久しぶりに里へ下った。黄金色した稲田が何枚もの豪華な金色の敷物のように広がり、今年もまた収穫の秋が来たことを教えてくれていた。
今の季節ほど、目に見えて時の移ろいを感じさせてくれる時が他にあるだろうか。夏が自然界の繁栄の頂点だとすれば、秋はその盛りを終えて次第に衰えを見せ始める老いの季節、確か「滅びの予兆」を感じさせる季節だと言う人もいた。そこに、無常観という日本人特有の感性が生まれ、共感され、この衰退の季節への愛着がさらに深かまる・・・と、そんなことを今山の暮らしの中で思ったりしている。
ただし、無常観について仏教の本来意図するところは、今を無駄にせずに生きろというもっと積極的な教えであるらしい。とすると、われわれ日本人は時の移ろいの速さに詠嘆して、そこで終わってしまった格好のようだ。
牛がいなくなり、少しは渋い秋の中でゆっくりしたいと思いながらも、現実はとてもそういかない。昨日、囲いの中に入った残留牛4頭をどうやって手懐けるか、これには結構時間がかかりそうだ。必要でなくなった電気牧柵は鹿にズタズタに切られる前にできるだけ早くアルミ線、リボンワイヤーを外し、小入笠のような急な斜面は雪で支柱が折られないよう抜いておかなければならない。
第2牧区のカヤはもう1回刈り込めば、生えてこなくなることが分かっている。農業実習で東部支所の職員にも手助けして貰ったが、もう少し丁寧に刈り直しておいて冬を迎えたい。それに撮影の大型企画があり、これも手を抜けない。
水場や小屋回りの仕事もあれこれあるし、そうそう今週末は山小屋に2組6人の予約も入っている。追いかけて、露天風呂も沸かすようにとのお達しも届いた。
キシャヤツデの死骸がいたる所で目に付く。この白い1センチにも満たない小さな生き物は7年に1回大量発生すると聞いているが、前回からそんなに長い年月が経ったということだろうか。まだ2,3年前のことのような気がするが、こんな虫を研究するかなり年配の女性と出会ったことを覚えている。
大阿原を伊那側の地元の人の中には「ヒルデエラ」と呼ぶ人がいる。北原のお師匠もその一人だった。もしかすれば、このキシャヤツデをヒルと見間違い、あるいはその一種と思い、こんな名前が付けられたのかも知れない。ウーン、しかしヒルには足などはないし、これは無理なこじつけになってしまいそうだ。
落葉を土に変える上で大いに貢献してくれるのだとか。
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本日はこの辺で。