入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’23年「秋」(32)

2023年09月22日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 

 久しぶりに里へ下った。黄金色した稲田が何枚もの豪華な金色の敷物のように広がり、今年もまた収穫の秋が来たことを教えてくれていた。
 今の季節ほど、目に見えて時の移ろいを感じさせてくれる時が他にあるだろうか。夏が自然界の繁栄の頂点だとすれば、秋はその盛りを終えて次第に衰えを見せ始める老いの季節、確か「滅びの予兆」を感じさせる季節だと言う人もいた。そこに、無常観という日本人特有の感性が生まれ、共感され、この衰退の季節への愛着がさらに深かまる・・・と、そんなことを今山の暮らしの中で思ったりしている。
 ただし、無常観について仏教の本来意図するところは、今を無駄にせずに生きろというもっと積極的な教えであるらしい。とすると、われわれ日本人は時の移ろいの速さに詠嘆して、そこで終わってしまった格好のようだ。

 牛がいなくなり、少しは渋い秋の中でゆっくりしたいと思いながらも、現実はとてもそういかない。昨日、囲いの中に入った残留牛4頭をどうやって手懐けるか、これには結構時間がかかりそうだ。必要でなくなった電気牧柵は鹿にズタズタに切られる前にできるだけ早くアルミ線、リボンワイヤーを外し、小入笠のような急な斜面は雪で支柱が折られないよう抜いておかなければならない。
 第2牧区のカヤはもう1回刈り込めば、生えてこなくなることが分かっている。農業実習で東部支所の職員にも手助けして貰ったが、もう少し丁寧に刈り直しておいて冬を迎えたい。それに撮影の大型企画があり、これも手を抜けない。
 水場や小屋回りの仕事もあれこれあるし、そうそう今週末は山小屋に2組6人の予約も入っている。追いかけて、露天風呂も沸かすようにとのお達しも届いた。

 キシャヤツデの死骸がいたる所で目に付く。この白い1センチにも満たない小さな生き物は7年に1回大量発生すると聞いているが、前回からそんなに長い年月が経ったということだろうか。まだ2,3年前のことのような気がするが、こんな虫を研究するかなり年配の女性と出会ったことを覚えている。
 大阿原を伊那側の地元の人の中には「ヒルデエラ」と呼ぶ人がいる。北原のお師匠もその一人だった。もしかすれば、このキシャヤツデをヒルと見間違い、あるいはその一種と思い、こんな名前が付けられたのかも知れない。ウーン、しかしヒルには足などはないし、これは無理なこじつけになってしまいそうだ。
 落葉を土に変える上で大いに貢献してくれるのだとか。

 本年度の営業案内については下線部をクリックしてご覧ください。
 小屋の電話が不通でご不便をおかけしてます。予約、問い合わせは何卒JA上伊那東部支所組合員課、電話0265-94-2473にお願いいたします。
 本日はこの辺で。

 

 
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     ’23年「秋」(31)

2023年09月21日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 今にも雨が降り出しそうだ。雲高は低く、その量もかなり厚そうに見える。入笠山と権兵衛山の鞍部に当る「仏平(ほとけだいら)」の上空には気流の影響で雲が湧きやすく、今朝もここから見える権兵衛山の東側、富士見側の山腹は、次々と湧き立つ雲の中で、風も強い。
 ここ数日の間に落葉松の葉は褪色して茶色を濃くし、コナシの葉は黄色が目立つようになってきた。これからますます樹々の葉は茶系統の色に変わり、短い秋は終局に向かってさらに多彩な演出を見せてくれるだろう。

 昨日のこと、「あまり大勢で追えば、牛は興奮して暴れ、手を付けられなくなる」という意見もあれば、「みんなで協力して、一発勝負で決めるしかない」と言う者もいた。どちらの主張も一理あるが、できれば大事(おおごと)にせず静かに囲いへ誘導したかった。
 しかし、そこに居合わせた者がただ傍観しているだけともいかず、結局全員参加の大捕り物となってしまった。すぐにそれを察知した牛はその警戒感を最高度に上げ、狂ったように逃げ回り、最早家畜と言うよりか狂暴極まりない黒い野獣となってしまっている。
 逃げる牛、それを追いかける人たちの嬌声、怒声、4頭の和牛は頭に血が昇り、林の中や草原を走るはしる、止まらない。牛は馬と違って、両手を広げてもそのまま走り続けるから、下手をすれば跳ね飛ばされる。
 4頭のうち比較的懐いていた32番に期待したが、あの牛も他の牛と一緒になって逆上し、全く手の施しようがない。ついには牛よりか人間の方が疲労困憊し、それ以上の追跡を断念するしかなかった。仮に囲いの中に追い込めたとしても、あの牛の興奮状態はそう容易には治まらず、とてもトラックに積み込むことなどできなかっただろう。
 今年もそんな大騒動があって、下牧は中途半端な形で終わった。
 
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     ’23年「秋」(30)

2023年09月20日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

 
 昨日、牛たちはそれぞれが里の牛舎へ帰るため山を下っていった。ただ配車の都合で、乳牛10頭ばかりがパドックに、それに山を下るのを拒否した和牛が4頭、まだ残っている。
 和牛は1頭が一昨日の集牧に遅れてまだ囲いの外にいて、囲い内の3頭の和牛は案じていた通り逃げ回り誘導に応じようとしない。この4頭、8月の中間検査に入牧した要注意の牛たちだった。
 
 今、朝一番で様子を伺いにいくと、囲いの中にいたはずの牛の姿が消えていた。罠用のゲートを開けたままにしてあり、そこから第4牧区へ出てしまったのだろう。
 昨日は撮影の打ち合わせも予定に入っていて、途中から現場を離れていた。そんなこともあって、こうした不手際が起きてしまったということか。それはどうあれきょう、広い牧区で牛を見付け、さらに誘導、下牧にまで持って行くにはかなりの苦労が予想される。
 僅かの頭数の牛に手を焼くのは腹立たしいが、逆に頭数が少ないからこうしたことも起きる。牛は群で行動したがる。

 典型的な朝食ながら焼鮭、納豆、ほうれん草のおしたし、キノコ入りの味噌汁がきょうのの予定だった。しかしそれが面倒になって、簡単にレンジで温めるタイ風のカレーにした。もう早々とトラックが2台、牛を降ろすために上がってきたせいもある。
 食の内容にそれほど拘ってはいないが、テレビを見ていると健康や薬の宣伝の多いのに驚く。雑誌などでも健康問題をよく取り上げているが、それだけ読者の関心が高いということだろうか。
 塩分を抑えて、甘い物を控え、となれば日本酒もそうだとか、あるいはビールはプリン体がどうだとか、ややこしい話にすぐなる。しかし、いくら健康に気を遣っても、いずれは10の33乗という永遠が待っている。
 秋日和の中で、牛を追っていられるきょう一日に感謝しながら、そろそろ外へ出かけよう。牛共はどこにいるのか。

 結局、4頭の和牛は逃げ続け、今はどこかに潜んでいるにしてもかなり興奮していて危険で、残留させることになった。ここからは牛守の調教次第、11月の出産までには充分に間に合うようにしてやりたい。

 赤羽さん、通信ありがとう。今が一番?
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     ’23年「秋」(29)

2023年09月18日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

   へそ曲がり、他の牛はすぐ傍の塩場へ集まっているのに
 
 なぜ突然にこの呟きを中止したのかと、幾人からか問い合わせの電話を頂戴した。身体を悪くしたのかと、心配してくれる人もいた。確かにこの年齢で一人だけで山の中に暮らしていれば、思いがけないことも時には起こりうる。
 しかし体調に格別の変化はなく、相変わらず牛の世話をしたり、牧柵の修理などをしながらいつもの秋を、変わらぬ日々を送っていた。
 ところが或る日、これまでのように風が吹いた、空が広い、鳥の声がする、牛が、鹿が、どうしたこうしたというようなことを呟く気力をすっかり失ってしまうような出来事があった。あったが、そのことについてここでは触れないでおきたい。
 
 気持ちの和むいい秋日和だ。空はあくまで青く、深く、そこに浮かぶ雲は同じようにあくまでも白い。第2牧区の乳牛たちは群を割ることなく乏しくなった草を食べ続け、他方、和牛は囲いを出ればまだ第4牧区にはふんだんに牧草が残っているというのに、なぜかそこに留まろうとはせずに帰ってくる。
 今年は下牧をいつもの年よりか早くし、9月の19日と決めた。牧草の状態以外に、里の都合で10月に入れば市場の仕事が忙しくなるらしく、仮にそこまで牛たちを置いてみても放牧料などは高が知れている。下では煩わしい仕事は早めに切り上げたかったのだろう。

 牛がいなくなっても、牧を閉ざし、山を下るというわけにはいかない。伸び始めたカヤを刈ったり、牧柵の補修が待っている。また、今では牧場の大事な収入源になってしまっている撮影、それもかなり大きな企画が決まっている。それに何より深まりゆく秋、「姫君の秘められた恋」と形容した紅葉を求め、あるいは黄金の谷を目指してここへやってくる人たちもいるだろう。
 これからちょうど2カ月先、遠い山に雪が降り出すころの11月の19日までは、牛のいない牧の仕事に精を出すことになる。それにしてもこういう生き方、わがことながら不思議に思う。

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     ’23年「秋」(28)

2023年09月07日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 
 

 日頃はこの「入笠牧場その日その時」を見て、聞いてくださり、ありがとうございます。
 突然ですが都合により、この独り言を1週間ほど休むことにいたしました。再開後はまたよろしくお願いいたします。
 なお、山小屋、キャンプ場の営業は、下記の期間を省き従来通り続けますので、深まりゆく入笠の秋を訪ねて是非お出掛けください。

 他にも幾つかお知らせがあります。
 1)9月11日から15日までは、8時から17時の間、道路工事のために千代田湖手前で通行止めになります。この間、伊那側から入笠へ来る方法は唯一、杖突峠より晴ケ峰カントリー俱楽部、千代田湖の経路しかありません。ご注意ください。
 2)9月30日から10月5日、及び10月16日から18日まで、申し訳ありませんが山小屋、キャンプ場の営業を休止いたします。何卒、この間を避けてお出でください。

 以上よろしくお願いいたします。
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