え
それが結果的に公共交通の衰退を招いて廃止路線が続出することになる。
山を歩けるだけの力のある人に、不便を承知で公共交通を利用してもらえば
麓の山村でも交通網が充実とはいかないまでも衰退・廃止されることは避けられ
化石燃料の浪費と二酸化炭素・窒素化合物の排出を抑制できる。
山を歩く人に限らず、目の前のコンビニにビールを買いに行くために自家用車を使っている人にも
是非とも考えてもらいたいと思う。


知り合いの山小屋の管理人さんが話していらしたことで、印象深かったことを挙げたい。
「今は、小屋に泊まって山を歩かないんですよ。
 山深くて、どうしても進退窮まるような場所の小屋はむしろ混雑しているくらいだけど
 林道の最終地点に車を停めて、そこから日帰りでピストン出来るような山の小屋の管理人は
 みんな頭を抱えて、今後のことについて悩んでいます。
 ま、アルプス辺りじゃ、そういうことはないんだろうけどね」(秩父山域)
「山登りの形が変わっちゃったんですかね~、観光バスでワーッと来て
 3、4時間いたかなと思うと、サーッと帰っちゃう。
 帰りに麓の温泉に入れるツアーで、バスに荷物を置いて歩けるから
 みんな身軽で、ポシェットぶら提げて歩いている人もいる。
 何かあったとき、どうするんだろうと心配になるけれど
 そんなことはお構いなしで、景色を見て歩くよりもおしゃべりの方が大事みたいで
 ワーワー、ギャーギャー、すごいよ。
 きっと、山で自分自身に何かを得ようとして来ているのではなくて
 帰った後の話のネタのために、山に来ているんじゃないかな。
 行ってどうだったか、よりも、どこそこに行ったということが大切なのかもね。」(吾妻連峰)

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。