今日朝起きるとラジオから流れだしたのは安倍総理の声だった。真珠湾の光景と日本海軍の奇襲攻撃の際に繰り広げられたと思われる悲惨な光景の描写から始まる演説は立派な演説に聞こえた。しかし聞き進むうちに私の心は違和感に耐えられなくなってきた。
美しい言葉を並べれば並べるほどその薄っぺらさが目立つ。内容がない言葉は聞いている私の心をいらだたせる。
私をいらだたせた第一の点は、真珠湾奇襲攻撃の残酷さ、悲惨さをいくら述べ立ててもその攻撃が誰によって行われたか、太平洋戦争がなぜ起こったのか一言も述べないところにある。安倍晋三氏には太平洋戦争は自然現象として起こり、人間はその被害を嘆く以外に方法がないものに見えるのだろうか。
歴史はこう語ります。真珠湾奇襲攻撃は、日本が周到に計画して行ったものです。
日本は中国を侵略し、中国東北部に「満洲帝国」という傀儡政権を作り、事実上の植民地にしました。アメリカは「中国から手を引け」と要求しました。これに反発して日本が起こしたのが太平洋戦争です。日本は中国侵略を完成すべく太平洋戦争を起こしました。さらにこの戦争は、日独伊同盟をもとに世界征服を目指したものでした。繰り返して言えば太平洋戦争は日本の起こした侵略戦争だったのです。このことを指摘しなければ、真珠湾に沈んだ兵士たちの「慰霊」にはならないでしょう。
さらに言えば太平洋戦争で日本の侵略にさらされ苦難の歴史を歩んだ中国、朝鮮半島の人々をはじめとするアジアの人々は、この演説に決して納得しないでしょう。日本の総理大臣はアメリカに行って「寛容」をたたえるより前に、生易しいことでは許してもらえないアジアの国々を訪ねるべきだったと思います。
安倍首相は彼の敬愛する祖父、岸信介元首相に遠慮したのかもしれません。岸信介氏は満州国総務庁次長として傀儡帝国、「満州帝国」経営の中心にいた人物です。総務庁次長といえば、これを現代の日本の官制と乱暴な比較をすれば総理大臣にもあたる地位です。さらに太平洋戦争中は、この戦争を起こした第一の責任者東条英機総理のもとで商工大臣を務めた人です。もし安倍首相が祖父に遠慮したのならば、そんな人は日本国の総理大臣を務めてはいけない人でしょう。
日本と一緒になって世界征服を目指した国ドイツで第二次大戦後に大統領になったワイツゼッカー氏は、ナチス時代にドイツが行ったことに目をつぶろうとする人たちに対して「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです。」といましめています。安倍首相に味わあせたい言葉です。
安倍首相の演説にはいろいろと指摘しなければならないことがありますが、もう一つ指摘しておきましょう。それは彼の言う「未来志向」の日米関係です。首相は現在と未来を「日米同盟」だと言っています。「日米同盟」は軍事同盟です。日本とアメリカの「未来」をどうして「軍事同盟」に結び付けるのでしょうか。どうして平和な世界に結び付けようとしないのでしょうか。悲しすぎます。大多数の日本人は太平洋戦争の最大の教訓として「平和主義」をとりました。そうして憲法九条を作り、守ってきました。この演説の中でいうならば、「世界から戦争をなくすために協力していきましょう」とか、せめて「核兵器をなくすために頑張りましょう」とか言えないものでしょうか。そんなことも言えないならば、同じ演説の中の「戦後70年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たち日本人は、静かな誇りを感じながら、この不動の方針を、これからも貫いてまいります。」という言葉は何なのでしょうか.