荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『サントス ~美しきブラジリアン・サッカー』 リナ・シャミエ

2013-08-05 00:18:18 | サッカー
 『ジンガ ブラジリアンフットボールの魅力』(プチグラパブリッシング刊)の著者・竹澤哲さんからお誘いを受け、ブラジル大使館でおこなわれた、リナ・シャミエ監督『サントス ~美しきブラジリアン・サッカー』の試写へ出かけた。
 サンパウロ州の港湾都市サントスに本拠地を置くサントスFCの履歴をたどるドキュメンタリーで、クラブのレジェンドが、(1)ペレ、ペッピ(ペペ)の時代(1950’s~1970’s)、(2)暗黒の時代(1970’s~1980’s)、(3)ジオヴァンニの時代(1990’s)、(4)ロビーニョとジエゴの時代(2000's)、そして(5)ネイマールの時代(2000's~今夏)と区分されて語られていく。おもしろいのはサントス市内のサポーターよりもサンパウロ市内の無名人・著名人のサポーターにスポットを当てていること。サンパウロ市内から60kmしか離れていないサントスだが、高速道路はクネクネとした下り坂を下りていき、なかなか到着しない。だからサントス・ファンには特別な魂が宿っているのだと言わんばかり。「純白のユニフォームはモノクロの中継で見るとよけいに白く見え、黒人選手をより黒く映えさせた」というオールドファンの言葉。
 ペレがなかなか蹴らないPKを決めて通算1000ゴールを達成し、試合途中なのにマスコミがピッチになだれ込み、感極まってプレー続行不能となったペレを撮影し、そのまま試合が再開されたのかさえ不明となってしまう、素晴らしくエモーショナルなシーンを見ることができた。ペレが試合中に突如としてセンターサークルで両手を広げて神に祈りはじめ、スタンドのファンたちがすべてを理解して号泣する(引退の瞬間を目撃したという)証言など、伝説がたくさん詰まっている。
 本作がドキュメンタリーとして秀逸かどうか、それは正直なところわからない。ただ、名シーンの目白押しであることはまちがいない。しかも、これを作ったのがリナ・シャミエという女性監督という点が、なお素晴らしい。わが少なからぬサッカー取材経験、中継経験から言わせてもらうなら、イングランドやドイツといった北の諸国においては、サッカーはもっぱら男たちだけの娯楽で、女性はそれを冷ややかに眺める傾向がたしかにある。ところが、スペインやブラジルといった鉄板の上で油がはねているような国では、屈託なき少女たちが、美しいレディたちが、たくましい年増女たちが、老人ホーム住まいのヨボヨボな老婆たちがスタジアムに来てフッボル(フチボウ)を祝祭的に、または単に午後のおやつのように思い思いに楽しんでいる。
 本作を、私はオーソン・ウェルズの『イッツ・オール・トゥルー』(1941-1993)のリールの尻に繋げて見てみたい。


10~11月に東京・福岡・金沢・大阪・浜松・京都で開催の〈ブラジル映画祭2013〉で上映予定
http://www.cinemabrasil.info


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