ガンジス・河の流れ

インド・ネパール。心の旅・追想

その後    帰国・・・3

2019-03-14 | その後・帰国

「怖いのか?”ドラッグの最後のトリップは死であるという微かな予感を持っている”と言ったのはお前じゃないのか?」
「それは分かっている。だが俺はまだ耐えられる」
「何故、耐えるのか。もう十分にドラッグをやったじゃないか。日本ではできない。これから先、生き続けてもスタッフより楽しいものを得ることはないだろう」
「笑っているのかお前は、好きにしろよ。だがお前と生きたのはたかが5年足らずじゃないか。その何倍もお前なしで俺は生きてきた。これからも生きていける」
「お笑い種だ。デリー刑務所で首を吊ったのは誰だ。ランジャンと買った注射器で高濃度のスタッフ液を腕に打ったのはお前じゃないか。お前の脳に咲いた真っ赤な花は蓮華ではないケシの妖しい花だ。お前が逃亡し逃げ切ったのはインド警察だけだ。ドラッグにとっては国境も人種も何の障害になりえない。人間がいるところなら何処にでも俺は風のように忍び寄ることができる」
 ベランダの手すり越しに眼下を見た。ほの暗い街路灯がレンガ敷きの歩道を照らす。汚れた青の信号が10回点滅すると歩道を赤に染めた。ボロ雑巾のように潰れた肉体。砕かれた頭蓋骨から流れる液体。再び青が点滅する。
「10・9・8・・・3・2・1・飛べ」
その瞬間”通りゃんせ”のメロディーが鳴り始めた。2月の風は冷たい。部屋へ戻り強く窓をロックしカーテンを閉めた。照明を点け暖房を入れると座椅子に凭れタバコに火をつけた。
「お前はいつも決断ができない。生きることにも死を前にしても・・・。俺はお前につきまとう、俺から逃げ切るのは不可能だ」
朝までこうしていよう。朝になったらもう一度、病院へ行こう。
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