「アナタは社交ダンスやってた?」
唐突に、そう聞かれた。
相手はキヨハル。
何かとダダをこねる、97歳のじいさんだ。
社交ダンスなんかやったことないと答えると
彼は妙なことを言うではないか。
「そうなの? 戦後あんない流行ったじゃない?」
戦後? は? 戦後?
あのねえ、キヨハルさん、私そのころまだ生まれてないから。
するとヤツはなぜか驚く。
「え---???」
マ、マジに私がそんな歳だと思っていたのか?
失礼極まりない。
私もたいがいイイ歳だが、そこまで老けてはいないはずだ。
本気で怒ると、ヤツはなんだか合点のいかない表情で言った。
「そっかあ。ここのヘルパーさんたちはみんな
ボクより年上だと思ってたんだけど…」
そういえばキヨハルが入居したばかりの頃
「アナタは戦時中どこにいらしたの?」
と、聞かれたことがある。
ヤツはあの頃から本気で
私たち職員のことを“面倒見てくれる優しいお姉さんたち”と
思っていたのかもしれない。
どうりで…と、得心した。
キヨハルの言葉はやたら子どもじみている。
「どーしてそんなこと言うんだよぉ」
「ちゃんと教えてくれなきゃわかんないよぉ」
「やだやだ。薬なんか飲みたくないよぉ」
大手企業の役員を勤め上げたという経歴にそぐわない
ちょっと気味の悪い赤ちゃん言葉。
それをずっと、不思議に思っていた。
そうか、幼児退行か!?
しかし、そうは納得しても
97歳のじいさんから年上だと思われていたことは
どうにも承服しがたいのである。
唐突に、そう聞かれた。
相手はキヨハル。
何かとダダをこねる、97歳のじいさんだ。
社交ダンスなんかやったことないと答えると
彼は妙なことを言うではないか。
「そうなの? 戦後あんない流行ったじゃない?」
戦後? は? 戦後?
あのねえ、キヨハルさん、私そのころまだ生まれてないから。
するとヤツはなぜか驚く。
「え---???」
マ、マジに私がそんな歳だと思っていたのか?
失礼極まりない。
私もたいがいイイ歳だが、そこまで老けてはいないはずだ。
本気で怒ると、ヤツはなんだか合点のいかない表情で言った。
「そっかあ。ここのヘルパーさんたちはみんな
ボクより年上だと思ってたんだけど…」
そういえばキヨハルが入居したばかりの頃
「アナタは戦時中どこにいらしたの?」
と、聞かれたことがある。
ヤツはあの頃から本気で
私たち職員のことを“面倒見てくれる優しいお姉さんたち”と
思っていたのかもしれない。
どうりで…と、得心した。
キヨハルの言葉はやたら子どもじみている。
「どーしてそんなこと言うんだよぉ」
「ちゃんと教えてくれなきゃわかんないよぉ」
「やだやだ。薬なんか飲みたくないよぉ」
大手企業の役員を勤め上げたという経歴にそぐわない
ちょっと気味の悪い赤ちゃん言葉。
それをずっと、不思議に思っていた。
そうか、幼児退行か!?
しかし、そうは納得しても
97歳のじいさんから年上だと思われていたことは
どうにも承服しがたいのである。