どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

掃除夫とカディ・・トルコ

2024年01月10日 | 昔話(中近東)

        新編世界むかし話集⑦/インド・中近東編/山室静・編著/文元社/2004年

 

 昔、田舎に妻とこどもをのこし、イスタンブールで掃除夫をしていた男は、いくらかのお金を儲けたら、家に帰ろうと思っていました。つつましい生活をし、日々の暮らしにわずかなお金を使うほかは、もうけたお金は残らず蓄えました。五、六年たつと何とか五百枚の銀貨を残すことができました。ところが、だれか悪い人間にその金を盗まれないか心配になりました。

 さて、この町のカディ<裁判官>は評判がよく、ぜったいに信用できる人と、彼にはうつりました。そこで彼はカディのところへ出かけ、「なにかの不幸で蓄えが失われはしないかと心配でたまりませんので、故郷の村へ帰るまでの間、あずかってほしい」といいました。カディは、家族のもとへ帰る時が来るまで、安全に保管しておいてあげようと約束します。

 それから二、三か月して、同じ故郷からでてきた知り合いから、一緒に帰らないかと誘われました。掃除夫は、もうすこし金をこしらえようとしますが、そうすると一人で旅することになって、仲間がいるほうがこころ強いと思い、あと二年も町に残ることはないように思え、友だちと一緒に故郷へ帰ることにしました。そこで掃除夫は、さっそくカディのところへでかけ、あずけた銀貨を返してくれるよう話しました。するとカディは、たけり狂ってどなり、「おまえのいう銀貨とは、いったい何のことだ」「ほうりだされんうちにとっととでていけ!」といいだします。ようは、ねこばばするつもり。

 裁判官相手に、だれが掃除夫の訴えをきいてくれるでしょう。彼はもういちどさいしょからやりなおすことにしますが、いくら働いても心がなぐさめられません。深いため息をつき、ときに涙をながしていました。

 ある日、彼が裕福な商人の家のごみをあつめていたとき、ふとその家の奥さんが目をとめました。奥さんは、男の全身にあらわれている深い悲しみと絶望に同情し、彼にその理由をたずねました。そして掃除夫の話を聞くと、一つの計略を立てました。

 奥さんは掃除夫に、これこれの時間にカディのところへ行って、前のことは知らないふりをして、まるではじめて要求するように、お金を返してくれるようにといいます。つぎの日、奥さんは、高価な宝石類をいれたバックをもってカディのところへいき、「私の夫はしばらく前からエジプトへ商用でいっておりますが、仕事が長引いているので、私にもこいというのでございます。私も行くつもりですが、気になるのは、この宝石類で、危険な長い旅に持っていくのも心配です。それで、留守の間、誠実なあなたに、この宝石類をあずかってくださいませんか」と、いいました。そのとき、掃除夫がはいってきて、「あなたさまがあずかってくれた銀貨五百枚をかえしてほしい」というと、目の前の高価な宝石に心をうばわれていたカディは、すぐに、秘書をよんで、掃除夫に金を渡すよう命じました。

 カディが、「掃除夫が受取証も証人もなしに、一生の蓄えをわたしの手に託し」たと、自分がいかに信用できるか話しているとき、奥さんの女中がはいってきて、旦那様がかえってきたとさけびました。と、奥さんは宝石をかきあつめてバッグにおしこみ、あわてて、カディに別れをつげると、家に帰って急ぎました。一瞬のあいだカディは、なにがなんだかわからないでいましたが、ペテンがペテンで報いられたのだと気がつくと、ひげをかきむしってくやしがりました。


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