荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『GF*BF』 楊雅(ヤン・ヤーチェ)

2014-07-04 06:33:35 | 映画
 台湾映画の新作『GF*BF』を見ようとして、劇場の切符売り場で思わず口ごもってしまった。係員も心得たもので、すぐさま「『GF*BF』でございますね」と助け舟を出してくれたから、このタイトルを失念する客、どう読んでいいか途方に暮れる客は少なくないのであろう。中国語の原題は『女朋友。男朋友』なので、“邦題にも台湾映画らしい風情が欲しかったなあ、いま思えば『恋恋風塵』とか『恐怖份子』とか『山中伝奇』とかああいうタイトルは洒落ていて良かったなあ” などとお節介なことをいろいろと考えめぐらせた。どうやら普通に「ジーエフ、ビーエフ」と読めばよいらしいこの味も素っ気もない記号のような邦題は、IMDbを参照すると正式なインターナショナル・タイトルらしい。
 映画の中味は、男子2人(張孝全、鳳小岳)と女子1人(桂綸鎂)による三角関係を編年体の長いスパンで描きこんだラブロマンスである。ただ画面はしっとりとメロウなのに、BGMに当時流行したと思われる若者向けのアップテンポな台湾ポップスが無造作にがんがんかかるので、画面と音響がやや遊離した感が否めない。作り手側はその遊離感も味という気でやっているのだろうが。
 映画は4部構成をとっている。まず1985年夏、戒厳令下の高雄。この南部の町で3人はまだ高校生である。彼らの三角関係が始まる。ちょうどこの時代は楊徳昌や侯孝賢といった台湾ニューウェイヴの映画が日本に紹介されはじめたころで、その時代の青春映画を思い出しながら画面を眺めることができる。そして1990年春、台北。大学生となった彼らは民主化運動に励んでいる。三角関係の核心は、張孝全の思いを寄せる相手が桂綸鎂ではなく鳳小岳であること──つまり日本風にいえば「おこげ」の物語だという点なのだが、この問題は冒頭から最後まで彼らを縛り続けるのである。1997年台北。彼らは社会人となっているが、行き詰まりを見せる。三人の関係もここでは詳述しないが終焉を迎える。そして現在──という編年体の構成である。
 楊雅(ヤン・ヤーチェ)監督は、楊徳昌や侯孝賢のような映画史を揺るがすタレントではもちろんない。でも、民主化運動をからめた青春映画としてはじつによくできていると思う。台北の中正紀念堂を使って民主化要求学生デモのシーンがロケされているが、蒋介石を追悼したこの施設でよく撮影許可が下りたものだ。台湾本国でひょっとすると本作は、官民挙げてとり組んだ注目作品という位置づけなのかもしれない。とくにすぐれた人物が登場するわけではないが、彼らなりに生き、彼らなりに輝いている。そして、私はどうやらこういう編年体のラブストリーリーに弱いらしい。吉田喜重『秋津温泉』(1962)とマックス・オフュルス『忘れじの面影』(1948)の2つが、わが落涙必至2部作なのだが、ようするに私はだらしのないセンチメンタリストということだろう。だから当然、今回の『GF*BF』への点も甘くなる。


シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
http://www.pm-movie.com/gfbf/


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