「パパ、栄養つけなきゃダメ!」
「ほら、これも食べなさい、あれも食べなさい!」
「わがまま言わずに食べなさ~い!」
自称・栄養士の資格を持つケイコは
夫であるハルオの御飯茶碗に
自分のおかずをポンポンポンポン投げ入れる。
その行為は、かねてから周囲の顰蹙(ひんしゅく)を買っていたし
何よりもハルオの悩みの種でもあった。
「いらねえっていうのに、ばあさんが寄こすんだ」
「アイツもボケてきて困ったもんだ。本当にすんません」
弱り果て、職員に謝りながらも
致し方なくケイコが投げ入れてくるおかずを平らげ
超ビッグな爺に成長していったハルオ。
そのハルオがついに爆発した。
「食べなさい」
「いいや、いらない」
「栄養失調になるわよ」
「いいや、栄養過多だ」
そんな問答を繰り広げているうちにヒートアップし
二人のケンカは食堂中に不穏な空気を漂わせ始めた。
やばい!
どうすればいい?
そんなことが2、3日続き
私たち職員は検討の結果、二人を別々の席に座らせることにした。
しばらく二人に冷却期間を持たせようという判断だ。
同じ食堂内の端と端に座ってご飯を食べるハルオとケイコ。
理由を説明され、納得しているハルオは
おかずを投げ入れる女房がいないことで
のんびりと自分のペースで食事をしているが
ケイコはそうはいかない。
最初の数日間は「ご主人は足が痛いのでお部屋でお食事しています」
という説明に納得していたが
それはおかしいと、だんだん気づく。
そして、きのうだ。
目の前に夫のいない食事のテーブルで
食事にまったく手をつけようとしないケイコ。
どうしたの、ケイコさん?
ワケを聞くと、彼女が神妙な面持ちで言った。
「ご相談したいことがあるんです」
なあに?
「主人、誘拐されたようなんです」
は? ゆーかい!?
「はい。この目で見たんです。犯人はここの女性でした」
ゆーかいってことは、ケイコさん、身代金でも要求されたの?
「いいえ、女性の目的はお金ではなく…主人の身体のようです」
ってことは、誘拐ではなく、誘惑、されたんですね?
「あ、そ、そうそう、誘惑です」
でもケイコさん、ハルオさんはそんな人ではないと思うけど・・・
「だから、あの女がいけないんです! もう離婚です!!!」
激しく口論する夫婦仲をなんとかしようと
しばし食堂の席を離しただけのはすが
まさか、夫の浮気問題に発展するとは思いもよらず・・・
レビー小体型認知症のケイコ
彼女の妄想は介護職員の知識と理解を
超スピードで駆け抜けてゆく。
「ほら、これも食べなさい、あれも食べなさい!」
「わがまま言わずに食べなさ~い!」
自称・栄養士の資格を持つケイコは
夫であるハルオの御飯茶碗に
自分のおかずをポンポンポンポン投げ入れる。
その行為は、かねてから周囲の顰蹙(ひんしゅく)を買っていたし
何よりもハルオの悩みの種でもあった。
「いらねえっていうのに、ばあさんが寄こすんだ」
「アイツもボケてきて困ったもんだ。本当にすんません」
弱り果て、職員に謝りながらも
致し方なくケイコが投げ入れてくるおかずを平らげ
超ビッグな爺に成長していったハルオ。
そのハルオがついに爆発した。
「食べなさい」
「いいや、いらない」
「栄養失調になるわよ」
「いいや、栄養過多だ」
そんな問答を繰り広げているうちにヒートアップし
二人のケンカは食堂中に不穏な空気を漂わせ始めた。
やばい!
どうすればいい?
そんなことが2、3日続き
私たち職員は検討の結果、二人を別々の席に座らせることにした。
しばらく二人に冷却期間を持たせようという判断だ。
同じ食堂内の端と端に座ってご飯を食べるハルオとケイコ。
理由を説明され、納得しているハルオは
おかずを投げ入れる女房がいないことで
のんびりと自分のペースで食事をしているが
ケイコはそうはいかない。
最初の数日間は「ご主人は足が痛いのでお部屋でお食事しています」
という説明に納得していたが
それはおかしいと、だんだん気づく。
そして、きのうだ。
目の前に夫のいない食事のテーブルで
食事にまったく手をつけようとしないケイコ。
どうしたの、ケイコさん?
ワケを聞くと、彼女が神妙な面持ちで言った。
「ご相談したいことがあるんです」
なあに?
「主人、誘拐されたようなんです」
は? ゆーかい!?
「はい。この目で見たんです。犯人はここの女性でした」
ゆーかいってことは、ケイコさん、身代金でも要求されたの?
「いいえ、女性の目的はお金ではなく…主人の身体のようです」
ってことは、誘拐ではなく、誘惑、されたんですね?
「あ、そ、そうそう、誘惑です」
でもケイコさん、ハルオさんはそんな人ではないと思うけど・・・
「だから、あの女がいけないんです! もう離婚です!!!」
激しく口論する夫婦仲をなんとかしようと
しばし食堂の席を離しただけのはすが
まさか、夫の浮気問題に発展するとは思いもよらず・・・
レビー小体型認知症のケイコ
彼女の妄想は介護職員の知識と理解を
超スピードで駆け抜けてゆく。