特撮の神様、故・円谷英二監督は、アメリカの特撮映画『キングコング』の大ファンだったそうです。
1933年(昭和8年)公開のオリジナル版『キングコング』のフィルムを取り寄せ、一コマ一コマ確認しながら、どのような撮影方法で撮られたのかを検証したそうです。
ゴジラ制作の際には、初めはキングコングのように、人形アニメーションで撮ることを検討していたようですが、時間と経費が掛かりすぎるということで、やむなく着ぐるみとなった。しかしこれが、結果的に日本の着ぐるみ特撮の伝統として息づいていくわけですから、面白いものです。
昭和37年(1962)、キングコングの版権を持つアメリカのRKO社より、キングコングのキャラクターを
5年間使用する許可を得た東宝は、同年、映画『キングコング対ゴジラ』を制作、そして期限が切れる昭和42年に制作されたのが、こちらの作品というわけです。
円谷監督のキングコング「愛」に満ちた映画と言いましょうか、オリジナル版へのオマージュを織り込みながら、しっかりと「日本」の特撮映画に仕上がっています。
ストーリーは、国連の潜水艦エクスプロアー号に乗って、海底油田の調査に向かった、ネルソン(ローズ・リーズン)、野村(宝田明)、スーザン(リンダ・ミラー)ら一行が、南洋の島モンド島でキングコングに遭遇。
一方、某国の女スパイ、マダム・ピラニア(浜美枝)は、世界的犯罪者にして科学者のドクター・フー(天本英世)と手を組み、北極にて核兵器製造用物質≪エレメントX≫を採取しようと目論みます。
ドクター・フーはキングコングをモデルにしたロボット≪メカニコング≫を作成、エレメントX採掘を試みますが失敗。ならばと、本物のコングに催眠術をかけて採掘させようと、コングを拉致するのです……。
こうしてコングとエレメントXを廻る、善と悪との一大攻防戦が始まるわけです。
ストーリーの粗を探そうと思えば、いくらでも探せますが、そんなことは大したことじゃありません。もうね、ミニチュアセットの作りこみ方が素晴らしくて、ため息が出てしまいます。当時のミニチュア&着ぐるみ特撮の映像としては、最高峰の出来ではないかと思いますねえ。
合成も素晴らしいし、こんな素敵な映像見せられたら、それだけで私はもう、満足ですわ(笑)。
CGは否定しませんし、現代の映画はやはりCGを無視するわけにはいかないだろう、と思います。
しかし、かつてこのような「職人技」をもって、素晴らしい映像を作る方たちがいたのだ、ということを、私は忘れたくない。
クライマックスは東京が舞台で、キングコングとメカニコングが戦うわけですが、この2頭が東京タワーを登っていくんです。
この東京タワー。鉄骨を組んで、実際に人が登れるくらいの大きさのミニチュアを作っての撮影でした。
私、幼少のころにこの映画を、映画館で観てるんですよね。この東京タワーを登っていくシーンは強烈に印象に残っています。
特にラスト。メカニコングが東京タワーから真っ逆さまに落ちていく。あちこちぶつかって、バラバラになりながら落下していくシーンは、子供の頃は本当に怖かったのを憶えています。
そんな思い出も蘇りつつ、出演者の中ではやはり、天本英世さんが一歩抜きんでていますね。
よくわからない役なのですが、とにかく悪いやつであることは間違いないということで、徹底的に悪に特化した演技が実に良い。国籍不明の風貌も相まって、実に憎々しげに悪を怪演しています。素晴らしい!
映画の前半でコングと戦う怪獣、ゴロザウルスの着ぐるみの出来がこれまた素晴らしい!よく出来とる!もうね、当時最高峰のオンパレードですわ(笑)。もうたまらん!
かつての日本の特撮映画がいかに「美しかった」かを知るに、そう、「美しさ」です。その「美しさ」を知るには最良の映画だと思います。
私、この映画大好きです。
良いっすよ、これ。
『キングコングの逆襲』
制作 田中友幸
脚本 馬渕薫
音楽 伊福部昭
テクニカル・アドバイザー アーサー・ランキン
特技監督 円谷英二
監督 本多猪四郎
出演
宝田明
ローズ・リーズン(声・田口計)
リンダ・ミラー(声・山東昭子)
田島義文
堺佐千夫
沢村いき雄
桐野洋雄
広瀬正一
鈴木和夫
伊吹徹
黒部進
浜美枝
中島春雄
関田裕
天本英世
昭和42年 東宝映画