今にも雨が降り出しそうだ。雲高は低く、その量もかなり厚そうに見える。入笠山と権兵衛山の鞍部に当る「仏平(ほとけだいら)」の上空には気流の影響で雲が湧きやすく、今朝もここから見える権兵衛山の東側、富士見側の山腹は、次々と湧き立つ雲の中で、風も強い。
ここ数日の間に落葉松の葉は褪色して茶色を濃くし、コナシの葉は黄色が目立つようになってきた。これからますます樹々の葉は茶系統の色に変わり、短い秋は終局に向かってさらに多彩な演出を見せてくれるだろう。
昨日のこと、「あまり大勢で追えば、牛は興奮して暴れ、手を付けられなくなる」という意見もあれば、「みんなで協力して、一発勝負で決めるしかない」と言う者もいた。どちらの主張も一理あるが、できれば大事(おおごと)にせず静かに囲いへ誘導したかった。
しかし、そこに居合わせた者がただ傍観しているだけともいかず、結局全員参加の大捕り物となってしまった。すぐにそれを察知した牛はその警戒感を最高度に上げ、狂ったように逃げ回り、最早家畜と言うよりか狂暴極まりない黒い野獣となってしまっている。
逃げる牛、それを追いかける人たちの嬌声、怒声、4頭の和牛は頭に血が昇り、林の中や草原を走るはしる、止まらない。牛は馬と違って、両手を広げてもそのまま走り続けるから、下手をすれば跳ね飛ばされる。
4頭のうち比較的懐いていた32番に期待したが、あの牛も他の牛と一緒になって逆上し、全く手の施しようがない。ついには牛よりか人間の方が疲労困憊し、それ以上の追跡を断念するしかなかった。仮に囲いの中に追い込めたとしても、あの牛の興奮状態はそう容易には治まらず、とてもトラックに積み込むことなどできなかっただろう。
今年もそんな大騒動があって、下牧は中途半端な形で終わった。
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