荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』 イ・スジン

2015-10-28 01:06:34 | 映画
 東京国際映画祭の真っ最中ながら、今年初めにヒューマントラストシネマ渋谷で開催された〈未体験ゾーンの映画たち2015〉の中から、韓国の2013年作品『ハン・ゴンジュ 17歳の涙』をレンタルで見る。〈未体験ゾーンの映画たち〉はようするにオクラになりそうな(またはなってしまった)配給作品を業者が叩き売りする市のようなもので、その後は「劇場公開作」の身分でDVD/BDがリリースされるしくみのようである。アベル・フェラーラ『ハニートラップ』やマイケル・ウィンターボトム『ミスター・スキャンダル』など有名監督の新作も含まれ、洋画不振を象徴すると共に、ニッチに目配せされた好企画とも言えるだろう。
 私がこの新人監督作を見ようと思い立ったのは、「カイエ・デュ・シネマ」誌のヴァンサン・マローザが先月、パリの劇場「ステュディオ・ギャランド」でプレゼン講演をしたとのことで、がぜん興味が湧いたのである。なんともみっともない、虎の威を借る鑑賞動機であって、その点は恐縮せざるを得ない。
 しかし、作品じたいはじつに素晴らしかった。濁りのない語り、残酷な心理描写、画面からあふれる若さと悲しみ。中学時代に起きた事件をきっかけに、主人公の女子高生ハン・ドンジュの生活はめちゃくちゃとなり、両親の離婚、夜逃げ同然の転校、終わらない裁判、加害者である男子生徒グループの親からの逆恨みなど、不幸のスパイラルにさいなまれ続ける。救いのない絶望のさなか、放課後の音楽室における彼女のギター弾き語りの、いまにもこわれそうな、かすれきった微動のような、しかし聴く者を強くゆさぶる歌声を、涙なくして聴けまい。主人公少女を演じたチョン・ウヒはすこし本田翼に似ている。
 映画の前半と終盤で、ソウルの真ん中を東西に流れる漢江を電車で横断するカットが出てくる。ソウルの人々は漢江を愛していると思うが、私の個人的な好みで言うと、都市河川としては漢江はすこしばかり巨大過ぎる気がする。まるで海峡である。テムズ川、セーヌ川、隅田川、京都の鴨川くらいのサイズが最も好きである。ドブ一歩手前と言っていい神田川(東京)、道頓堀川(大坂)、清渓川(ソウル ただし現在は親水公園として整備されている)の小河川も捨てがたい。だが、海峡のように凶暴な水がパックリと口を開けている本作の漢江は、『グエムル』以上の怖さをもっていた。


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