荻野洋一 映画等覚書ブログ

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『がめつい奴』 千葉泰樹

2012-01-24 13:02:12 | 映画
 大阪・釜ヶ崎でドヤをいとなむ強欲な婆さん(三益愛子)を中心に、吹きだまりの人間模様を、千葉泰樹がドロドロと油っこく撮った『がめつい奴』(1960)。その後は同名のテレビドラマも放送されたから、子どもの頃からこのタイトルだけは知っていて、訳もわからず大阪という街にあこがれを持っていた思い出について、以前にも拙ブログには書いたことがあったけれども、さすがにここまで辛気くさいドラマとなると、子どもに興味を持てというのは無理である。
 そして今回、ついに現物を見る機会を得たのだが、これがすこぶる面白い。「がめつい」という、現在でもよく使われる形容詞は、本作の原作戯曲を書いた東宝取締役の菊田一夫の造語で、それ以前には関西にもなかった形容詞だというから、社会的影響を大いにもたらした作品ではある。それにしても、関東の地でぬくぬくと暮らす輩が、かえってこんなのを好んで見る傾向があるのは、昔から変わらなかろうという自覚くらいは私にもある。

 原作戯曲が菊田一夫指揮下の芸術座(東京・日比谷 現在のシアタークリエ)で初演され、ロングランしたのは1959年から。名手・千葉泰樹が舞台版と同じ三益愛子を使った映画化は翌1960年であるから、松竹ヌーベルバーグ版『がめつい奴』とも言うべき大島渚の『太陽の墓場』と同時期の作品ということになる。
 ちょっと検索してみると、『太陽の墓場』が8月9日に松竹系で公開、『がめつい奴』がこれに遅れることわずか1ヶ月、9月18日東宝系で公開とある。こういうタイミングは、偶然ではないのだろう。当時の観客はこういうドヤ街を扱った作品を、現代人がホーンテッドマンションに入場するのと同じような怖いもの見たさで、そのどぎつく不衛生な人間模様を、おやつを食べながら楽しんだのにちがいない。

 森雅之の演技が楽しい。かつて釜ヶ崎一帯を所有した一族の元令嬢で今はホルモン焼の屋台引きに身をやつした女(草笛光子)の体を奪った上に、言葉たくみに女から土地の権利書まで巻き上げる強欲なポンコツ屋を、嬉々として演じていた。田中眞澄ほか編『映畫読本 森雅之』(フィルムアート社)に1枚も本作のスチールが載っていないのが残念である。なお、本書の年譜にしたがえば、この年の森雅之は、成瀬巳喜男2本『女が階段を上る時』『娘・妻・母』の後にこの『がめつい奴』、それから黒澤明『悪い奴ほどよく眠る』、市川崑『おとうと』と続く。スタジオ・システム最後の輝きが、森雅之の華奢な肉体を透過して浮かび上がるかのようだ。


神保町シアター(東京・神田神保町)の特集《川口家の人々》で上映
http://www.shogakukan.co.jp/jinbocho-theater/


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1 コメント

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泥んこ (PineWood)
2016-04-20 07:33:23
その三益愛子婆の金歯のドギツサ…。ポンコツ商で裏ぶれながらもギラギラしているプレイボーイ駄目男の森雅之…。泥んこの掃き溜めの中でにドッコイ生きている人びとの群像劇ー。黒澤明監督作品みたいな灰汁の強いバイタリテイとドタバタ喜劇が共存しながら、ドラマは思い詰めた草笛光子の放つある悲喜劇へと突き進んで行く…。悪夢から目覚めて人間らしさを回復するように…。詩情あるラストへ向かって♪
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