大前研一のニュースのポイント

世界的な経営コンサルティング 大前研一氏が日本と世界のニュースを解説します。

所得の増加を目指すという目標は経済人の役目ではなく、政治家の役目

2008年01月15日 | ニュースの視点
1日、日本経団連は、2008年の年頭所感を発表した。

それによると、「現状の閉塞(へいそく)感を打ち破り、躍動する日本経済を築いていくことが必要」として、今後10年以内に世界最高の所得水準の達成を目指すよう政府に求めたという。

正直、この発表を経団連会長の御手洗氏が発表したということに、私は呆れてしまった。

なぜなら、「所得を世界最高水準にする」という方向性そのものが、経済人・財界人の立場から目指すべきではないと思うからだ。

所得の増加を上回る生産性の向上を目指すという目標なら経済人・財界人として、至極当然のことだが、生産性に触れず所得の増加だけ目指す、という目標は私にはまったく理解できない。

「所得増加」というのは、政治家が目指すべきことであり、経済人が目指すものではない。

そもそも主要国の1人あたり国民総所得の比較を見ても、日本は他の主要国に比べて、それほどひどい数字ではない。

所得水準に焦点をあてること自体、経済的な観点からすると的を外していると言えるだろう。

さらに、00年~07年の企業の利益・設備投資額と給与額の推移を見ると、非常に面白い事実が見えてくる。

経団連は、口では「所得増加」と言うが、現実の経営の数字では経常利益も伸び、設備投資も膨らんできているのに、給与額は下落してきているのだ。

これが現実の経営の結果だ。もちろん、御手洗氏が会長を務めるキヤノンにしても状況は変わらないだろう。

御手洗氏は、キヤノンの会長として、一人の経営者として、非常に優秀な人だと思う。

ところが、優秀な経営者であっても、不思議と経団連会長という立場になると、魔が差したとしか思えないような発言をすることがある。

残念なことに、御手洗氏をもってしても同じ状況になってしまったようだ。

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