茨城のむかし話/茨城民俗学会編/日本標準/1975年
ある貧乏な夫婦が、夜なべでわらじをつくっていると、急に地震みたいに家が揺れ、バリッとばかり天井をぶち抜いて、骨と皮ばかりにやせた、ちっちゃなじいさんがあらわれたと。
おじいさんは貧乏神で、「おまえのところは土地が少なく、家も小さいという貧乏暮らしだから、ここにながく住みつくつもりだったが、お前たちが働き者で、まじめにせっせとかせぐので、どうもすみにくい。よそにいくことにした。」といい、つづけて、「今夜の四つどき(午後十時ごろ)むこうの山をすずをつけた馬が通るから、おまえたちはこれからいって、その馬の横腹を竹やりでつきだせ。」というと、ふうっと消えてしまった。
へんな話だとおもったが、神さまのいいつけならと、貧乏神のいうとおりにすることにしたんだと。ありあわせの竹の棒で竹やりをつくり、一本の木の下でしゃがんで、その馬をまっていると、たしかにひづめの音がして、木の方に近づいてくる。馬が目の前にきたので、男が夢中で飛び出して馬の横腹めがけて竹やりをつきだした。するとたまげたことに、馬の腹から、なにか、きらりときらりとひかりながら、チンカラリン、チンカラリンと、あとからあとからこぼれおちるものがあったんだと。よくよくみれば、それは小判だったと。きがつくといつのまにか馬はいなくなっていたそうだ。
ふたりは、小判を拾って帰って、いっぺんに大金持ちになっちゃったつうだがな。
竹やりでつきさせと、びっくりさせて、落としどころは昔話らしい。貧乏神だって、えらぶ権利があると主張するのが、ほほえましい。