スウェーデン音楽留学サバイバル日記 ~ニッケルハルパ(nyckelharpa)を学ぶ

スウェーデンの民族楽器ニッケルハルパを学ぶため留学。日々の生活を様々な視点からレポートします。

ダニエルの来日。ああ、日々、精進…

2018-11-27 13:26:44 | ニッケルハルパ

ニッケルハルパ奏者のダニエル・ペテションが来日し、合宿に行ってきました(ニッケルハルパ協会主催の年に1度のイベント)。私は協会イベントに行くは初めてだったので、ニッケルハルパ仲間が集う上に個性派が粒ぞろいで楽しすぎて、夜は守衛さんに止められるほど深夜までしゃべり続け、二日目でダウン。歳かな~。でも私が泊まっていた部屋だけ冷蔵庫みたいに寒くて冷気が漂っていたせかも(※霊気ではありません)。

 

これも前回書きましたが、ダニエルはニッケルハルパ奏者の中でダントツ、頭一つ抜けていると個人的に思っています。「○○に長けた~」という個性も才能も豊かな奏者は多くいますが、非の打ちどころのない美や生まれもったものを感じるのは彼だけです。伝統音楽奏者というよりも、職人で、芸術そのもの本人は「生まれ持ったものではなく全ての人が努力で到達できる」と言いますが、彼が若かりし頃すでに完璧だったのを知っている私としては努力と聞いていて空しい気持ちになってしまいます。でも、滞在中に話した色んなこと、レッスンの内容から、その美を生みだす精神世界の手がかりを垣間見ました。内容が濃いのでレッスンの話は追々書いていきます。(ちなみに、私が思う、他に「頭一つぬけてダントツ組にいる人」はダーヴィッドです。)

それにしても、ダニエルのファンは結構いまして、あちこちからコンサートしないの!?という声が寄せられました。数年前から日本に来たいと相談されて模索していたのですがライブ開催まで力及ばず…ファンの皆さま、ごめんなさい。今回、お尋ねすると快く合宿レッスンの企画してくださった協会の皆さま、ありがとうございました!午前2時間、午後2時間、夜も個人レッスンを約3日間(最後にミニ演奏会)。ダニエルはスウェーデンに行ったからといって簡単に会える人ではなく今回の来日はとーっても貴重な機会でした。

ファンの方は10年以上前のマンドーラとのデュオ活動時代からの方もいますが、今もamazonで売っているOcoraから出ているCDが最初に聞いたニッケルハルパで感動したという人もいます。「あのCD、Amazonで手に入るし、ニッケルハルパのCDとして一番有名かもよ!?」と私が言うと、苦い顔をするダニエル。おもしろいエピソードを教えてくれました。(Ocoraは、フランスの国営ラジオの有名な民俗音楽レーベルです。)

Ocoraのスタジオは、アコースティックなレコーディングにベストな音響となるようとても特殊な作りをしているそうです。あのCDのレコーディングでは、そのために集められた他のスウェーデン人ミュージシャンとも初対面。やあやあ、はじめまして!という状況の中、「はい、君はここに立って。あなたは、部屋のあちら側にたって。君は反対のこちら側…」と、てんでバラバラ、部屋の色んな位置に立たされたんだそうです。そして、Ocoraは録音したものを未編集で仕上げることで有名で、音は一切触りません。だから、初対面な上に、他の人と呼吸を合わせる距離で弾けず、弾き始めたら最後まで最高の演奏をしないといけない、ものすごくやりにくくて大変なレコーディングだったんだそうです。(それでも、あのCDを聞くと、ノーカット、未編集なんて信じられないクオリティ…)

ちなみに、最後のグループレッスンの質問で、私が「一人で練習してうまく弾けても、ステージで緊張したらそんな完璧なボーイングなんてできない」とコツについて質問をしました。すると、そのOcoraのレコーディングの時のエピソードを話してくれました。あの大変な状況下で「あー、やっとここまで弾けた。後少しで終わる、後4小節!」と思った瞬間、ヒドイ間違いをやらかしたんだそうです。「演奏中に悪魔のささやきを聞いてはいけないよ!演奏中は無心でいることが大事なんだ」と言っていました。

教えてくれた緊張を解くコツ

・まず、自分が緊張していることを自覚する。自覚することが何よりも大切。

・次に体を大きく開くこと。緊張すると、ボクサーのポーズ(守りの姿勢、戦う構えの姿勢)になる。つまり、鎖骨、胸など前面の筋肉が内側に萎縮し、頭/首が少し前にでる。この姿勢を取ると、守りの姿勢というシグナルが神経回路から脳に送られ、脳が筋肉に指令をだすというネガティブなループに陥ってしまう。だから、逆に胸を開いて体を大きく開く。そうすると、脳に、守りの状況ではないという偽のシグナルが送られ(脳がだまされ)筋肉の緊張が解ける、ということ。

・演奏中は、邪念をすて無心でいること。(自分でストーリーを作って表現するのも良い。細かい装飾音も一音ずつを意識しないこと。※詳しくはレッスン内容で書きます)

すごくロジカルな説明に納得してしまいました。

で、実践した効果はどうかというと…全然ダメ!!

最終日の最後に皆の前で弾きませんか、と会長さんに言われ、すっかり狼狽えてしまいまして。私の場合は、緊張スイッチが入る時と入らない時があって、それを自分でコントロールできないという悩みを抱えているんです。で、今回、ドはまりしました。泥沼にずぶずぶ…って感じです。(めげてます。立ち直れないかも…

でも、ある意味、ダニエルの言っていることは正解かもしれません。緊張していると自覚をし、体を開くと不思議と力が抜けました。そして、大丈夫かも?!さあ弾こうと身構えると(楽器のホールド的に内向きの姿勢になる)途端に緊張が蘇りました。

ずっと避けてきたこの緊張スイッチについて、今こそ向き合わないとダメなんじゃないかって、改めて考えてみました。今まで、演奏直前になると「私は凄いプレーヤーなのだ!」と自分に言い聞かせて思い込ませて、つまり演技をすることで無心になれていたんです。その心構えの準備なく、演技が場にそぐわない状況では、できません。だから「ウソによる無心」という方法に限界があるのでしょう。生の自分と対面する恐怖がそのスイッチなのかもしれない。だから、ダニエルのいう「緊張していると自覚せよ」というのは、現状を認知するだけではなく「己を認めて受入れよ」ということまで含んでいるのかもしれません。

ダニエルは毎日、瞑想をしているそうです。その話を他の人としていて「私もメイソウが必要よねぇ」と言うと「迷走ですか?」と聞き返されました。そう。迷走なら日々してます。

演奏はメンタルが強くないとできないとはよく言いますが、いい歳してやっと初めて言葉通りの意味を自覚したのでした。

日々、鍛錬あるのみ、ですな。

ワークショップ参加者の方で「あの時のあれ、何て言っていたの?」という疑問、質問がある方はちょっとしたことでもお気軽にお尋ねください。ほぼ全てメモまたは録音で残しています!連絡先は会長さんや誰かに聞けばすぐに分かります。

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