ムギと王さま/ファージョン・作 石井桃子・訳/岩波少年文庫/2001年
壁も天井もカーテンも白、敷物は白いヒツジの皮でゾウゲでできた白いベッドにすむ女の人は、自分の部屋が世界中で一番美しいとおもい、それはそれは幸せに暮らしていました。
ところが窓から外を眺め、庭で小鳥たちのなく声を聞いて、きゅうに大きなため息をつきます。
すると窓じきいの上に手の指ほどの大きさの妖精がたっていました。「白一色の部屋にあきて、もしこの部屋がみどりだったら、ほんとにしあわせになれるのに!」というと、部屋は壁も天井もあっというまにみどりにかわってしまいます。
ある日のこと庭の花のにおいをかぎ、きゅうにため息をつきます。するとまた妖精があらわれ、おくさまが「みどりの部屋にあきあきたしてしまったのです。ほんとにおねがいしたのはピンクの部屋なのよ」というと、こんどはピンクの部屋に。
ピンクの次は金色の部屋、そして黒い部屋です。
「おくさま、あなたは、ごじぶんが何をほしいのか、わからないのです!」と妖精はいいます。
そして、黒い部屋に帰ると、壁はぬけ、天井はふきとび、床はおち、おくさまは家もなくやみのなかで星をいだいてたっていました。
もっといいもの、もっといいものと求めていっても、本当に望むものを手に入れることができるかは疑問です。