スウェーデン音楽留学サバイバル日記 ~ニッケルハルパ(nyckelharpa)を学ぶ

スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパを学ぶため留学。日々の生活を様々な視点からレポートします。

お湯で曲げる

2007-03-18 23:36:58 | 楽器製作
今日は朝から雪。
自転車を雪の中こいでいくと、エスビョン宅には本日もお客さんが。
一人は朝やってきた小さなお客さん。
エスビョンの奥さんにピアノを習いにきた近所の子。
夕方には、ピアニストでギタリスト、ニッケルハルパも弾く人がやってきた。
名前を何度きいても覚えられない。色んなバンドで弾いているらしく、エスビョンに「知らないの?」と言われた。


ふと、その人の持ってきた弓をみると、例の(何度もブログで書いた)フランス人の弓を持っている!
私も注文中だけど、エスビョンは好きではないみたい。
伝統的なウップランドの力強い曲に向かないというのが理由。
エスビョンはウップランド地方の古くからの伝統にこだわりがある人なので当然だと思う。
このフランスの弓はエレガントで繊細な感じで全くスウェーデン的な感じがしないのだ。

今日もランチをごちそうになった。
何か手伝いたいと言うと「じゃあ、フライパンで肉を焼いているから加減を見てて」と。
見ると、ステーキがドカっとのっていた。
ひっくり返そうとすると「あぁ、ダメダメ!高温でしっかり片面焼いたらそれからサッとひっくり返す!」
はーい。仰せの通りに。ここでも指導が入ります。
いい具合に肉が焼けてきた。
するとエスビョン、濃口しょうゆをどばっとフライパンに。
あら、日本的?
と思ったら、次に生クリームをどばっ。
あら、これは何?そして「蓋して!」と言われ、落し蓋。
しばし、ぐつぐつ。
そして280度のオーブンでカリカリになったポテトを取り出しテーブルに。

どんな味なんだ?しょうゆと生クリームって?とおそるおそると食べてみると、
ん!?おいしい!何の違和感もない。
肉も外国にありがちなガムみたいな固い肉ではなかった。

エスビョンの家は100年以上も前の家を買い、自分でリフォームしている。
なのでキッチンの火は木を燃やすタイプ(もちろん電気も隣においているけど使ってない)。
左上の写真がその様子。その写真の上部には釜も写っている。
ここでパンやピザも焼ける。

食後は余熱でお湯をわかす。
なんのためかというと、そう。ニッケルハルパの上部板にカーブをつけるため。
以前から「お湯で曲げる」と聞いていたけどさっぱりイメージがわかなかった。

この時、ニッケルハルパ製作とバイオリン製作の話をした。
どう違うか。それぞれの作る魅力とは。
そして、今日はじめて知った。バイオリンのカーブは全て手で掘っていると。
すごい作業だなぁ。そしてクレモナ・バイオリン製作の話、ウップランド地方のニッケルハルパ職人との類似点についてなど...。
ここで紹介できるほど話を深くは掘り下げなかったけど、興味深い話。

そしてニッケルハルパのたどった過去と現在の話。
いくつも本が出ているけど、職人の視点では書かれていない、楽器のことを全く知らない人が書いていることが読むと分かると、エスビョンが言う。
また、「コントラバスハルパ→シルベルバスハルパ→現在のクロマチックと発展していった」という見方を一般的にするけど、厳密には「発展ではない」という意見。
シルベバスハルパの欠点がその後のクロマチックに受け継がれ、現在はコントラバスハルパの忘れられてしまった良い点を取り入れて「復興」という逆戻り発展であるという考え。
実際、エスビョンの楽器の音色が変化していっているのもコントラバスハルパ的に戻りつつあるのだ。
作り手側からみた楽器の流行というのか、「変遷」というものが無視されていて楽器の本質に触れていないと嘆いていた。

さてさて。
写真のように高級スプルースを木箱にいれ、熱湯を注ぎ5分ほど放置。
注意するのは板が浮かないようにすること、それからビニールで覆って湯気を逃がさないこと。
熱湯で柔らかくなった板を取り出し、欲しいカーブに合わせて作った土台にしっかりとおさえつけ、添え木をあて紐で縛る。
この押さえつける時に素人は板を割ってしまうことがよくあるらしい。
この方法は職人それぞれだけど「熱湯でカーブさせる」のはみんな共通だと言っていた。
(エスビョンからキットを買った人は、この土台部分は一緒についてこないけど、こういう土台と分かるように写真をCD-Rでくれるそう)

この状態で2、3週間放置。
カーブが安定するまで時間がかかる上に、来週末からエスビョン一家はスキー旅行に行ったり次の週末も色々あるそうなので、製作もしばし小休憩

それかr、このカーブした板がのる本体のほう、先週私がおそるおそるナイフで整えた部分にエスビョンが最後の仕上げをした。
写真は棒のようなヤスリ?みたいなもの。
この後、紙やすり(60)で仕上げます。

夕方には、お客さんで来ている名前のよく分からない人とエスビョンが演奏しはじめてしまった。
エスビョンの0歳の子とお客さんが連れてきた子をあやしながら演奏に聞き入っていたら、ふと外を見るともう薄暗い。

いかん!自転車なのでもう帰らねば!するとおいしそうな匂い。
「夕ご飯の用意できたけど…」と言われた。
でも、甘えっぱなしで悪いし暗くなるし、やはり帰ることに。

エスビョンの家から、まず野原をしばらく進むと中世の教会と湖が左手に見える。
そこを左折し、また野原。
街灯のある小さな森を抜け野原を進む頃には、日の出前の青白いような薄暗さになっていた。
でも、明るいうちに帰りたかった理由の「森」がここからはじまる。
私が勝手に「小人の森」と呼んでいる。
数メートルある見上げるほどの高さのモミの木の中をアップアンドダウンしながら続くクネクネ道。
森を抜けてしまうまで街灯は無い。家も無い。
そして日当たりも悪いので道には雪も残っている。
周囲に木以外に何一つ無いので大きさを比べる対象が無い。
見上げるような木に囲まれ、自分が小人になっておとぎの世界に迷いこんだような気がしてくるのだ。
ともかく、坂を越えたとこで車にでもはねられたら洒落にならないので必死で自転車をこいだ。
最後の坂をびゅーんと降りると、野原と街灯が見えてきた。
「TOBO」を指し示す標識も見えた。
そして林とまばらな民家を抜け、赤い伝統的な古い家の集落を抜けると見慣れた景色。学校に到着。
ただいま!
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