最近のニュースの中から医療、介護を中心に政府の政府の動きを追ってみました。
6月のニュースの中では医療・介護総合法案の国会審議が中心でした。6月2日には参議院で審議に入り6月18日に可決成立しました。この法案は医療・介護に関する19の法律をまとめて改定しようとする法案であり、国民の生活に重大な影響がある法案であり、多くの団体や医療・介護関係者の反対も多かったのですが、わずか17日間のスピード審議で成立しました。そのため審議は決して十分だったとはいえません。自民党、公明党の強引な国会運営で成立したと言ってよいでしょう。
法律の内容は、広い範囲にわたりますが、大きな争点になったのは介護保険のことでした。
第一は、介護保険の利用料のうち、一定額以上の収入がある利用者の負担割合をこれまでの1割から2割に引き上げたことでいた。もう少し具体的に言うと夫婦世帯で年収359万円(単身者280万円)以上の世帯は2割負担になったのです。この案について国会審議では大きな問題になりました。政府はこれだけの収入がある人は年間60万円の余裕があるから2割を負担できるはずだと主張しました。しかし審議の過程でこの60万円という数字には何の根拠もないことが明らかになり、厚生労働大臣はこの説明を撤回し、「反省している」とまで言いました。それにもかかわらず法案を強引に通しました。
第二は、要支援者への訪問・通所介護を介護保険の保険給付から外し、市町村の地域支援事業に置き換えたことです。これまで介護保険で提供されていたサービスを市町村のボランティアなどにまかせるものです。この案に対しては210の地方議会が意見書を出し「市町村に受け皿はなく、実施すれば地域格差が生じる」と異議を唱えました。また専門家の間からは、「認知症初期などには専門家の関与が必要であり、ボランティアが介護することは無理がある」との反対意見が強く出ていました。
この改定案はそれ以前にモデル事業が行われました。このモデル事業に参加した荒川区では、介護保険で要支援1に認定されている女性が区の地域包括支援センターの職員に介護保険の「生活援助」をやめてボランティアの家事援助に変更するよう再三迫られたといいます。この方は介護保険サービスの3倍近い利用料で、先行きが不安だと訴えています。
今回の厚生労働省の計画でも介護保険の「卒業」をせまる仕組みが明記されているそうです。
これでは介護保険に強制的に入り、保険料を納め、介護認定を受けているにもかかわらずサービスを受けられない―――という「受給権の侵害」が起こっています。
第三の問題は、特別養護老人ホーム(特養)の入所を要介護3以上の人に限ったことです。現在特養の待機者は52万人いますが、そのうち17万8千人は要介護1、2の方たちです。特養入所が必要かどうかは、決して介護度だけでは決められません。それを介護度だけで線引きをするのは無理があります。無理に線引きをすれば、今待機している17万8千人の人たちは待機者の中にも入れられなくなります。
もともと、介護保険は強制加入の「社会保険」です。この制度のもとでは、特養入所が必要な人には入所を保障するのが介護保険の役割ですが、現在でも特養が足りないためにこんなに多くの待機者がいることになっています。政府の財政措置が不十分だからです。それで待機者の数を見かけだけ減らすためにこのような制度を作ろうとしているのです。
これまで述べた三つの問題はいづれも介護保険の根幹を揺るがすような重大な問題であり、「改悪」といってよいでしょう。
医療の問題にも触れておきましょう。
第四の問題は「医療計画」の問題です。都道府県主導で病床の再編・削減を推進する仕組みを作り、病院が従わない場合、病院名の公表、各種補助金や融資対象からの除外などの制裁措置をとります。
これまで日本の医療を支えてきたのは、質の高い開業医と民間病院、公的病院の努力と自発的な連携です。この制度のもとで、国民が自由に病院を選んで受診し、安い料金で診療を受けられる国民皆保険制度が維持されてきたのではないでしょうか。またその結果として世界で一、二をあらそう長寿国を実現させることができたのだと思います。「医療計画」による強権的なベッド規制は国民皆保険制度の根幹を揺るがすものです。
これまで見てきたように、医療・介護総合法案は介護保険制度と国民皆保険制度を後退させるものでした。なぜこんなことが起こったのでしょうか。国民の健康と福祉を守るべき政府がなぜこんなことをしているのでしょうか。
私は、この法律と同じ6月に出され、閣議決定された「骨太の方針」「改訂成長戦略」にあると思います。
この方針では、社会保障費の削減・抑制を課題として方針を列挙しています。人口の高齢化などに伴う社会保障費の「自然増」までも「聖域なく見直し」「徹底的に効率化・適正化する」と宣言しています。この方針は小泉純一郎政権が強行して日本中に「医療崩壊」「介護難民」を生みだした政策と同じものです。
骨太の方針はまた「自助・自立のための環境整備」を強調しています。これまで自助・共助の後に述べられていた「公助」は完全に姿を消しました。国の責任を大きく後退させ、個人や家族に負担を強いる「自己責任」だけを強調し、憲法25条にもとづく国民の生存権保障や社会保障の向上・増進に対する国の責任を放棄しています。
「改訂成長戦略」では医療・介護を「産業化」「営利化」の方向に持ち込もうとしています。
このような基本方針のもとで、国民の社会保障は掘り崩されています、
この後、7月に入ってからの動きをまとめるつもりでしたが、話が長くなってきたので次の機会に譲ります。