安倍首相は18日、政府の産業競争力会議で今後の農業政策について
「成長分野と位置づけ、産業として伸ばす。農業の構造改革を加速し、
農産品、食品の輸出を拡大する」との考えを示した。
また同時に「『日本の農業は弱い』という思い込みを変えていくことが重要だ」と指摘したとのことだが、私は理解に苦しむ。
産業競争力会議のメンバーには、竹中氏などもいるはずなのに、なぜこのようなことになってしまったのだろうか。
日本の農業を成長分野と位置づけて、あまつさえ輸出で1兆円規模を目指すなど、まず不可能だ。
主要国の平均経営農地面積を比較して見ると以下のようになっていて、日本の農業に国際競争力が
ないことは一目瞭然だ。
米国:178.6、イギリス:55.6、フランス:48.6、ドイツ:43.7
北海道:18.7、日本全国:1.8(単位:ヘクタール)
北海道でも米国の10分の1に過ぎないし、それ以外の地域は箸にも棒にもかからないレベルだ。
世界的に見れば、オーストラリアの方が米国よりも、さらに広い農地面積を有している。
この現状で農業によって世界と戦おうなど、「井の中の蛙」の中でも相当レベルが低いと言わざるを得ない。
また日本の農業について考えるとき、次の2点が重要だと私は思う。
まず1つは、農作物は工業用品よりも嗜好品に近い感覚で捉えるべきだということだ。
市場が開放されたからと言って、必ずしも価格が安ければ受け入れられるわけではない。
日本でも、ピーナッツやさくらんぼの市場が開放されたが、今でも
千葉県のピーナッツ、山形県のさくらんぼの方が海外から輸入したもの
よりも高値で売れており、見事に生き残っている。
つまり、国際競争力とは関係なく、ニッチなニーズが存在するという事実を認識すべきだと思う。
2点目は、日本では耕作放棄地も耕作放棄地面積率も共に増加し続けているということだ。
特にこの十数年間で、耕作放棄地に占める自給的農家と土地持ち非農家の割合がぐっと増えている。
ウルグアイ・ラウンドの後、莫大な資金を投じて農耕地の拡大を図ったのに、結局は耕作放棄地に成り下がり、日本農業の弱体化は進む一方だ。
日本の農業従事者の平均年齢は65歳を超えているから、頑張れと言っても体力的にも難しいだろう。
このような現状を踏まえて、「農業で国際競争力を持って成長分野と位置づける」など信じられない話だ。
もしかすると、この話題そのものが何かのためのフェイクなのかも知れないが、それにしても「筋が悪い」話だと私は感じる。
日米両政府は22日、環太平洋経済連携協定(TPP)についての共同声明を発表した。
「あらかじめ、一方的に全ての関税撤廃を約束するよう求められるものではない」としており、安倍首相は交渉への日本への参加について、「なるべく早い段階で決断したい」と意欲を示した。
TPPで米国が市場開放を求めて狙ってくるのは、農業に加えて、郵政(特に簡保)の利益だと思う。
TPPによる「例外なき貿易自由化」の危険性を訴える人がいるが、実際にはどこの国でもあり得ない。
米国にしてみても「悩みの種」はあるのだ。
米国の場合、それはGMとフォードだ。
両社ともピックアップ・トラックの業績が好調だが、日本のピックアップ・トラックにのみ25%の関税をかけている。
もしTPPによって、この関税が撤廃されれば、せっかく回復しつつあるGMもフォードも危ういかも知れない。
特にフォードはかなり危険だと思う。
ですから、全てをテーブルの上において議論したとしても、
米国にも「これは例外にしてほしい」というものはあるはずだから、
極端に恐れる必要はないのだ。
日本の場合、農業団体が騒ぎを大きくしている節がある。
これは、おそらく補助金狙いだろう。
すでに補助金漬けの日本の農業が、さらに補助金をとるために騒動を起こしているというのが実態だと私は見ている。
米国側の事情も分かっているので、安倍首相としてはTPPへの参加を決断できると思う。
党内の手続きは少々面倒になることが予想される。
おそらく、参議院選挙の直前まで引き伸ばして6月くらいが最終的な目安になるだろう。