ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

さようなら・ババ・・・13  (第3話・出店のババ終り)

2005-03-08 | 第3話 出店のババ
 5月に入ると熱さは耐え難いほど厳しいものになった。と同時にババの商売も厳しさを増しているようだ。別館下へ行くとババは1人で走り回っていた。そんなババの動きを他のサドウ達は冷めた視線で追っている。ババは長い棒を手に持つとガンガの中へ入って行った。河の中には浮いた飛び石がありその上にババは乗って流れてくる供物舟を棒で引き寄せようとしている。直径50センチメートルくらいもある大きな供物の流し舟だ。ここリシケシでは滅多に目にしない大きな供物舟に何か金目の物が入っているに違いないとババは思ったようだ。長い棒で供物を引き寄せることに失敗したババは服を脱ぎ腰巻ひとつで泳ぎだした。インド人が泳ぐのを見るのは初めてだ。どこで泳ぎを覚えたのかババの動きはぎこちないが、それでもやっと供物舟を岸へ引き上げた。供物の花を横へ出し舟の中を調べるババ、だが何も入っていなかった。花を元へ戻し舟を再びガンガに流すババは少し照れくさそうに皆の方を振り向いた。小柄で痩せたババの身体は悲しそうに見えた。
 ガンガ沿いの小道を歩く巡礼者の数がめっきり減っている。これでは商売にならないだろう、素人のぼくの目で見てもはっきりそれが分かる。ババは時々、シュリナガールという聖地の名を口にするようになった。リシケシの上流にあるらしいがどんな聖地なのかぼくは知らない。何度かババはそこへ行っている様子で商売のことを考えているのだろう。まだそこへ行くには時期的に早いと思っているのか、その前に1度ハルドワールへ様子を見に行くと言った。
 ハルドワールはリシケシから20㎞くらい下流にある有名な聖地だ。町とガンガを見渡せる展望台があるがそこへは何とロープウエーで行けるのだ。聖地であると同時に観光施設も整いインド人に人気のある町だ。ガンガ沿いには寺院とガートが並びそれに土産物店や露店がひしめいて商いをしている。リシケシはサドウにとって大切な聖地と言われているだけに一般巡礼者の参拝は少ない。ハルドワールを巡礼するのなら距離的に近いのでついでにリシケシもという巡礼者が立ち寄っていく程度の聖地だ。吊り橋のラムジュラとガンガの渡しボートがあるくらいでダラムシャーラ(巡礼者宿)も土産物店も少ない。ここで商売にならないからといって流れの露天商がハルドワールへ行って店を開くのはそう簡単なことではない。乞食でさえ座る場所が決められているくらいなのだから。
 出店のババは明日の10時頃ハルドワールへ出発するとぼくに言った。商売ができなければ生きてはいけない。ババと一緒にいたいがババにはババの考えがあるだろう、ぼくにはそれを止める理由はない。夜、ぼくはパパイヤを1個持って別館下へ行った。ババとの最後の夜だ。チラムが回る。ガンガの涼しい風がぼく達に優しい。シャンボー・・・
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1 コメント

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ほっ (さと)
2005-03-11 17:14:41
このお写真ほっとします。気がつきました!

tomyさんの小説には温かい愛があります!
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