日々雑記

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「あたらしい憲法のはなし」 古くて新しい教科書

2013-04-19 16:47:38 | 日記

「あたらしい憲法のはなし」という本をご存じでしょうか。昭和22年に文部省が出し教科書です。翌23年から中学1年生の教科書として使われました。私は昭和23年に中学に入学したので、この教科書で憲法を学びました。
残念ながら、2,3年で使われなくなったそうです。 

この教科書は、後にみるように「日本国憲法」を分かりやすく解説した名著です。「これが文部省発行の教科書だろうか」と思えるほど生き生きと新憲法ができた喜びを伝えています。その後の政府がこの憲法をないがしろにしていることを考えると夢のような話です。

非常にやさしい本ですし、わずか35ページの薄い本なので時に触れて読みたいものです。とくに政府や自民党の意見に触れた時、日本人の初心を思い出すために読むといいのではないでしょうか。この本は日本平和委員会が再刊していますが、もっと簡単には青空文庫に収められています。
ここをクリックしてみてください。

内容に入りましょう。(引用分に旧字体が使われています。國=国、戰爭=戦争)

 これまであった憲法は、明治二十二年にできたもので、これは明治天皇がおつくりになって、國民にあたえられたものです。しかし、こんどのあたらしい憲法は、日本國民がじぶんでつくったもので、日本國民ぜんたいの意見で、自由につくられたものであります。この國民ぜんたいの意見を知るために、昭和二十一年四月十日に総選挙が行われ、あたらしい國民の代表がえらばれて、その人々がこの憲法をつくったのです。それで、あたらしい憲法は、國民ぜんたいでつくったということになるのです。

と国民が作ったことを強調しています。

 この前文には、だれがこの憲法をつくったかということや、どんな考えでこの憲法の規則ができているかということなどが記されています。この前文というものは、二つのはたらきをするのです。その一つは、みなさんが憲法をよんで、その意味を知ろうとするときに、手びきになることです。つまりこんどの憲法は、この前文に記されたような考えからできたものですから、前文にある考えと、ちがったふうに考えてはならないということです。もう一つのはたらきは、これからさき、この憲法をかえるときに、この前文に記された考え方と、ちがうようなかえかたをしてはならないということです

 それなら、この前文の考えというのはなんでしょう。いちばん大事な考えが三つあります。それは、「民主主義」と「國際平和主義」と「主権在民主義」です。

と、前文の三つの原則だけは変えてはならないと言っています。自民党の「改憲案」はまさにこの原則を変えようとしているのではないでしょうか。

この後「民主主義とは」「国際平和主義」「主権在民主義」[天皇陛下」の項がありますが、少しとばして「戦争放棄」に入ります。どう書いてあるでしょう。全文を示しましょう。

みなさんの中には、こんどの戰爭に、おとうさんやにいさんを送りだされた人も多いでしょう。ごぶじにおかえりになったでしょうか。それともとうとうおかえりにならなかったでしょうか。また、くうしゅうで、家やうちの人を、なくされた人も多いでしょう。いまやっと戰爭はおわりました。二度とこんなおそろしい、かなしい思いをしたくないと思いませんか。こんな戰爭をして、日本の國はどんな利益があったでしょうか。何もありません。たゞ、おそろしい、かなしいことが、たくさんおこっただけではありませんか。戰爭は人間をほろぼすことです。世の中のよいものをこわすことです。だから、こんどの戰爭をしかけた國には、大きな責任があるといわなければなりません。このまえの世界戰爭のあとでも、もう戰爭は二度とやるまいと、多くの國々ではいろいろ考えましたが、またこんな大戰爭をおこしてしまったのは、まことに残念なことではありませんか。
挿絵6
 そこでこんどの憲法では、日本の國が、けっして二度と戰爭をしないように、二つのことをきめました。その一つは、
兵隊も軍艦も飛行機も、およそ戰爭をするためのものは、いっさいもたないということです。これからさき日本には、陸軍も海軍も空軍もないのです。これを戰力の放棄といいます。「放棄」とは「すててしまう」ということです。しかしみなさんは、けっして心ぼそく思うことはありません。日本は正しいことを、ほかの國よりさきに行ったのです。世の中に、正しいことぐらい強いものはありません。
 もう一つは、よその國と爭いごとがおこったとき、けっして戰爭によって、相手をまかして、じぶんのいいぶんをとおそうとしないということをきめたのです。おだやかにそうだんをして、きまりをつけようというのです。なぜならば、いくさをしかけることは、けっきょく、じぶんの國をほろぼすようなはめになるからです。また、戰爭とまでゆかずとも、國の力で、相手をおどすようなことは、いっさいしないことにきめたのです。これを戰爭の放棄というのです。そうしてよその國となかよくして、世界中の國が、よい友だちになってくれるようにすれば、日本の國は、さかえてゆけるのです。
 みなさん、あのおそろしい戰爭が、二度とおこらないように、また戰爭を二度とおこさないようにいたしましょう。

実に率直に戦争に対する反省を述べています。今の政府が戦争を起こしたことの反省を口にしなくなったのとは対照的です。また、戦争放棄についても「戦争をするものためのものは、一切持たない」と明快です。

基本的人権については:

 くうしゅうでやけたところへ行ってごらんなさい。やけたゞれた土から、もう草が青々とはえています。みんな生き生きとしげっています。草でさえも、力強く生きてゆくのです。ましてやみなさんは人間です。生きてゆく力があるはずです。天からさずかったしぜんの力があるのです。この力によって、人間が世の中に生きてゆくことを、だれもさまたげてはなりません。しかし人間は、草木とちがって、たゞ生きてゆくというだけではなく、人間らしい生活をしてゆかなければなりません。この人間らしい生活には、必要なものが二つあります。それは「自由」ということと、「平等」ということです。
 人間がこの世に生きてゆくからには、じぶんのすきな所に住み、じぶんのすきな所に行き、じぶんの思うことをいい、じぶんのすきな教えにしたがってゆけることなどが必要です。これらのことが人間の自由であって、この自由は、けっして奪われてはなりません。また、國の力でこの自由を取りあげ、やたらに刑罰を加えたりしてはなりません。そこで憲法は、この自由は、けっして侵すことのできないものであることをきめているのです。

と人間に生まれながらに持つ権利だと述べています。「自民党改憲案」の説明では、このような「天賦人権説」にたいして明確に否定しています。どちらをとるべきでしょうか。私はいろいろな理由をつけて人権に制限をつけるのに反対したいと思います。

この後には「国会」「政党」「内閣」「司法」「財政」「地方自治」の項目がありますが、紹介が長くなりすぎるので、原文をお読みいただきたいと思います。

最後に「最高法規」の項を紹介しておきましょう。

このおはなしのいちばんはじめに申しましたように、「最高法規」とは、國でいちばん高い位にある規則で、つまり憲法のことです。この最高法規としての憲法には、國の仕事のやりかたをきめた規則と、國民の基本的人権をきめた規則と、二つあることもおはなししました。この中で、國民の基本的人権は、これまでかるく考えられていましたので、憲法第九十七條は、おごそかなことばで、この基本的人権は、人間がながいあいだ力をつくしてえたものであり、これまでいろいろのことにであってきたえあげられたものであるから、これからもけっして侵すことのできない永久の権利であると記しております。
 憲法は、國の最高法規ですから、この憲法できめられてあることにあわないものは、法律でも、命令でも、なんでも、いっさい規則としての力がありません。これも憲法がはっきりきめています。
 このように大事な憲法は、天皇陛下もこれをお守りになりますし、國務大臣も、國会の議員も、裁判官も、みなこれを守ってゆく義務があるのです。また、日本の國がほかの國ととりきめた約束(これを「條約」といいます)も、國と國とが交際してゆくについてできた規則(これを「國際法規」といいます)も、日本の國は、まごころから守ってゆくということを、憲法できめました。
 みなさん、あたらしい憲法は、日本國民がつくった、日本國民の憲法です。これからさき、この憲法を守って、日本の國がさかえるようにしてゆこうではありませんか。

あらためて「基本的人権」は人間が長い間の努力の結果獲得してきたものだとのべ、決して犯すことができない永久の権利だと述べ、これに対する改定はあるべきでないとの立場を取っています。また天皇も大臣も守らなければならないと述べています。この憲法の規定からみれば、政府が憲法改定を主導することは考えられないことです。

以上紹介してきましたが、この教科書は65年前の本とは思えないくらいに新鮮な意味を持っていると思えます。また引用分にも明らかなように、戦争を引き起こした国としての反省、戦争の惨禍を見た後の二度と戦争をしたくないという決意に満ちた本になっています。
私も久しぶりに読み、もう一度憲法をまもろことの大事さを考えました。 



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3 コメント

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「古くて新しい教科書」のお話、ありがとうございます (おおかわ)
2013-04-20 12:20:37
このような教科書を文部省が作成していたのですね。99条の「憲法尊重擁護義務」を率先して遵守する姿勢が良くわかります。
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Re:「古くて新しい教科書」のお話、ありがとうございます (pe-chang)
2013-04-21 16:39:20
おおかわさん。コメント有難うございます。あの当時、すべての日本人が戦争の惨禍を身にしみて感じていました。「戦争の記憶」というより、戦争を現在あるものとして感じていたのだとおもいます。それと爆撃からも警察からも解放された開放感。こうした感覚を背景に新憲法が受け入れられて行ったのではないでしょうか。当時の子供としての感想です。大人はもう少し複雑だったろうと思います。
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素晴らしい紹介です (マーちゃん)
2013-05-29 21:58:29
「憲法のはなし」を使って私も教員の時には子どもたちに話していました。 この本の存在自体を知らない教員や国民が多いと思います。自費でも自分で印刷して広く頒布する方法を模索中です。とにかく憲法そのものと、これができたころの国民の息吹を伝えたいものだと思っています。とても素晴らしい紹介文と資料ありがとうございます。
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