杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・東日本大震災:石巻市教委が大川小の被災についての聴取メモを廃棄  

2011-08-22 11:32:39 | 東日本大震災
東日本大震災の津波で全校児童の約7割が死亡・行方不明となった宮城県石巻市立大川小学校について報告書をまとめた同市教委が、教諭や児童ら計27人に当時の状況を聞き取った約30枚のメモをすべて廃棄していたことが20日、わかったというニュースを各社が報道しています。

 大川小学校は北上川沿いにあり、約4キロ先の河口からさかのぼってきた津波によって被災しました。計108人の児童のうち74人が死亡・行方不明、当時学校にいた教職員11人のうち10人が死亡・行方不明。学校に避難していた地域の住民も犠牲になりました。

 このメモ廃棄について情報を総合すると
 市教委は報告書作成にあたり、3月25日に職員2人が約30分間、男性教員から当時の様子を聞き取ってA4判の紙1~2枚に書き込んだが、そのメモを4月中旬に廃棄。児童ら24人からは4月下旬から順次聞き始め、その際のメモを5月中旬に処分。男性教師や児童らの他にも、当時外出していた大川小の女性職員、周辺で警戒を呼び掛けていた市職員にも4~5月に聞き取りを実施。それぞれの証言を記したメモも「概要」として報告書にまとめた後、「全て捨てた」(学校教育課)ということです。

 報告書のうち、男性教師に関わる部分はA4判用紙2枚で、「聞き取りの概要」として、
「地震発生とともに机の下へもぐる」
「津波が来た。男性教師は最後尾におり、『山だ』と叫んだ」
などと当時の状況を時系列に並べているが、男性教師の具体的な発言は記されていないということです。

 男性教師の話を聞いた市教委の担当者は
「詳しい発言内容は記憶にないが、大切だと思った部分は報告書に反映させた。メモはたまるだけなので、保存する理由はない」答え、
「重要な部分は報告書に反映させた。しかし大きな悲劇だったことを考えると、聴取内容を録音するなどして残すべきだったかもしれない」と話しているということですが、重大な事実にかかわる情報の重さに対する認識が欠けていたのではないか,とおもわれると同時に、学校の責任に及びそうな事柄について、故意に記録を残さなかったのではないか,とさえ思えます。
 当時、大川小6年生だった女児を亡くした女性(45)は、市教委の対応について「どうしてメモを処分してしまったのか。遺族は真実を知りたいと願っているのに、市教委はしっかり検証する気がなかったのではないかと思ってしまう」と話されたということですが、遺族にとってみれば、子どもが津波に呑み込まれるその時、どんなことが起こっていたのかは心から知りたい事実です。
 これまでも,犯罪の被害を受け方たちが、責任追及とか以前の問題として「真実が知りたい」といわれ続けていることが、まったく応用できていないです。


 話は変わりますが、今、裁判をしているいじめ自殺の事件(自死生徒側の代理をしています)でも、自殺直後に、学校がそのことについてクラスの生徒から聴取したメモを廃棄した,という回答を市からもらっています。
「検証する気がなかったのではないかと思ってしまう」という今回の津波被害のご遺族の言葉から、さらに「事実を隠ぺいしたかったのではないかと思ってしまう」という感想を持っています。

 ちなみに,もう一度聞きとったらどうなの?という話ではありません。記憶も散逸します。感じ方も変われば、意図的に発言することの取捨選択をするなど、操作の可能性も高まります。直後の供述はとても重要なのです。
それに、その時のことを子どもたちに、もう一度思い出させて、友だちの最後の姿を語らせることはあまりにも苛酷を強いることです。

 重要な情報の扱いについては、改めて教育現場で確認されるべきです。

なお、情報公開の観点から堀部政男一橋大名誉教授(情報法)は
 大川小児童の犠牲は歴史に残る悲劇と言える。石巻市教委は「メモだから廃棄した」と言うが、生き残った男性教師の言葉は重要な証言。プライバシーに関わる部分を除けば、当然情報公開の対象になる。
 なぜ悲劇が起きたか検証して今後に生かすためには、証言の一言一句を公文
書として記録、保管し、音声も録音する必要があった。開示された文書は「概
要」というタイトル通りに非常に簡素な内容で、男性教師が実際に何を話した
かが分からない。市教委の対応は情報公開の趣旨に反すると言わざるを得ない。

と語られているということです。

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7 コメント

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いつから (広江ぶー)
2011-08-22 22:42:44
杉浦先生
こんばんは。

この国は、いつから情報を隠蔽するようになってしまったのでしょうか?

先生がこの記事に記されている、大川小学校の子どもたちのことも然り、原発事故の当初の発表も然り、放射能汚染地域に至っては、今もって国の責任のもとでの「公式な」発表はありません。

私は、大阪に住んでいますが、先日、新聞の地方版に小さく「(大阪を流れる)淀川からも微量の放射性セシウムが検出された」という記事が載っていました。しかし、不思議なことに、他の新聞や雑誌、テレビではこのことに着いては一切報道されていません。

淀川は、大阪市の真中を流れています。そして遡れば、京都市内に至ります。

先日の大文字焼(京都・五山送り火)の騒動で、陸前高田の薪が、最初(陸前高田で測定した時)には、汚染が確認されなかった。しかし、2回目に京都で検査したら、汚染されていた。不可思議です。

これは、陸前高田は、まだ放射能に汚染されておらず、京都や大阪は、すでに汚染されてしまっている「証拠となる事案」なのではないかと私は思っています。

この国は、いつまで事実を隠蔽し続けるのでしょうか?果たしてこれが「戦後の民主主義」のあり方なのでしょうか?

今の国のあり方に対して、私は、「都合の悪い情報は流さない」「不利益な情報は消してしまう」という戦前の「大本営発表」と何らかわりはないと思ってしまいます。
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だれがただすのか ()
2011-08-23 13:24:42
広江ブーさん、コメントありがとうございます。震災直後から、テレビで一部のコメンテーターが、どんなに大変なことが起こっていても,事実を知らされれば日本の人々は立ち上がっていける。事実を知らされないことの不安の方が大きな問題だ、といっていました。
本当にそうです。だれも「だまし続けてほしかった(古ッ)」とはいっていません。

そもそも、隠していたのはなんのためだったの
というところが見え隠れ。これで黙っているのは、もう、私たちの方が悪いのかもしません。
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ここは一つ擁護意見を (鉄甲機)
2011-08-24 23:28:04
ご無沙汰してました。

>重大な事実にかかわる情報の重さに対する認識が欠けていたのではないか,とおもわれると同時に、学校の責任に及びそうな事柄について、故意に記録を残さなかったのではないか,とさえ思えます。

ちょっと市教委に対して厳しすぎるのではないかと。
市教委や県教委よりも文科省あたりに「何故人員を派遣して聞き取りをしなかった!」と文句を言うべきではないですか。
あの大災害の大混乱の中、現場の方々は山積する問題に必死で取り組んでおられたんです。「メモ」程度のものにどれだけ情報の重さがあるかを判断する余裕は無かったんじゃないですかね。
まとめられた概要より直後の生の証言の方が大切というのは同意しますが、「故意に記録を残さなかったのでは」という憶測はちょっと、ねぇ…

ところで、あの福島原発事故で最高責任者である首相がいつどこで何を言って何をしたか、議事録どころかメモすらないという事実については、どう思われますか。

>「検証する気がなかったのではないかと思ってしまう」という今回の津波被害のご遺族の言葉から、さらに「事実を隠ぺいしたかったのではないかと思ってしまう」という感想を持っています。

まあ、こういう感想も「意図的に発言することの取捨選択をするなど、操作の可能性も」ありますし。

>広江ぶーさま
>不思議なことに、他の新聞や雑誌、テレビではこのことに着いては一切報道されていません。

テレビでやってましたよ。大阪府も発表してます。
http://www.iph.pref.osaka.jp/news/vol44/news44_1.html
食の安全・安心

↑ここ見ると、放射性物質は福島原発よりもソ連中国の原爆実験の時の方がはるかにたくさん大阪に降り注いでいたというのがよくわかります。
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釜石の奇跡 (tk)
2011-09-22 19:48:02
岩波「世界」10月号 編集後記より

「大地震が起きたとき、学校にいた中学生たちは、まず校舎の上に上がるが、それでは十分ではないと判断、建物を降りて、避難所に向かって走り始めた。中学生が集団で走るのを見て、隣の小学生たちも一緒になって走った。
 
 第一次避難所に着くが、そこも崖崩れや津波の大きさに気づいた子どもたちは、そこも危険と判断、さらに高台に駆け上がり、難を逃れたという。
 
 8年にわたって釜石の防災教育に携わってきた群馬大学の片田敏孝教授が提唱する「避難の三原則」とは①ハザードマップを信じるな
②そのときできる最善を尽くせ
③率先して避難せよ ―である。
 
 つまり「想定」など信じてはいけない、大人や教師の指示など待たずに自ら判断し、即行動に移せ、ということである。」

 このような防災対策が大川小でも行われていたら、このような悲劇は避けられたのではと思
い、簡単ながら、引用しました。
 
 河北新報でも、今回の悲劇は避けられた可能性もあると指摘する記事が載っています。
 
 特に学校の校舎から歩いて数分の距離で、裏山に通じる山道があるというのですから、大津波警報が出ている状態で教員は何をしているのだとなるのも無理はないですし、普通、そんな状態になったら、裏山に逃げ込みますよね。
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tkさんへ ()
2011-09-23 00:28:46
こめんとありがとうございます。

「避難の三原則」とは
①ハザードマップを信じるな
②そのときできる最善を尽くせ
③率先して避難せよ ―である。

なるほど、と思います。
「率先して避難せよ」
は、だれよりも早く決断をして、一人ででも行動することですね。

これは、日本人にはとても苦手で、誰かが動かなければ、浸水した水があごの上まで来ていても、横並びで耐えてしまいそうです。
自分の判断でまず動くこと。
そのためには、物事の考え方から変えることが必要そうな気がします。

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クローズアップ現代 (tk)
2011-09-24 19:16:58
クローズアップ現代が取り上げていたんですね。
http://www.youtube.com/watch?v=BeFEamwOLXA

しいたけ栽培で、子供たちは裏山に行っていたと。でも高齢者はどうすると。これはやはり、市の避難計画の実効性も疑われますし、学校のみならず、震災までの市の対応にも問題があったかと思います。

ただ、不思議に思うのは子供たちは裏山に行けるのなら、高齢者も大人たちが背負うなり、なんなりして連れて行けるだろうと。

疑問だらけです。
ちなみにこういう件で、東京の弁護士さんは応援に行かないのですか?
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何でもやります (不良市民)
2011-10-11 08:30:41
市長も教育長も何でもやります。
道議とか道徳とかは行政には存在しません。権力の論理,権力を正当化する居直り,誠実などいうことは別世界のことです。責任追求の証拠になりそうなものは,市長・教育長の鶴の一声で廃棄,あたり前でしょう。内部を知らない者が,行政を美化してはいけない。最近こうなったのではなく昔からです。些細なことでもやります。雇用保険未納,偽装請負,埼玉県北本市では教育委員会がやっていたことです。条文には6月以下の懲役又は30万円以下の罰金と書かれています。いじめの隠蔽など当たり前のことです。監査委員がおおむね適正に処理されているとお墨付きを与えています。市民から選ばれるのですからどうしようもありません。
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