真実一路くんのひとり言

だれがやっても同じやとあきらめず、一歩ずつ
長いものには巻かれず、真実を大切にして。

「同じ世代を生きて」(水上勉・不破哲三往復書簡)を読んで

2007-09-27 | 読書



同じ世代を生きて 水上勉・不破哲三 往復書簡を読んで

―地下茎でむすばれている二つの土台―
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読み終えて、実にすがすがしい思いである。

戦後を代表する一人の作家と政党指導者の交心記録である。

二人の仕事ぶり、活動ぶりがかい間、見えて楽しい。

お互いを思いやる実直な交心が、読む人の感動を与えずにはおれない往復書簡だ。

きっかけは、お互いの「心臓病」であったが、「同じ世代を生きて」、地下茎でむすばれているものの土台を痛感させられた。

 不破夫婦が勘六山の山房を訪問(1995年8月23日)したとき、七加子(不破夫人)さんが「私が見るところ、それぞれの仕事を認めあっているけど、それでいて自分の考えを押しつけたりしない。通じるものがあるとすれば、水上さんの作品の中にあるように貧しい人、苦しんでいる人、いろんな障害をもってる人、そういう一人ひとりの人間への気持ちじゃないかしら…」と話されたとき、水上さんは「そう、目で見えない地下茎でつながっている。ただ、私は泣いとるだけですよ。泣き歌だから、それは通じるんでしょう。小説はその泣き節で読者に喜ばれ、支持をかちえるが、不破さんは泣くのがおいやで政治家になられたと思う。だが地面の下ではつうじるんですよ」と二人が共感しうる思いを述べている。

二人の対談(1999年11月27日、28日)で不破氏はこう語っている。「水上さんはすぐ『私は泣き節だ』とかいうんですが、“泣き節”でも“訴え節”でも共通なのは、社会を弱者の立場から、また底辺の側からみるということ、それがずっと流れているでしょう。…こうして、弱者の立場、底辺の立場から、人間をとらえ社会をとらえ、その角度からそのことの悲しさを描いてゆく。これが水上さんの言う“泣き節”だとしたら、それは同時に、これでいいのか、という“訴え節”になっています。…文学と政治、道はちがうのですが、この点では、水上さんの歩まれてきたこととの共通点というか、接点を非常に感じるんですね」と。

地下茎は「社会を見る角度」という考え方の土台の部分で深く結ばれている。
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もう一つ地下茎で強くむすばれているものは、日本の戦争の問題である。いまその時代をふりかえるとき、あの戦争も他国への植民地支配も、絶対にくりかえしてはならない誤った歴史と見る点で、おなじ見方、同じ気持ちをもっていることが、じかの対談で直接確認できたことを心強く思っている。(不破氏)

1989年の昭和天皇死去のとき、朝日新聞が「昭和と私」という文章を10人の知識人に書かせ(夕刊の連載)、その文章の最後の部分、「平成と改元されても、あやまちの多かったこの人生をひきずってゆくしかないのである。戦争をおこそうとする者にはあとわずかな命ゆえ、命がけで闘わねばならぬとぼくは、1月7日から8日にかけて、ひとり考えた」。(「戦争を呪う今日を生きる 欺瞞の過去に感慨無量」1989年1月13日付夕刊)
 この文章について不破氏は「このとき、追悼の言葉をいっさい言わないで、昭和を総括するというのは、なかなか勇気のある文章ですね」とそして「人の心を打つ強烈な力をもった文章だった」と、自身の感動を述べている。
 

 水上作品の一つに「釈迦内棺唄」がある。若州一滴文庫版の「あとがき」に「この事件は日本人というものが、私もふくめて、いざパニックがくれば、どんなことをしでかすかしれないという、恐ろしい人間業としての残忍さを剥すのである。『花岡事件』にかぎられていなかった。…戦後も40年もすぎると、人には、イヤな暦を破りすてたい気分が生じ、ややもすると古傷を堀だす行為を云々する傾向にある。それでいいのだろうか。この世には忘れてはならないことというものがあって、人間である以上は、何ども何ども語りつがねばならないことはあるものだ。戦争というものを二どと起こしてはならないならば、『花岡事件』は、日本人として忘れてはならないことの一つだ。」と記し、不破さんはそのことを「日本の過去の侵略戦争や植民地支配についての歴史認識が問題になっている今日、これは日本の過去をふりかえるさいに、銘記すべき文章だと思う」と述べている。

 沖縄戦「集団自決」問題での文科省の検定や従軍慰安婦問題など侵略戦争を美化する動きが強まっているとき、水上氏が書いた「戦争をおこそうとする者には、命がけで闘わねばならぬ」は、二人の揺るぎない土台として、地下茎でしっかりとむすばれているのである。

※「釈迦内柩唄」は新日本出版社で新刊発売中




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