道草あつめ

日常思いついた由無し事を、気ままに拾い集めています。

人間観察

2010-06-06 17:44:03 | 世間話
昨日、新宿駅構内で、松葉杖をついて歩いている女性を見た。
松葉杖をついていること自体は珍しくもないのだが、それにしても苦しそうな歩き方をしている。
よくよく見ると、高いヒールを履いている。そういえば、服装も何となくおしゃれ着だ。
運動靴にしようよ、と思いつつ、そのこだわりには圧倒される。


夜、高いビルから見下ろすと、街中には無数の光が灯っている。住宅の生活の明かり、オフィスの残業の明かり、車の移動の明かり。上から見ると無機質で、それを「ゴミのようだ」と言う人もいるらしい。
しかし、光の数だけ人生があるのだと思うと感慨深い。そして、その中に一つとして同じ人生はなく、多種多様な生き様があるのだと思うと興味深い。



コンビニのアルバイトという、いつでも辞められる気楽な接客業を細々と続けて来たが(がっちり長時間勤務しないのは、出世しないための処世術でもある)、このバイトが面白いのは、数々の出会いがあることである。
出会いというのは人間に限らず、店内に鼠が潜んでいたり、軒先にツバメが雛を産んでいたり、本棚の後ろには蜘蛛がいる。今日も掃除をしていたら、芥子粒のような黒いものが動いていて、何かと思ったら、カマキリ。数ミリにも満たない大きさなのに、もう斧をかざしているのだからおかしい。(もっとおかしいのは、店内に蜘蛛やカマキリが生息できるほどの虫がいることだが。今日もダンゴムシが数匹死んでいた。)

しかし、やはり面白いのは、人間である。以下、我が細長いバイト経歴の中で出会った数々のお客さんをリストアップ。


○キンちゃん
いつも帽子かぶって、のしのし歩いている、恰幅のいいおじさん。「お弁当温めますか?」と訊くと、「おう、ヤキ入れてくれ」と返答。
「今年は地震起こるかもな。地震起きる時は、火星の向こうからピピっと電波が来るんだよ」「最近東京で地震が起きないのは、他所の地方に圧力を逃がしているからだよ。地方でちょっとずつ地震を起こしているから、東京で大地震が起きないんだ」等々、不思議な発言が多い。
ちょっと前まで宇宙人の話にハマっていて、「地球人は○○星系から流刑されて来たんだよ。ちょっと戦闘的過ぎるんでさ」「アメリカ軍はもう宇宙人とコンタクト取ってるよ。宇宙人の中でも友好的なのとね。でも、宇宙人にも悪い奴がいて、そういうのが地球人を誘拐するんだ」という話をしていた。
最近のブームはスピリチュアル。霊界が多層構造になっていることや、守護霊が人間を導いたり見放したりすることの仕組み、霊魂の生きる目的、等について解説する。何冊か本も貸してくれた。
たまに公園の池で、鴨に餌をやっているのを見かける。

○ケンちゃん
昼間はいつも俯いていておとなしい。が、夜、アルコールが入った状態で来店すると大暴れする爺さん。「おれはぁぁああ、きたぁじまぁのぉぉサブちゃんとは兄弟(友人の場合も)でぇぇぇ」と言って、おでんの前で朝まで熱唱していたこともある。当時は店員も特に深夜勤務の人はハチャメチャだったので、拍手・アンコールして乗せまくっていた。
数年前、パタッと元気がなくなる。どうも、奥さんが病気で入院して、手術が必要という状態だったらしい。昼も夜も俯いたままで、皆心配していた。
最近はまた復活し、夕方勤務の店員に絡んでいるらしい。しかし、今の店員は普通の人が多いので、ケンちゃんは不完全燃焼。

○中村さん
杖をつきながらたくさん買い物をしていくお婆さん。「ちょっとごめんよ、これも買うよ」「なんだいこりゃ、ふうん、そういうのかい。じゃあ買うよ」と、よく喋る。一時期はくじ引きにハマっていて、「どうせ大したもんは当たらないだろうけどさ」と言いながら、一回数百円のくじを何回も何回もひいて、「ああ、これはもうあるよ」「これもあるなぁ」と言って、景品を全部店員にくれることもあった。
最近ちょっと足腰が弱くなって来たような気がする。

○畳屋さん
いつもコーヒーとポークフランクを買っていくおじさん。最近はポークフランクではなくコロッケがブーム。
以前勤務していたバイトM嬢の大ファンで、当時17歳だったM嬢にラブレターを渡したこともある。年配のバイトIさんに本気で相談をしていたとか。結局フラれたが、連絡先を交換し合って仲良くなり、「おう、○○○(M嬢の名前)、今度飲みに行こうぜ」と言って、焼肉に連れて行ったりしていたらしい。
(なお、M嬢は、仕事が早く、接客態度が落ち着いて話も上手だったためたか、実年齢よりも上に見られることが多かった。容姿も愛想も良かったために、私の知る限りでは3,4回、勤務中に(パンの陳列棚の前等で)お客さんから告白されていた(全員年上)。断り文句が「私、まだ17歳なんですけど」から始まるのはおかしかったが、結構時間をかけて丁寧に断っていたのは偉い。告白したことで仲が悪くなった人はいない。)
M嬢が別の店に移った後も、「なんだよぉ、今日は男だけかよ」と言いつつ、相変わらず買い物に来る。

○雀荘のおじさん
夜勤明けに自転車をこぎながらやってくる、いつも笑顔のおじさん。私が中国語を勉強していたと知って以降、雀荘の客から教わったあやしげな俗語の様々を披露してくれる。
やはりM嬢のファンで、告白までには至らなかったが、M嬢移籍後はあまり来なくなった。3月にM嬢と会った時に話をしたら、「雀荘のおじさん、最近、うちの店に来るんですよ。“やぁ、お姉さんのいるこっちの店に来ることにしたよ”と言ってました。」「ええっ、自転車でも結構遠いんじゃないの?!」「そうなんですけど、毎日来ますよ。」
――M嬢おそるべし。

○リンダさん
背が小さくて、頭のてっぺんから声を出してしゃべる、フィリピン人のおばさん。買ったものを店内で飲み食いするが、行儀は決して悪くない。Iさんと仲良し。
何年か前に、「彼女いるの?」と私に訊いて来て、「いない」と応えたら、「じゃあ、私の娘を紹介するよ。きれいだよ」と言う。そして、その写真の入ったメモリーを取り出して、コピー機で印刷しようとしたが、うまくいかずに断念。次に会った時にはうまいこと忘れてくれていた。

○電話する人
最近よく来る女性。恐らく大学生。毎回、電話をしながら現れ、電話をしながら支払いを済ませ、電話をしながら去っていく。
初めて会った時は、電話で話す言葉がふにゃふにゃしていてまるで聞き取れず、外国人かと思ったのだが、私に「○番のタバコ下さい」という発音は完全に日本人。それからレジを打ちながら電話の会話をよくよく聴くと、やはり日本語。かなり不思議。私が先方だったら、聞き間違い必至。

○トイレットペーパーを盗る人
眼鏡をかけた小柄なお姉さん。この人がトイレに入ると、トイレットペーパーが大量になくなる。そして、おにぎりを1,2個買っただけで、箸を5膳も6膳も要求する。
あまりにそれが続くので、私は策を講じて、この人が来店した瞬間にトイレに入って残りの本数を数え、この人がトイレを使った後にすぐまたトイレに入って確認するようにした。また、「お箸5膳下さい」と言われても、「おにぎり食べるのにお箸を使われるんですね」「はい」「2膳では足りませんか」と値切るようにした。
すると、トイレットペーパー紛失はなくなり、お箸も3膳で落ち着き(まだ多いが)、やがて来なくなった。セコイように思われるが、エスカレートする前に止めるのが筋であろう。
なお、別人だが類似のケースが、両替魔人。100円のガムを買って1万円を出すのだが、買った後にも店を出ず、また100円のガムを持ってきて1万円を出し、それを一回の来店で4回も5回も繰り返す。これはトイレットペーパーを盗るのとは違って犯罪ではないが、しかしコンビニは銀行ではないのだし、釣銭がなくなったら営業に差し障る。そこで、やはりこれも私が接客した時に、「先程お釣りとしてお返しした小銭の中からお支払い願えますか」と言ったところ、「いや、それでも一万円札で」と言って押し切られたが、以後来なくなった。

○130円置いてく人
いつも早足でやってきて、スポーツ新聞を取って、店員がレジにいようといまいと、他の客のレジを打っている最中でも、130円ちょうどを「新聞」と言って、ドンと置いていく短気なおじさん。
しかし、130円が無く、お釣りが必要な時は、ちゃんと列に並んで待つから偉い。

○テリブル
怒るために来店しているのではないか、と思うくらい、よく怒り出す爺さん。店に入っては怒り、品物が無ければ怒り、自分の要求が伝わらなければ怒り(しかも聞き取りづらい)、話しても怒り、話さなくても怒る。
しかし、自分が失敗をすると、小さくなって慌てて出て行く。先日もレジを済ませて品物を渡すと、「ちょっと! 箸入れろっつっただろうが!!」「入れましたよ」「……あ、そ。。」

○中南海のおじさん
平日は仕事着で仲間達と、休日は私服で一人で、毎日必ず来るおじさん。性格は極めて温厚。休日は大量に買い物をしていくが、必ずレシートをチェックして、「あれ、これ、タバコの代金入ってないよ」と誤りを指摘してくれる、ありがたいお客さん。
以前は中南海の5mgを買っていたが、店が5mgを扱わなくなっても不満一つ言わず、以後は中南海の1mgかフロンティアを買うようになった。そこは不満を言うべきなのではないか、と私は思う。

○発泡酒のおじさん
いつも麒麟の淡麗を買って、店先で飲んでいく爺さん。家で飲むのは肩身が狭いらしく、冬の早朝でも必ず店先で飲んでいく。3時間の間に3回飲みに来たこともある。
家が近いのか、コンビニ以外でもよく道端で出会う。この時期は、パジャマで自転車を漕いでいることが多い。


その他まだまだいるし、店員の中にも面白い人がいるのだが、だいぶ長くなったので、ここまで。

しかし、競艇場前のファミマと掛け持ちしているバイトI君の話によると、うちのコンビニは客層が良く、店員もまともな方と言う。ファミマの方ではガラの悪い客が多く、よく店員と喧嘩になるらしい(I君はそれが楽しみで向こうのバイトをしているとか)。そして、喧嘩がヒートアップすると、最後は店長が現れて事態を収拾する。店長というのは、見た目からして恐ろしい、極道なんじゃないかという様子の人らしい。


人間というのは、よくもここまでヴァリエーションがあるものだと、つくづく思う。

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