杉浦 ひとみの瞳

弁護士杉浦ひとみの視点から、出会った人やできごとについて、感じたままに。

・失った親力・地域力~個人情報保護法の過剰反応対策

2007-07-01 12:33:34 | Weblog
数年前に、長崎、佐世保で連年で、小学生が子どもや同級生を殺害するという事件が起こりました。
被害児童、被害者遺族はもちろんのこと、加害児、加害者側家族にとっても今後の成長を考えたときに、この出来事をどのように処理して行けばいいのか、大変大きな問題を含む事件でした。

このときに、年少の子にも厳罰をもって対処するという考え方がでてきました。
(現にこのことが引き金で少年法は、これまで14歳以上が少年院へ行くことになっていたのが、今国会で少年法が「改正」され、おおよそ12才で少年院へ行かせる、という厳罰化法が成立しました。)
「親に対しては市中引き回しの上、打ち首」というとんでもない鴻池発言があったのもこのときのことです。

当時、子どもが小学校に通っており、このような事態に地域が子どもを見守る(監視ではありません)ことで、子どもが地域で匿名化しない、つまり大人から見てどこの子かも分からないし、子どもからしても誰からも見られてないと思っていることで、無責任なことをすることを防ぎたい、あるいは問題を抱えたこどもが不健全な方法で訴えることのないようにしたい、地域の力を強めたいと思いました。
そのためには、少なくとも学校で顔を合わせる子どもと保護者が一致していれば、町であっても「子どもさん、あそこの書店で見たわよ」と親に声を掛けたり(あくまでも監視ではなく、挨拶として)、子どもさんにも「あなたのお母さんとこの間お話ししたのよ」なんて、声を掛けることもできる。そうすれば、知ってるおばさんだ、という親近感がわくのではないか。地域で自分のことを見守る目があると思い行動を自律するのではないか。

それには、まずときどき顔を会わせるのだけれど、名前とか子どもさんとのペアがうろ覚えの方をまず知れるようにしたい、何年も顔を合わせていると、今さら名前を聞けない、ということをなくしたいと思いました。
で、思いついたのが保護者名簿。「スナップ写真などを入れてつくったらどうでしょう」と保護者会で趣旨から提案してみました。
多くの方から「そういうのがほしかったの、お世話をかけてすみません。」と写真を届けたり、送ったりしてくださいました。

ところが、学校からストップが。
個人情報の保護について問題があるからやめてほしい。また、保護者に一斉に個人が連絡を出すこともいけないとストップがかかったのです。

この計画はダメになり、今も、なかなか子どもさんと保護者の方の一致ができずに、ほんのそこまで、声を掛けたりして親しくなれそうなのにそのままの、中途半端な方がたくさんいます。

たしかに、個人情報の保護が必要なことは分かっていますが、作れる連携、子どもを守る親力、地域力が、この個人情報保護の壁の下につくることができずにいることが本当に残念です。

プライバシーということについては、とても難しい問題があると思っています。それは、一旦開披しない(隠す?)ことを経験すると、それをもう一度開くのは大変になるということです。
今、個人情報保護法の過剰反応について対策を考えはじめているという報道を見ましたが、過ぎたるは及ばざるより害悪あり、というのが今の思いです。

<参考>
個人情報保護法:「過剰反応」対策促す 内閣府審議会
 個人情報保護法の見直しを議論してきた内閣府の国民生活審議会・個人情報保護部会(部会長、野村豊弘・学習院大大学院教授)は29日、災害時の緊急連絡簿の作成が困難になるなどいわゆる「過剰反応」対策を求めることなどを柱とした「個人情報保護に関する取りまとめ」を、高市早苗・内閣府特命担当相に提出した。高市担当相は、同日の関係省庁連絡会議で、過剰反応対策に万全を期すよう指示した。法改正については、「必要性を含めて検討する」との表現にとどまった。

 取りまとめは、過剰反応▽第三者提供の制限▽第三者機関の意義--など16項目について検討方向を提言。過剰反応については、「各種名簿の作成が中止されたり、民生委員や自主防災組織との要援護者情報の共有が進まない」と指摘。(1)法解釈や運用基準を明確化する(2)分野ごとのガイドラインや解説を必要に応じて見直し、周知徹底する--ことなどを求めた。

 欧州各国で採用している第三者機関の設置は「中長期的課題」としたほか、医療や金融・信用、情報通信分野など、より保護の必要性の高い分野への個別法制定も提言を見送った。不祥事を起こした企業や役所が「個人情報の保護」を理由に報道機関への情報提供を拒否するケースが相次いでいることに対しては、改善策を提言しなかった。

 一方、5月の取りまとめの原案では法改正については言及していなかった。このため、日本弁護士連合会が法改正を含む見直しを求める意見書を内閣府に提出するなど異論が出た。最終的に「法改正の必要性も含め、更なる措置を検討していく必要がある」と明記し、将来の法改正に含みを持たせた。同部会は全面施行(05年4月)後、3年をめどに見直しを求めた国会の付帯決議などに基づき検討していた。

 内閣府は、個人情報保護に関する質問を電話や電子メールで受け付ける専用窓口を設ける。

 【個人情報保護法】民間企業や団体が個人情報を悪用しないよう、有用性に配慮しながら、守るべきルールを定めた。目的外利用や、第三者への無断提供を禁止し、本人の求めに応じて、情報開示するなどの義務を規定した。憲法上の人権に配慮し、報道機関や政治団体などは適用が除外。05年4月に全面施行。

毎日新聞 2007年6月29日 13時48分

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5 コメント

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Unknown (志村建世)
2007-07-01 22:52:52
親子写真入りの名簿、あったらいいですね。それを不安の材料だと思う感覚の方が、おかしいと思います。
 それと、プロフィールの写真が、選挙用から、またもとの「ひとみさん」にもどりましたね。これは何となく安心材料です。
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プライバシーについて (海外在住者)
2007-07-03 14:14:21
きっこの日記からブラウズしてきました。
個人情報保護法というのは、その保護対象となる個人それぞれが、場所、時間、場合を限定して、プライバシーの公開を承諾することによって、特定的・限定的に運用できるようになっていないのでしょうか? 写真入の親子名簿が悪用される可能性は大きいですが、各個人がその可能性を認識した上で、効用の方が大きいと判断すれば、作ればよいのです。私が住んだことのある海外の国や地域では、ほとんどの場合、自発的に作られる名簿等につては、免責条項を作って、それにOK下人だけがリストに入るようになってました。そんな簡単なことができないのでしょうか?
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柔軟な対応 (杉浦ひとみ)
2007-07-04 16:41:16
柔軟な対応ができにくい国民性だということを織り込んで、法律を作らないと目的以外の効果も出てしまいます。

諸外国のようにできたらいいのですけど。
ただ、その時には、もっと名簿を作成することにつて議論ができないといけませんよね。名簿をつくる以前の保護者の会話の機会を持つ努力が不足なのかも知れません。
たしかにそうでした。
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過剰反応かな? (ken)
2007-07-08 09:49:53
 マスコミで「過剰反応だ」とキャンペーンを張っていますが、はたしてそうでしょうか。マスコミが取材をしにくくなったということで反撃しているということなのでしょう。
 マスコミがこれまで個人情報に無頓着すぎたのではないでしょうか。たとえば犯罪報道。犯罪容疑者は取り調べを受け、検察に送られ、起訴され、裁判の末判決が言い渡されます。この間に冤罪を防ぐしくみがあります。ところが、マスコミはこの手続きを飛ばして一方的に犯人と断定的に報道する、また、適切な量刑なんて関係なく、数万円の罰金程度の罪でも報道によって厳罰に処してします。

 個人情報の悪用に甘すぎるのも問題だと思います。学校で名簿を作ると漏洩問題が起こります。市役所だ警察だ写真屋だPTAだなどというウソに簡単に騙されて、アルバムや名簿を提供してしまう馬鹿な子どもがいます。むしろ大人の家族の方が騙されやすかったりします。名簿を高く買い取る業者があってそこに売る子どもの姿がテレビで紹介されていました。こういう名簿提供や取得の取り締まりがありません。
 迷惑電話も後を絶ちません。仕事を中断されたり、家族団らんを中断するこういう悪質業者を取り締まるべきです。
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子どもによる悪用 (ken)
2007-07-08 10:03:12
 少年犯罪の厳罰化の是非という問題がありましたが、インターネットを使った犯罪については、子どもであっても被害は大きなものがあります。厳しく取り締まる必要があるのではないでしょうか。
 大きいのが個人情報の流出。最近はブログだのプロフなどというのを小学生でも使い始めています。携帯電話も、小学生が持っていて、携帯電話でインターネットの掲示板などにアクセスできます。
 こういったしくみを利用して、個人情報を流してしまうという問題が多発しています。他の犯罪だと小学生のやれることなどたいしたことはないかもしれませんが、住所や電話番号などをインターネットに流せばたちまち全世界に伝わってしまうことになります。
 今の世の中、安易に名簿など配るのは考え物です。特に考えのない小学生のいる家庭に学校の児童名簿などを置いておくのは危険です。友達同士ならお互いに教え合うとか、情報が流れる先を制限する必要があると思います。いじめられている子どもなら、当然、加害者に住所や電話を知られたくないでしょう。
 他人の個人情報を本人に無断で教えてはいけない、ということは、小学生のうちからよく教えておく必要があります。
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