福島第一原子力発電所の事故以来私たちはいろいろのことを考えさせられました。危険な原子力発電所をなくしたいというのは、多くの人たちに共有された思いになっています。一方で原子力以前のエネルギーである火力発電は環境破壊、地球温暖化の大きな原因となり、これまた拡大はおろか縮小することが必要になっています。
原子力、火力が問題にならない以上、自然エネルギーに頼るほかありません。しかし本当に自然エネルギーに頼ることができるのだろうか。これだけ発達した工業や生活を維持するのに自然エネルギーで足りるのだろうか。自然エネルギーには本当に害がないのだろうか。環境を破壊するようなことはないのだろうか。こんなことを考えながら、多くの人は「原発ゼロ」と叫ぶのを躊躇しているのではないでしょうか。いや、躊躇するほどではなくても確信が持てないと感じているのではないでしょうか。
こんな問いに答える本を見つけました。「自然エネルギーQ&A」(岩波ブックレットNo.884)です。自然エネルギー財団の編集です。この財団はその活動実績から見ても、構成している人々の顔ぶれからみてもあやしげな団体ではありません。この本の価格は500円+税とお手頃です。
内容の紹介をしましょう。この本は私たちが感じる疑問を整理して8個のQ&A(質問と答え)と序文、あとがきで構成されています。
巻頭の序文で驚いたのは世界における自然エネルギーの普及状況です。ちょっとのぞいてみましょう。
デンマークをはじめとしてスウェーデン、ドイツ、などでは発電の中で自然エネルギーが大きなシェアを占めています。アメリカや中国でも急速に伸びています。
自然エネルギー利用が世界で 普及してきているために、後発の日本は先進国の技術を利用することができ、安いコストで追いつくことができるという利点もこの本の随所に述べられています。
自然エネルギー資源の量はどうでしょう。現在の世界の電力需要を基準にして考えると、太陽エネルギーは2850倍、風力200倍、バイオマス20倍、地熱5倍、波・潮力2倍、水力1倍だそうです。量としては十分すぎるほどです。
Q&Aを紹介しましょう。8個の質問にそれぞれ簡単な答えが書いてあります。簡略化されているので少し分かり難いところがありますが、本の中では、この後に数ページの説明がついています。残念ながら長いのでここには紹介できません。
Q1 自然エネルギーって、何ですか?
A1 自然エネルギーとは、太陽の光や熱、風、水、地熱など、自然の循環から得られるエネルギーのことです。
Q2 コストが高いのでは?
A2 すでに電気代より低い発電コストを達成した自然エネルギー技術もあります。技術開発と大規模普及により一層のコスト低減が予想されます。
Q3 お天気まかせで不安定な電源なのでは
A3 太陽光や風力などは気象により変動しますが、発電量は事前に予測可能です。また、適切な制御システムを用いることにより、電気を安定的に供給することが可能です。
Q4 環境影響や健康被害はない?
A4 自然エネルギーであっても、環境や健康にまったく影響がないとは断言できません。とはいえ、「だから自然エネルギーも問題だ」と短絡する前に、もう少し大きな視点からていねいに考える必要があります。
Q5 ドイツでは電気料金が高騰していると聞きましたが?
A5 自然エネルギーによる電気料金の上昇分は一部分です。一方で自然エネルギー普及により化石燃料が減り、卸電力価額が安くなっています。さらに自然エネルギーもコストが急速に安くなり、市場競争ができるようになってきています。
Q6 自然エネルギーの大量導入は難しいのでは?
A6 欧州では自然エネルギーの割合が20%を超える国が複数現れており、100%を目指している国もあります。送電網の増設や国際連系の実現、スマート化によるデマンド・レスポンス、蓄電機能の活用といった対策を進めることで、大量導入は可能です。
Q7 ビジネスとして成り立つのですか?
A7 国際的にはもちろん、日本でもすでにメガソーラーには多くの企業が参入し、ウィンドファームに続いてバイオマスも大手企業が参入するビジネスになっています。
Q8 社会はどのように変わりますか?
A8 3・11で原子力事故を経験した日本にとっても、また気候変動対策が進まない世界全体にとっても、唯一ともいえる「不幸中の幸い」は今や自然エネルギーが、世界の様々な国で、農耕革命・産業革命・情報通信(IT)革命につづく人類史「第四の革命」と呼ばれる急激な普及拡大を実現しつつあることです。
Q8と「あとがき」には自然エネルギーを使う将来の社会が描かれています。ここには紹介しきれませんが、石油を輸入しなくてもよい日本の姿、地方が原発の補助金に依存しなくてもよい社会、などなど楽しい未来が描かれています。また「コミュニティパワー三原則」を提唱しています。すなわち(1)地域社会がエネルギーを創ることを自ら担い、(2)どこにどのように創るかを自ら決め、(3)そしてそのエネルギー事業から得られる社会的もしくは経済的なメリットを自ら得る」という原則です。これまでの大規模なエネルギー産業とは違い、自然エネルギーの場合には小規模分散事業となるため、このような原則を実現することが可能だと著者たちは主張しています。