ニューヨークタイムズの5月16日号が、日本の集団的自衛権行使容認について記事を載せています。「日本が軍事力行使の戦後の制約を緩和へ」と題する記事です。
「安倍晋三総理大臣は日本の平和主義から大きな一歩を踏み出そうとしているのかもしれません」とのべています。
以下記事を紹介します。
「軍隊に対する憲法上の制限を緩めて同盟国が攻撃された場合に参戦できるようにすべきだ」という安保法制懇の報告を受けて、安倍晋三総理大臣は日本の平和主義から大きな一歩を踏み出そうとしているのかもしれません。
安倍内閣によって任命された安保法制懇は、日本は憲法の戦争放棄条項を解釈しなおし、自衛隊に大きな役割をも持たせるべきだと言いました。終戦後間もなく作られた自衛隊は、これまで、日本の領土と国民を守ることだけに、その役割を厳密に制限されてきました。
憲法解釈が変更されると、日本の軍隊は、たとえ日本自身が攻撃を受けなくても、一定の条件のもとで参戦できることになります。たとえば北朝鮮のミサイルがアメリカに向かって発射されたときに、これを撃ち落とすことができます。また解釈が変更されると、国連平和維持活動でも今までより大きな役割を果たすことになります。日本は1992年以来平和維持活動に部隊を送ってきましたが、その活動には厳しい制限がありました。
もしこの解釈変更が行われると、日本軍の立場に根本的な変化が出ることになるでしょう。
この報告書に対して安倍氏はすぐに賛意を表しましたが、今度は連立政権内部で議論されることになります。そこでは公明党の反対に直面しています。この解釈変更が骨抜きにされるかどうかは今のところ不明です。
世論調査によると広範な反対意見があります。多くの国民は民族主義的な安倍氏が、この解釈変更を憲法改正の第一歩として利用するのではないかと考えています。
上智大学教授で、政治学者の中野晃一はいいます。「これでは憲法第9条を無限に拡大解釈することになります。多くの人々は、このやり方では憲法第9条ばかりか、憲法そのものを否定することになるので心配しています。」
安倍氏は、「ますます攻撃的になってきている中国、核武装した北朝鮮に対応するために、アメリカとの間に緊密な関係を築き、オーストラリアやインドのような民主主義国との間の軍事同盟を作ることが必要だ」といいます。安倍氏はまた解釈変更が日本を戦争に巻き込むという批判を断固として拒否します。
安倍氏はテレビ放送で、「強い軍隊があれば、日本自身を守り、地域の安定に寄与することによって、平和の維持に貢献できます」といいました。安倍氏はこれを「積極的平和主義」と呼んでいます。
「日本が再び戦争を起こすのではないかという誤解があります。私はこの批判を拒否します」と安倍氏は言います。「私は憲法の平和主義を守ります。日本の抑止力を強めることによってわが国は戦争に巻き込まれるのを避けることが出来るでしょう。」
安倍首相は2012年に就任して以来不人気な法律を議会に押しつけてきました。特定秘密保護法、日本版NSC法、武器輸出三原則の改定などです。安倍氏は今月フランスとイギリスの首脳と会い、武器の共同開発で合意してきました。
憲法の解釈変更はさらに、日本の軍隊を「普通の」軍隊にするまで進められるでしょう。そのために、安保法制懇は必要とされるでしょう。そうして集団的自衛権を、現憲法下でも許されると称する自衛権の発動として認めるために使われるでしょう。
政治評論家たちはこう言います。安倍氏は集団的自衛権の行使容認を日本の平和憲法廃止への準備段階とみているのかもしれません。安倍氏は現憲法を戦後にアメリカ占領軍が書いた時代遅れの文書だとみています。しかし世論調査では憲法改正に強い反対があるので、解釈改憲をすることに決めたのだということです。
中野晃一氏は言います。「安倍氏は時間がかからない方法を探しています。しかしそうすると別の問題が生じました。今後も、その時々の政府が、解釈を変えるだけで憲法を変えられるという問題です。」