入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’23年「秋」(54)

2023年10月24日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 久しぶりにテイ沢、そしてついでに小黒川林道まで足を伸ばした。20年ほど前の秋、今ごろ、この林道をTDS君と一緒に訪ねなかったら、こうして入笠牧場の牧守になどになることはなかっただろう。もうすぐこの谷は黄金の谷に変わる。
 
 もう少し、法華道に関連したことを呟いてみたい。
 御所平峠を芝平へ向けて少し下ると、この古道・法華道に合流するように上ってくる1本の山径がある。種平小屋の夫婦が開いて整備を続けていた径で、下れば「カンバの岩場」を通り、種平小屋を経由して赤坂口に達する。

 
 
 残念なことに、種平小屋は主が体調を崩して2年ほど前に営業を続けることを断念した。しかし、夫婦二人で作った道標や標識布が各所に残っていて、彼らの努力、苦労の跡が今も偲ばれる。
 最近は標識布と言っても大概がビニールテープで、林業関係者も同じことをするから判別するのが難しくなっている。しかし、この人らの標識布は文字通り布である。それにも彼らの配慮とか誠意を感じる。
 牧場に立ち寄る時はいつも刈払機やチェーンソーなど作業のための道具を携えていた。何の縁もない土地へ来て山小屋を始め、さらに二人は人知れず入笠山周辺の整備をずっと続けてきた。今そんな日々のことを、あの二人はどんなふうに振り返るのかと、ふと、考えたりする。
 
 実はまだ全行程を歩いたことがない。先日は途中の「カンバの岩場」まで行ってみようとしたが、径が急に勾配を強めた所で引き返してきた。いずれ日を改めて下ってみようと思っているが、歩く人も絶えれば彼らの善意であるこの径は早晩なくなってしまうかも知れない。
 
 これはこの山径だけのことではない。法華道だってそうだ。将来のことは後に続く人たちに託すしかないが、安易な観光政策などによって、ここの自然を、環境を、駄目にしないようにと、そのことを切に願っている。
 
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     ’23年「秋」(53)

2023年10月23日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 法華道の草刈りを、昨日は御所平峠から少し下った辺りから始めた。昨年も同じころにやったと記憶している。
 刈ったばかりのクマササの葉や草をゴミ掻きで片付けていたら、たくさんの紅葉したカエデの葉が落ちている所に来た。それまで一生懸命古道を整備していたつもりだったが、これが自然な山の径であって、もしかしたら無粋なことをしているのではないかと気になって手を止めた。
 それでも、人など滅多にしか通らないと分っていても、刈り散らかしたクマササの葉はやはり目障りである。落葉はまだまだ続くから、それから後は自然に任せればよいと思い直して作業を再開した。


    左が旧道、右が新道
 こっちは「旧法華道」とでも言ったらよいのか、近くにもう1本、消えかけた径
があった。わずか200㍍ほどだがこの径こそが旧来からの法華道の跡で、北原のお師匠が切り開いた径とほぼ並行していて、その先で二つは合流している。師もそのことを後になってだが知っていた。
 古道の「山椒小屋跡」を過ぎ、樹林帯の中の曲がりくねった径を抜けると、材木運搬に使った古い林道に出る。現在は、ここから御所平まではこの林道を行くのだが、古道と林道がどのように重なるのか、あるいはそうでないのかについては、残念だがもう誰にも分からないだろう。
 
 昨日は燃料が余ったのでこの径の草も刈ってみることにした。刈っていて気付いたことだが、この径が使われなくなったのはそれほど古い話ではないような気がした。クマササがまだ若く、他の場所のように密生しているというわけではなく、ただ落ち枝のあまりの多さ、そして倒木には閉口した。柔らかな表土を掘れば、別の古い土の層が出てくるかも知れない。(10月21日記)
 
 近いところでは、田の肥料にするため刈敷きを馬に積んで老いた母と息子が夕暮れのあの径を歩いただろうと、なぜかそんな光景が目に浮かぶ。それよりか遥か遠い昔しに遡れば、北条高時の次男である時行が中先代の乱(1335年)を起こす以前にこの辺りに身を隠したと伝えられているから、当然彼も歩いただろう。
 15世紀、日学、日朝両上人が時を変えて日蓮宗布教のために伊那との往還にこの径を利用したとあるし、その結果が、この古道の名の起こりとなった身延山詣での善男善女の姿に繋がったことは言うまでもない。(10月22日記)

 あんな山の中に500年以上も前からあった山路を、わずかな距離でしかないが再び歩けるようにしようと始めたら、結構人を夢中にさせてしまうものだと分かった。師の思いが少し伝わってきた。

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     ’23年「秋」(52)

2023年10月19日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 空に少しづつ薄い雲が懸かり始めた。天気は下り坂に向かっているようだ。恐らく高い山は雪で、さらに根雪を深くしているだろう。
 ようやく喧騒が去り、また牧に静かな秋が戻ってきた。その間にも季節は進み、葉を落としつつある白樺の白い樹幹が一段と目立つようになってきた。他にも、散らずに残ったコナシの赤味を帯びた葉や、黄緑色をした葉の上に、季節は今だけ茶系の色を一色重ね塗りして見せている。巨匠の得意とする、いやそれをも凌ぐ、絶妙な色合いだ。
 
 それにしても日の経つのがあまりにも早い。新しい週が始まったかと思えば、もう週末が来る。まだ先のことだと思っていた予定も、忽ちのうちに過去へ行ってしまう。
 丁度、残り1ヶ月が経てば山を下りることになる。それまでには小屋の冬支度をしたり、水回りの対策もしなければならない。草刈り、道標の作成やその設置、撮影の仕事も残っている。
 そうこうするうちにはここにも初雪が降り、親しんだ人との別れのように短い季節の終幕を識るだろう。山は、寝付かれない夫を無視して寝息を立てる連れ合いさながらに、さっさと冬の眠りに入るはずだ。

 昨年はいつになく12月に2度ほどかなりの量の雪が降り、越年はここへ車で来ることができなかった。多分、年越しに法華道を歩いてきた記憶はないから、昨年は珍しい年だったと言えよう。
 今年はどうなるのか、そんなことを考えているうちに、その日もやはりすぐに来るに違いない。「さよならだけが人生だ」なんて言った人もいたが、今年はしみじみそんな思いを味合わされた秋でもあった。

 何度でも呟くが渋い、本当に。行く手の果てが見えてきたせいもあるが、こういう景色、山の趣は、一人で静かに味わうのがいい。きょうは古道の草刈り、そして座る。野分を思わせる風が強い。

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     ’23年「秋」(51)

2023年10月18日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 青い空、紅葉、どこを見ても秋真っ盛り。これから約半月、そういう気候が続き、山肌は次第に赤味を帯びて、その色がやがて里に下りていく。湿った森、色付いた木々の葉、清冽な渓の流れ、そしてもの思う季節。

 クマの出没、その被害が話題になっている。報道するには恰好の話題かも知れないが生息状況、実態はよく分からないし、識者と言われる人の語ることも格別耳新しいことは何もない。
 クマとの遭遇を避けるため音の出る物、例えば鈴、ラジオなどを持つようにと言われるが、それらがどれほどの効果を持つのか実はよく分からない。ばかりか、逆にクマを誘引する可能性だって考えられるのではないか。
 アラスカでは森に入る前、地元民はヒグマよけに拳銃を空に向けて撃つことがあるようだが、逆にそれが必要以上にクマを刺激させて危険ではないかという論を読んだことがある。
 
 クマは前にも言ったように、わが国では有害獣に指定されていない。捕獲できるのは一般的には11月15日から翌年の2月15日までの狩猟期間内だけで、猟期外に鹿などの罠に掛かった場合は、複雑な手続きを踏んで放獣する決まりになっている。
 よく人里にクマが出没すると、警察、猟友会などが中心になってあたかもクマ退治が行われたかのように報じられるが、しかし、余程の場合を省けば、そうしたクマでも射殺することはない。だから、殺されたと誤解してクマに同情する声が必ず報道機関などに寄せられると聞くが、それは殆どの場合余計な心配である。
 
 この動物愛護というのもクセモノで、クマを単に愛玩動物と同じように考えてる人がいる。確かに子グマの行動には目を細めたくなることもあるが、相手はこっちに向かって攻撃してくる可能性もある危険な野生動物である。そのような動物に単純素朴な愛情を寄せながら、家畜に対してはそうでなくて喜んで食べるのは、捕鯨に反対する某団体と似てはいないか。
 鹿の避妊薬のことを行政関係者に話したら、動物愛護団体やそれを気にする環境省の考え方がひとしきら話題になり、一体いつからわが国の役所はカソリックの保守派と似たようなことを言うようになったのかと呆れた。
 鹿がこれだけ増えたのは、雄鹿の駆除を先行した行政にも責任がある。そのうち、クマが人を怖れなくなりはしないかと心配しながら、クマスプレーを手放さないようにしている。

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     ’23年「秋」(50)

2023年10月17日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 快晴、今朝6時半の気温は5度を切っていた。凄みさえ感じる濃紺の空、いよいよ秋は本領を発揮し、その下に朝日を浴びた山々や広大な眺めが、特に今朝は一段と輝いて見えていた。いや、それどころか、御嶽、乗鞍、穂高、槍・・・、さらに北ア北方の峰々は新雪を山肌に残して、一足先に冬へと移行してしまったようにさえ見える。

 その人はよく知られた女優のようだが、どうしてここは外国のような景色に見えるのかと尋ねられ、返答に窮した。周囲にあまり目にしない木が多いということからの感想だと、後で別の人から聞いた。多分、一群のコナシの木と、視界の半分を占める大きな澄んだ空がそう感じさせたのだろう。
 そのコナシの葉が大分赤みを帯びてきた。病葉となってすでにかなりが散ってしまってなおこの木は、「性悪」などと普段は良く言われてないが、老優の艶やかさを真似て、最後の意地を見せているようだ。

 昨日、半日を懸けて小黒川林道から御所平峠まで、数百㍍の山径の草刈りを終えた。まだ御所平のオタマジャクシの池までの径が残っているが、これはもう少し先になる。
 新品の刈り払い機の歯はよく切れた。よく切れたが、小さな石に当ったくらいでも悲鳴を上げ、火花を散らした。
 いままでの歯が出刃包丁だとしたら、今度の歯は柳刃のように繊細で、しばらくはその違いが気になった。それでも、少しづつ歯は痛めつけられその先を丸くし、使う側の方はその程度に合わせるから、切れ味は少し落ちたがそれでようやく馴染んできた。
 どこかの都会育ちの娘を野良仕事の相手にしたばかりにさんざん気を遣わされ、しかしそれが一日経ったら姉さんかぶりもすっかり身に付きかいがいしく働いてくれるようになった、と言った塩梅か。

 それはそうと、この古道の将来はどうなるのだろう。就中、北原新道を将来も守っていくことはかなり困難なことだと思われる。
 草刈りをした範囲だけでも、伊那市の文字が白く記された杭が何本も打ち込まれていて草刈り作業を邪魔していた。しかし、もう大方、行政に携わる人は誰もそんなことを覚えていない、忘れているだろう。
 北原のお師匠が担ぎ上げた峠の地蔵尊だけが、この先もずっと、この古道の変わりゆく様子を無言で見守るのだろうか。

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